うたう             
 木々の紅葉の美しさに目を奪われながら、行く秋を惜しんでおります。
気が付けば、はや師走になっておりました。“光陰矢のごとし”一年の過ぎる速さに驚いているこの頃です。そして我が教室のイベントも無事終了し、生徒共々一息ついているところです。

 私が、ショー当日に着用したニットには、5年前のある思い出があります。恩師である伊藤きぬ子先生が、私が製作したそのニットをご覧になり、「編物協会の総会に着用するため、同じ物を作ってほしい。」と言われ製作したニットなのでした。そして総会には、それをお召しになり嬉しそうに私に見せて下さいました。ご一緒させて頂いた私は同じデザインのニットを着る訳にもいかず、他のニットを着て出席いたしました。
 そしてその時に、広瀬光治先生に20周年記念のファッションショーにお越し頂けないか、お願いしましたが、残念ながら実現に至りませんでした。伊藤先生に応援して頂いたのですが、チョッピリ無念さが残ったニットの思い出でした。
その翌年に、伊藤先生は急逝され、再びもあのニットの姿を見ることができず、そして私のニットも一度も着用することもなく洋服ダンスの奥に仕舞い込んだままになっておりました。

 今年の秋になり、ショー当日の衣装は何を着ようかしら?と思いながら洋服ダンスを開けると、あのニットが目に入りました。「ああ あの時のニットだ!!」と5年前の先生の姿が蘇ってきました。その時に実現できなかった広瀬先生にお越し頂くことが、今年実現した記念として、そのニットを着用することに決めました。5年ぶりに表舞台に登場するニットは嬉しそうに微笑んでいるように見え、ショー当日まで教室に飾っておきました。

 それから数日後、生徒の一人が、「先生と同じニットを着た人に会いました。袖口は少し違っていたけれど、確かに同じです。」と言いました。そういえば「食事の時に汚すといけないから袖口は広くしないでね。胸はないからバストダーツは入れないでね。」と言われたのを思い出しました。またその方の近くに弟さん家族が住んでいらっしゃると言われていたのも思い出しました。先生の没後、たまにあのニットの行方を思いましたが、まさか、生徒さんからその存在を聞かせていただくとは、思いもよりませんでした。おそらくその方のところへ、形見分けとしもらわれていったのでしょう。それにしても、時期を同じくして、2着のニットが登場してきたというのは不思議です。そう思いながらショー当日は、あのニットを着、晴れやかな気分で広瀬先生はじめ皆様をお迎えすることができ、ニットも喜んでいるように思えました。 

 その一週間後のギャラリー風庵のニット展では、多くの皆様がお越し下さいました。そんな中、一匹のハエが私の周りを飛び回り、そして私が移動する度に一緒についてきて、飛んでいました。期間中近くに食べ物があるわけでもなく、季節はずれのユラユラと飛ぶハエを不思議に思いながら、過ごした5日間でした。

 そして今、5年越しの夢が実現した今年のイベントを思い出しながら、ひょっとして、あのハエは、伊藤先生だったのでは・・・
 そうであったらいいのに・・・と思うこの頃なのです。

Fukiko
夢ニット物語 in サクラヒルズで
10月27日(木)のファッションショーで披露いたしました
“KIMONO”に、皆様から暖かい拍手を頂戴いたしました。
ありがとうございました。

春一番
伊藤梨枝子
 
夏彩の浜辺
北本和子

錦秋
川勝弥生

冬Camellia
加藤扶貴子