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気温が下がったかなと感じる朝、セーターを出して着る。久しく会わなかったセーターやベストに手を通すと何がし懐かしい。手で編んだものには独特の温かみがあるような気がする。 |
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若い女性が、男の友達にセーターやマフラーを編む。よほどの仲かと他人は考えるが、思いのほか気楽なところもあるらしい。編みあがらぬ内に別の男性が好きになって針路を変更したなどという話も聞く。編み方が遅いのか、気が変わるのが早いのか。 |
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編み物というのは、実にうまくできたものである。伸び縮みするから着やすい。穴が多いから通気性がある。保温の性能もよい。素材が多様で、色や模様を美しく編むことができる。気に入らない場合には編み直せばよい。 |
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こういうものを、人間は、すいぶん昔に考案した。紀元前のエジプト王朝時代のレース編みが、今も残っているそうだ。14世紀から15世紀にかけて、欧州各地では編み物の全盛期を迎えたという。 |
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「漁業に携わる男達が自ら粗毛でセーターを編み、自分の家を示す独自の文様を編み込んだそうですね」と言うのは、編み物デザイナーの伊藤浩子さんである。水死して発見されても、文様から、どこのだれとわかったという。 |
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日本にはキリスト教の伝来とともに編み物が入ったらしいが、漁網・敷物・籠などは、縄文時代から作っていたことが、出土品から確かめられている。日本語で「編む」と言う時、編み物だけでなく かご・ざる・髪・本と広い範囲に使えるのも面白い。 |
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4歳で編み始めたという伊藤さんは、「つくる喜び」が原動力で、それは本能のようなものだろうと言う。出来ていくのが楽しみで、短調な動作にも苦痛は感じない。奥が深く、挑みたい課題には事欠かないそうだ。 |
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不思議に女性の活躍が多い分野だが、英国には、すばらしい男性の編み物芸術家がいる。 |