サイクロン号について考える

「 サイクロン号について考える 」  富中 昭智 とみなか あきのり

  

       別冊モーターサイクリスト 2006.2  VOICE掲載

 

 

 最高時速400km/h,ジャンプ力30m,動力源は原子力エンジン,馬力は500ps。これは何というバイクのスペックでしょうか? モトGPのオートバイ? 確かにかなり近いものになっている。現在のモトGPマシンなら,最高速度は時速で320330 km/hくらい出るらしい。しかし,馬力は200psほどのはず。しかも,これは原子力エンジンを積んでいる。

 一体何か? 私と同じ世代の人ならすぐに予想がつくに違いない。そうだ。仮面ライダー1号のオートバイ「サイクロン号」のスペックだ。

 そう考えるとモトGPマシンもなかなかのところまで来ていることも分かる。性能が追いつくのも,そう遠いことではないかもしれない。ちなみに,仮面ライダーは,その名のとおり,高性能オートバイにまたがり悪者ども(ショッカーと言った)をやっつける正義の味方だ。

 ただし,老婆心ながら,次のようなことが心配になる。

 さすがに改造人間だけのことはある。500psというとてつもないパワーを自在に操る。今でこそ車なら400500psも珍しくなくなったが,オートバイとなると話は別だ。しかも戦う場所は舗装路の直線ではなかったはず。その多くが工事現場や山間部などの崖など,いわゆるダート。そこでこのパワーは大きすぎて,かえって扱いにくいのではないだろうか。これで思う存分戦えるのだろうか。

 ただ,仮面ライダーの体は改造人間ゆえかなり重いだろう。しかも,サイクロン号自体も原子力エンジンを積んでいるのだから,これもかなりの重量に違いない。500psも適度なパワーなのだろうか。

そして,そのパワーを出しているのが原子力エンジン。交通事故に遭ったらどうなるのだろうか。オートバイは構造上,エンジンにダメージが起きやすい。しかも急いでいるときならスピードも上のとおりときたら,ちょっとした接触や操作ミスで計りしれない大惨事が起きるに違いない。原因を究明したら,実は正義の味方の交通事故のせいだった,などと笑うに笑えないことになってしまう。

 こんな危なっかしい乗り物を誰が作ったのだろうか。仮面ライダー本人? いやいや,やはりそんな専門技術はなかったらしく,作ったのはショッカーらしい。さすがだ。となるとショッカーは莫大な資金を投入したことになるのだろう。

 いや待て。確か,サイクロン号はマフラーから炎を吹き出して走っていたはず。原子炉から炎が出るということは,安全設計にはあまり配慮していないのでは? それに,悪の軍団が環境に配慮しているとも考えにくいか。だが,放射能の危険性については,当時も分かっていたのだから,放射能をまき散らして走っていたら,ショッカーにとっても危ないし,せっかく世界征服しても汚染されていては元も子もないだろう。それに,仮面ライダーが乗り続けていたのだから,きっと環境にやさしいに違いない。

 ということで,ショッカーは,とてつもない資金と技術を投入して,環境に配慮したオートバイを開発したということになる。となると,交通事故のほうも万全の対策をとっていたのかもしれない。

 結論,仮面ライダーに逃げられた上に,サイクロン号まで持ち逃げされたショッカーの首領は,さぞ,くやしかったことだろう。