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真太郎1
(作:hrb35)
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小学3年の真太郎は、日曜日になると必ず朝早く目が覚める。
日曜日の朝は天気に関係なく嬉しいものだ。 雨が降っていなければ
外へ出て、朝のヒンヤリとした空気に触れる。
日曜日の時間がまだたっぷりある事が嬉しくてたまらなかった。
庭にある直径1m程の大きな土管を切って立てた人口池に
近づき中を覗いた。 この人工池は祖父がその中に水を張り、
水中植物を入れていた。 真太郎は近くの川で捕まえてきた
カエルやザリガニを、その池の中で飼っていた。
水は濁っていて、底までは見ることは出来ないが、カエルと
ザリガニを毎日確認している。カエルはよく逃げ出すので、
いなくなるとまた捕まえてきてはペットにしていた。
昭和40年初夏。
日差しが強くなるこの時期、やがて来る夏休みに真太郎は胸が
おどっていた。「はやく夏休み来い・・・」
毎日田畑や川・プールで遊べるのが楽しみなのだ。
1学期の終業式の日、もう休みになった気分で学校に向かった。
終業式お決まりの先生の長い話。
何度も聞いて、わかり切った事をまた延々と聞かされる。
でもこれと、母親のヒステリックな怒号だけを我慢すれば、
あとは天国なのだ。 真太郎は通信簿に興味は無い。
田畑や川での自分の世界が大切だった。
土草の匂い、風、ミミズ、カエル、モグラ、フナ、メダカ、ヒル、
アメンボ、ザリガニ、ゲンゴロウ・・・
それらのそばに居るだけでよかった。
そこでは自分のまわりのすべてが、自分を認めてくれていると
信じていた。 気持ちが通じていると心の底から感じていた。
そこは「逃げ場所」であり自分を守るために必要な世界だったのだ。
両親は真太郎が物心がつく頃に離婚している。 祖父母は
母親と姉と真太郎を家に残し、父親を勘当した。
母親の実家に対する家の体裁を気にした結果だろう。
離婚の翌日に父親は別の女性と婚姻したそうだ。祖父母同席の式だったらしい。 しか
し母親にはこの婚姻は知らされなかった。
なんとも憤りを感じるやり方だ。真太郎はこの家の何かを、無意識の
うちに感じ取っていた・・・好きで無かった。
蝉の声が響き渡る暑い夏の日、プールへ出かける時に母親が言った。
「あんた宿題は?」今の今まで一緒に居て、どうして出かけるときに
なって言うのか・・・。 そう思っても真太郎は何も言うことは
出来なかった。 言葉を返そうがどうしようが、また始まるのである。
今起こっている事が終わるまで、黙ってその場に立って
待つしかない。 真太郎にとって、それが最善の方法だった。
これは今に始まった事ではなく、いつもの事だった。
宿題をやっていない方が悪いのはわかっていた。
しかしそれ以上に、今になって言うことを責めたい気持ちだった。
いつも真太郎が楽しみにしている事をやろうとするその時に針を
刺すのだった。嫌がらせに思えていた。以前から心の中で
「嫌われてる」と感じていたのだ。確実に姉と扱いが違った。
母親は真太郎を夫とダブらせていたのだろうか。
真太郎は友達の康夫が遊びに来ても、いつもヒソヒソと話した。
母親に聞かれたくなかったのだ。当然ながら母親は、
何か悪いことを話していると思う。それでまた責められる。
どうすると怒られて、どうすると怒られないのかが
わからなくなっていた。怒られないようにするために、
自然にヒソヒソと話すようになってしまったのである。
自分が怒られたような事を、学校の友達は平気でやっている。
平気で出来ない真太郎は、友達に馬鹿にされた。
小学生の真太郎にとって、家の中と外では常識が違った。
その使い分けが小学生の真太郎には出来なかったのである。
小学5年の頃、康夫と一緒に通っていたそろばん塾をサボって、
二人で近くの神社で一時間過ごして帰った。
「ただいま」 「お帰り、ご飯だよ。」いつも通りだった。
上手くいった。バレなかった。ドキドキしていたが、
それを隠していつも通りに振舞った。
自分を隠すことはいつもやっていたので大丈夫だった。
実は康夫も真太郎と同じように、家では厳しい扱いを受けていた。
母親のヒステリーは、康夫の親の方がすごかった。真太郎と康夫は
同じ悩みをもつ同士だったのだ。それから二人は、塾をサボって
遊ぶようになった。遊び場所は、神社から町の商店街に移っていった。
駄菓子屋のおばあさんと仲良くなり、そこで1時間過ごして
帰ることも多かった。当然店に入ればお金が必要だ。
小学生のお小遣いなどあっという間に無くなる。
お金が必要だった。正しい判断力を欠いた二人は、
エスカレートするしか道は見えなかった。
小学5・6年といえば大切な時期である。この時期に
常識を身につける事が出来ないと、その後の人生に大きく影響する。
真太郎は母親の行動をいつも見ていた。危険を回避するために、
相手の行動を常に見なければならなかったのだ。だから母親の
財布の場所も知っていた。 ある日、昼ごはんを終えて
席を立った。母親は台所で後片付けを始めている。今からお金を
盗むのだ。真太郎に罪悪感は無かった。今なら出来ると思った。
財布をしまってある場所へ行き、母親の財布から千円を抜いて
ポケットに押し込んだ。財布はあった場所に、もとどおりに戻した。
嬉しくなった。ワクワクした。すごい金額が手に入った
という”結果”に喜んだ。それ以外には何も思わなかった。
すぐにでも康夫に報告したかった。大成功だ!と
大きな声で言いたかったのだ。これが真太郎にとって、
自分が手に入れたいと希望した事で、何の障害もなく実現した
初めての事だった。感動的だった。こんなに嬉しいものなのか・・・
と心から感激した。隠し通せばつらい目に合わなくてすむ。
このまま黙っていればわからないんだと・・・。心の奥深くに
”こうすれば良いんだ” という確信に満ちたものが広がった。
これまで真太郎が望んで、結果として手に入れたものはあったが、
必ずそれには母親の嫌味な言葉が付きまとっていた。
勉強に関する本は無条件に買ってもらえるが、マンガ本を買って
もらう時には、勉強を頑張るという条件が常に付けられる。
その時にはこれまでの真太郎の勉強態度や結果が持ち出され、
こんこんと説教されるのである。自分が心から望むものは、
つらい目にあわないと手に入れる事は出来ないと思っていた。
こういう母親の厳しさとは逆に、祖父母は優しすぎた。
事あるごとに”跡継ぎ”という言葉を出して真太郎を可愛がった。
祖父母と母親の間では、躾について意見が対立していたのだ。
祖父母は真太郎を思い、色々な物を与えようとする。
当然真太郎は喜んで受け取る。しかし
祖父母の居ない所で母親の説教が始まるのだった。
この事を祖父母には言わない。いや言えないのだ。
言えばまた自分のところへ災難が降りかかる事くらいは、
小学生とはいえ想像出来た。 大人の間に挟まれ、何が正しいのか
どっちがどうなのか、全く判らないのであった。
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