〜乙女と少女と〜
ドミニオンが地球連合軍月面基地を出発したその夜(あくまでも艦内の時計で、ではあるが)、地球軍国防三合連合理事、ムルタ・アズラエルは鼻歌交じりに自室でシャワーで濡れた髪を拭いていた。何もかもが彼の思い通りに進み、上機嫌だ。
(さて、今日は気分も良いし、あれくらいで勘弁してあげますかねぇ。)
数日前、初めて出会った日から、彼は彼女の部屋に夜な夜な侵入していた。初めこそは抵抗があったのだが、それが無駄だとわかると、彼女は全てを彼に委ねるようになっていた。ただ、その瞳の奥は常にうつろで、心もそこには無かったのだが。
先ほども今のような上機嫌で彼女の部屋を訪れ、彼女を犯した後であったのだが、シャワーで汗を流し、頭をすっきりとさせると、またもや喜びがこみ上げてきて、それを彼女の身体にぶつけたくなってくる…
(一日に何度もやって壊しちゃってもいけませんし、ま、のんびり行きますか)
乱れた髪を手櫛で軽く整えた。
『アズラエル理事…』
その時、部屋のインターホンと共に女性の声が聞こえた。この艦内には女性は二人しかいない…今まで思いを巡らせていたナタル・バジルールともう一人…
「フレイ・アルスターですか?」
『はい、折り入ってお話があるのですが…』
思いもよらない来訪者に彼は少し驚いたが、扉を開けて彼女を迎え入れた。
フレイ・アルスター、故ジョージ・アルスター事務次官の一人娘だ。以前AAに乗っていたが、アラスカで転属、どういう経緯を経たか詳しくは知らないが、つい先日までザフトの捕虜になってた。
また、AAのコーディネイター、キラ・ヤマトと男女の仲にあるようだ…これは本人の口から聞いたわけではないが、ナタルが口を濁していたことから推測できた。
「申し訳ありません、お休みのところ…」
フレイは伏し目がちに扉の前で立っていた。
「こんなところではなんですから、中へどうぞ?」
彼女の意図を頭の中で考えながら、招き入れた。
フレイの申し出を聞き、彼は感心した。
わずか十五歳の小娘が、生き延びる手段を無意識のうちに身に付けていることを。そしてそれは非常に狡猾で、誰にどういう形で取り入れば良いのかを的確に見つける力も持っている。彼女はこの力で、この戦火を生き抜いてきたのだろう。AAではキラ・ヤマト、ザフトではラウ・ル・クルーゼ、そしてここでは…
「僕ということか…」
ククク、と含み笑いを漏らす彼を不信に思うことも無く少女は見つめていた。
「では、フレイ、始めましょうか」
彼は口元を緩ませながら、彼女の肩を抱いた。
「ええ…」
彼女の悲しみに満ちた瞳が、まるでスイッチでも入ったかのようにキラリと光った。
ドミニオンの廊下で、ナタル・バジルール少佐は、じっと宇宙を眺めていた。その心は…AAの事…AAにいるただ一人のことを考えていた。そして、その人を裏切る行為を彼女の意思では無いとしても、繰り返していることを…
一つ、ため息をつくと、背中に人の気配を感じた。視線を横にずらすと、フレイが不安げな表情でこちらに近づいてくる。
「どうした、大丈夫か…」
ほんの数ヶ月前までは民間人で、一介の学生だった彼女が、AAクルーになり、そして先日までは敵軍の捕虜にされていた…
「月基地に残った方が良かったのではないか?」
フレイを思いやるナタルの表情は、軍人に戻っていた。
「だって私…知らなかったから…!」
涙を零し始めるフレイを、ナタルは見つめていた…見つめることしか出来なかった。
「あの人、これで戦争は終わるって言ったのに!」
そして、廊下に響く慟哭。
「確かに終わるさ。敵であるものを全て滅ぼせば…」
ナタルは再び宇宙に目を戻す。
「確かに、終わるんだ…」
―その時、あの人は生きているのだろうか?戦争を終わらせるには…あの人も滅ぼさねばならないのか…
「…バジルール…艦長…」
フレイの手が、ナタルの肩に触れた。
「ん?なんだ?」
「あなたは、私を守ってくれる?」
「え…?」
少女のきめ細かく白い頬と、長いまつげが近づいてきたと思うと、唇が柔らかいもので覆われる。
「…っ」
目を見開き、硬直したナタルの歯と歯の間から、舌が侵入してくる。
「ん…んっ!」
たまらず、無理やり少女の肩を掴み、引き剥がす。
「な、何を…っ…」
驚愕から、息を荒げるナタルに対し、少女はゆっくりと口元の液体を袖でぬぐい、冷ややかな目で見つめ返す。
「ア…アルスター…?」
あまりの彼女の豹変振りに、ナタルは自分自身よりも、少女の身を案じた。
「艦長…私…怖いのっ…」
再び少女の目に憂いが宿ると、少女はナタルに飛びつく。ナタルの体はその勢いで浮き上がり、窓が背についた。震える少女の肩にそっと手を置く。自分のせいで戦争が激化した…その事実を、この小さな少女の心が受容しきれるはずが無い…何かにすがっていなければその小さな心は壊れそうになっているのかもしれない…ナタルなりに少女の行動の理由を推測し、そのまま少女を抱きしめた。
「すみません…私、どうかしてました…」
しばらく二人がそのままでいると、少女は自分から身体を離し、申し訳なさそうに謝罪した。
「仕方ないさ、特殊な状況だからな…作戦開始までまだ時間がある、少し休め」
ナタルは、少女に優しく微笑んだ。
「部屋まで送っていこう」
少女の背中に手を添えると、少女はまた泣きそうな顔になった。
「艦長…私、艦長の部屋に行ったらいけませんか?」
おずおずと、ピンクの唇が言葉を紡ぐ。
「え…?」
ナタルは、先ほどフレイにされた行為を思い出し、頬を赤らめた。
「あ、変な意味じゃなくて…その、私、独りになるの怖くて…」
敵軍の捕虜として、孤独であったろう少女の胸中を察し、ナタルは自分の考えを恥じた。
「では、私がアルスターの部屋にいてやろう。あそこは相部屋だが、使っているのはおまえ一人だったな…」
「いえ…!あ、あの部屋、怖いんです!人の匂いがしないというか…冷たい感じ…」
少女が来るまで使用されていなかった部屋だ。それでなくとも、ドミニオンは新造艦で、人が入って間もない。
「…わかった、私の部屋に行こう」
「…!」
ナタルがため息混じりに言うと、少女の瞳が和らいだ。
ナタルが部屋のカードキーを挿すと、フレイは当たり前のように先に入り、ナタルのベッドに腰を掛けた。そして隣に座るようにナタルへ視線を向けると、ナタルが軍帽を机の上に置き、彼女の横に座った。それを待ってフレイが口を開く。
「意外と片付けとか苦手なんですか?」
「え?」
「だって…」
フレイが肩越しに振り返った視線の先をたどると…乱れたシーツと、傍らに落ちている水色のジャケット…
「あ…」
ついさっきまでそこで彼女が何をされていたのか思い出し、猛烈な後悔に襲われた。とにかくこの場にいたくなくて、片付けもせず廊下に出たのだ。
「タバコも!しかもこんな重い銘柄、見かけによりませんねぇ」
無邪気に枕元の灰皿を覗き込む。
「あ、アルスター、こ・こ、これはだな…」
自分に背を向けて、いる少女の小さな肩を掴む。
「私も、参加したいな…」
「え?」
振り返った少女の目は…少女というより女、といった感じで、妖艶で、それでいて冷たくて…
「何を…ん!」
先ほど知ったばかりの、過去に経験の無い、柔らかな少女の唇が、彼女の口を塞いだ。その勢いで、ナタルはベッドに押し倒される。
「ちょ…っ!アルスター!」
離れた少女の唇は、次はナタルの耳に、首筋に這ってゆく。
「コラ!悪ふざけは止めないか」
その言葉に少女は全く耳を貸さず、ナタルの制服のファスナーを下ろしてゆく。
小さな少女を力ずくで引き離す訳にも行かず、彼女は少女の細い腕を掴んだ。
「安心して、バジルール艦長…女のツボは女の方が、って言うでしょ?」
「何を言ってるんだ!」
本当に、言ってる意味がわからない、と眉をひそめた。冷ややかな笑みをこぼす少女は、空いている手でナタルのスカートに手を忍ばせた。
「おい!アルス…っあ…!」
「お嫌いじゃないのでしょう?」
少女の細い指が、ストッキングと下着越しに彼女の感じやすいところをなぞる。
「や…ダメだって…んんっ…」
言葉とは裏腹に、甘い息を漏らし、また指に徐々に湿り具合を感じながら、力が抜けて開放された手で少女は自分の上着のファスナーを下ろした。軍服の下は支給されたアンダーシャツではなく、パステルピンクのタンクトップだ。
「ほらぁ、艦長も…」
今度は少女がナタルの手首を掴み、その手のひらを自分の胸に押し当てる。年齢の割に豊満でハリがある。それでもまだ発展途上といった感じだ。
「アルスター…」
「フレイって呼んでよ…ねぇ、ナタル…」
腰をかがめて、耳元で囁く。
「自分で何をしてるのか判っているのか?」
少女の胸に当てた手が、どうしたらよいのかわからず強張る。
「痛っ…」
「あ、す、すまない!」
眉をしかめる少女に、思わず謝罪の言葉が漏れる。
「ビックリしただけで…大丈夫です…。もっと優しくして…?」
少女の長い髪が顔に掛かり、甘い香りが鼻をくすぐる。少し力を抜いたナタルの手に、少女は自分の手を重ねて、撫でるように、擦るように、促してゆく。
「ん…っ……ナタルの手、柔らかくて気持ち良い…」
「そ、そうか…」
ナタルの思考は殆ど停止していた。自分が今何をしているのか、まるで夢の中のように現実味が無い。少女のなすがままにされてゆく。
〜ちょっと休憩〜
つーことで、フレナタです、つーか、アズフレナタ。
…百合書くの初めてですね、そういえば。女の子カップリングって結構好きです、ホ○よりは。華やかで。フレイは「ラクフレとかいいなぁ」と思っていたんですが、ナタりんがそれ異常に受け要素強いのでこんなことに…また苦労が増えたね、艦長さん。三人組xナタも書こう書こうと思って結局書けてないのに、フレイ…。ドミニオンに仲間が増えて嬉しい限りです!(これがカガリやミリーでもここまで萌えなかっただろうに)
もともと、SEEDで一番好きな女性キャラはフレイだったので、本当、ドミニオンがまた好きになっちゃいましたよ!このまま逃亡してくれ!ドミニオン!