―想―

『僕が守ってあげなきゃ…』

守って『あげる』?アンタ、何様のつもりなの?また泣いて、泣いて、それで済むと思ってんの?アンタは誰でも良いんでしょ?優しく手を差し伸べてくれる相手なら、誰でも良いんでしょ?

「…良いわね…男は、出せばスッキリするんだから」

「え?」

「ううん、なんでもないわ。泣いていいのよ…泣いて、涙を出して、スッキリすれば…私がそばにいて『あげる』…」

「フレイ…」

 気持ち悪いのよ、アンタ。コーディネイターなんて、気持ち悪いだけなのよ!

 私は眠る彼の首にそっと手を掛け、ゆっくりと力を入れる。

「う…」

 苦しそうなうめき声。

 いくらコーディネイターでも、死ぬ時は死ぬんでしょ?

 許さないんだから…私を忘れるなんて…自分だけ幸せになるなんて…絶対に、許さない…!

「ふふ…ウフフ…あははははは」

 たまらなくなって笑い声があふれる。同時に涙が頬を伝うのがわかったけど…アンタに同情してるわけじゃないのよ…勘違いしないで…

 

パシーン

 

「!」

 頬に激しい痛みが走り、少女は目を開けた。

「あ、アルスター曹長…!」

「…!艦長!」

 あわてて首にかけていた手を離す。

「ケホ…」

 上体を起き上がらせ、息を整える彼女を見つめながら、少女は現状を頭の中で整理していた。

 ドミニオンに正式に配属されてから、少女は相部屋をあてがわれながらも、この艦には女性は二人しかおらず、一人で眠るのが怖い、と少女は彼女の部屋で寝泊りしていた。艦長室は当然個室でベッドは一つだ。だから二人はこの日も同じベッドで眠っていたのだが…

「…夢…?」

 あの男を殺そうとしていた…あの男だと思って絞めていた首は、彼女のものだったのか…

「す、すみません、艦長!寝ぼけてて…」

「いや、いい。こちらこそ、大丈夫か…頬…」

 言われて頬が熱を帯びているのに気づく。少女を正気に戻すためにひっぱたいたのだとすぐ察する。

「本当に…ごめんなさい…やっぱり私、自分の部屋で…」

 立ち上がりかける少女の腕を彼女はつかんだ。

「こんなことを寝ぼけてするような夢を見るなら、尚のこと、一人にさせるわけにはいかない」

「艦長…」

 ただ純粋に少女の心配をする彼女の目を見て、たまらなくなった彼女の大きな瞳から涙があふれる。

「アルスター…」

 彼女は黙って少女を抱きしめた。

「…ったし…私…」

「大丈夫だから…ここは、大丈夫だから…」

「ちが…私…違うの…っ…」

「違う?」

「私…本当は…コーディネイターなんか…」

 ―触れられるどころか、同じ空間にいるだけでイヤなの!

「…」

「でも、でも私は…キラにも…クルーゼ隊長にも…あんなことまでしてきたのに…それでも…」

 ―復讐のために、その為だけに全てを捨てた。傍にあって当たり前だと思っていた、あなたの笑顔すら…

「…」

「…会いたいよ…好きなの…」

―サイ…と、小さな囁きが聞こえた気がした。

 震える少女の小さな肩を、自分に重ねあわせる。

 ―殺そうとした、本気で。敵になった、貴方の。

 ―それでも…それでも貴方を想うのは罪でしょうか?

 

 少女の肩が震えていないことに気づく。そして小さな息遣い。

「…会えるさ…生きていれば…必ず…」

―私の祈りは叶わないだろう。だからせめて、この幼き少女の願いは叶うように…

彼女は少女の髪に口付けをし、そっとベッドに横たわらせた。

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あとがき
アスカ入ってるよね…ぽそ…。えと、私はこんな感じのキラフレが書きたいと常々(暖かい感じのキラフレ好きさんには申し訳ない)…前半部分、本当はもっと長い予定でしたが削りました…。キラフレまた書きたい…

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