〜大人の純恋1〜
アークエンジェルが地球に降下し、砂漠で滞在を始めてからほどなく…。最初のうちはクルー達も降下ポイントから反れた事や、宇宙との環境の違いにあわただしく働いていたが、恐れていたザフトからの攻撃も無く、落ち着いた頃であった。
アーノルド・ノイマン少尉はアークエンジェルの操舵士という立場上、乗組員の全ての命を左右すると言う点では、艦長より重い責任を持つと言う事もあり、また、そんな彼の代わりを勤められる者もおらず、短い睡眠時間(殆ど仮眠に近いが)以外は常にブリッジで過ごしていた。
「おい、ここんとこずっとブリッジにいるけど、ちゃんと休んでるのか?」
同僚であるチャンドラに声をかけられ、顔をあげずに答えるノイマン。
「ああ、昨日も2時間寝たし…」
「2時間!?警戒中ならまだしも…他の連中はここぞとばかりに休んでるぜ!」
「だけど、いつ何が起こるかわかんないだろ?この艦を動かせるのは俺しか…」
「何かが起こったときに疲れが出るかもしれないだろ?逆にいえば今しか休める時間はないんだ。ここは俺が見てるから、休んどけって!」
強引にシートから立たせて、出入り口の方へ背中を押す。
「あ、ああ、わかったよ、だから押すなって!」
必死に降りかえりながら言うノイマンに、ようやく力を抜いたチャンドラは
「よし、任せとけって」
と、自らの胸をどんと叩く。
「じゃあ、すぐ戻るから…」
軽く微笑みながら出て行くノイマンの背中に
「だぁかぁらぁ、ゆっくり休めって!」
と、チャンドラは叫んだ。
同じ位…いや、それ以上に気を張り詰めて働いている者がいた。ナタル・バジルール中尉、アークエンジェルの戦闘指揮官である。軍人の家系に生まれ、また軍人でいる事を誇りに思っている彼女は、戦闘時意外でもあくせく動き回っていた。いや、何かをしていないと落ち着かない性分なのだ。
周りが落ち着けば落ち着くほど彼女は焦った。艦長達が状況を楽観視しているとは思っていないが、いざと言う時に自分がすぐ状況に対応できるようにいなければ、と、もう2日ほど仮眠すら取っていなかった。
書類を小脇に抱え、颯爽と歩く姿はまさに「軍人」であった。そこにチャンドラに無理矢理休憩をとらされたノイマンが正面から歩いてくる。
「中尉、ご苦労様です。」
敬礼し、挨拶をするノイマン。
「ああ、今から休憩か?」
「あ、はい…」
ナタルは、はにかみながら答えるノイマンを見て、彼の意思ではない事を察する。
「まあ、休むのも仕事だ。戦闘が始まったときにおまえが動けなくては困るからな。」
「…ですが、中尉も全く休んでおられない様子…」
「そんなことはない。ちゃんと自己管理はしている……お…っと…」
脇に抱えた書類が一枚、ひらり…と二人の間に落ちる。拾おうとするノイマンに、
「いや、いい」
といい、彼女は自らでそれを拾おうと屈もうとした…が…
「あっ…」
とっさによろけてノイマンにもたれかかる。
「すまない…」
すぐに体を離そうとするナタルであったが、足に力が入らない。
「中尉…?熱があるじゃないですか!?」
ナタルの顔をすぐ目の当たりにしてようやく彼は異変に気付く。
「大丈夫だ…ッ…これくらい…」
それでも壁に手をつきながら書類を拾い、震える膝で立ちあがろうとする。
「…中尉!失礼します。」
「え…?」
一瞬、ナタルは自分の体が浮くような感覚に襲われた。ふわり、と額に風がかかり、見上げるとそこにはノイマンの顔があった。
「ちょ…ッ…少尉っ!」
彼女はノイマンの腕の中に抱きかかえられていた。
「お、降ろせ!命令だぞ!」
そのまま歩き出す彼に、力の入らない体で抵抗するナタルであったが、
「休むのも仕事のうち、でしょう?」
涼しげに先ほど彼女が言った言葉を返すノイマンに抵抗するのをあきらめる。
「とりあえず中尉の部屋にお送りします。」
おとなしくなったナタルに満足げに微笑む。
(………全く…)
ナタルはノイマンの腕の中でため息をつき、目を閉じる。ゆらゆらとした振動が心地よい。重力のある地上で、軽々と成人女性であるナタルを抱き上げ、すたすたと歩く彼に感心していた。上官と部下、この関係から忘れがちであるが、ノイマンは同い年の同期であったことを思い出す。士官学校の成績次第では立場が逆だったかもしれない。
(いつまでも上司面していられないな…)
「中尉?」
ナタルは彼の腕の中で静かに寝息を立てていた。見た事の無い彼女の無防備な寝顔に目を細める。
「少し遠回りしてこうかな…」
そろそろ痛くなってきた腕に力を入れなおし、彼はまた歩き出した。
つづく
後書き(言い訳)
勢いで書きました。クルー同志はどうやって会話してるかも確認せずに書きました。見ての通り、続きます。本当は1話に収めたかったんですけど…感想お待ちしております…。