〜大人の純恋2〜

「………」

アーノルド・ノイマン少尉は迷っていた。意気揚揚とナタル・バジルール中尉を抱き上げ、部屋まで来たのはいいが、肝心の中尉は自分の腕の中で安らかな寝息をたてている。彼女の部屋のカードキーが無ければ部屋の鍵を開ける事はできないが、ものの数秒のうちに眠ってしまったナタルを起こすなんて事はできない。彼の部屋に連れて行こうかとも思ったが、相部屋だし、途中で誰かに見られても困る。

「…違う…」

彼は自分の心に嘘があることに気付き、呟いた。かつて誰にも見せなかったであろうナタルの、こんな無防備な姿を誰にも見せたくなかったのだ。自分だけのものにしておきたいのだ、と、彼は実感した。

「…ん…着いたのか…」

そうこう考えているうちにナタルが目を覚ましてしまった。

「すみません、起こしてしまいましたか…」

「いや、こっちこそ、勝手に眠ってすまない…降ろしてくれ…」

まだぼ〜っとしているナタルをそっとおろすと、彼女は胸のポケットからカードキーを取り出し、扉を開ける。おぼつかない足取りの彼女の背中を支えながらノイマンも部屋に入る。

「ありがとう、もう大丈夫だ。」

ナタルはベッドに座ると、力無く微笑む。

「では、失礼します」

ノイマンも微笑みながら敬礼し、部屋を後にする。ピシャッと扉が閉まり、一人になったナタルはゆっくりと上着を脱いだ。クローゼットまで歩く気力も無く、近くの椅子にそれを掛ける。

「ふぅ…」

首の詰まった服から解放され、彼女は大きく息をついた。気持ちではまだまだ大丈夫だと思っていたが、身体は限界に近づいていたのだと反省しながら、軍から支給されたシャツを脱ごうとすそに手を掛けた。

「中尉、お水を…」

その時、扉が開き、再びノイマンが顔を出した。

「あ…」

ちょうどナタルはシャツを首まで上げたところで、彼女の下着と白い肌が露わになっていた。彼女の顔がみるみる赤くなってゆく。

「バッ…馬鹿者っ!ノックもせずに入ってくるヤツがあるかっ!」

「し…失礼しました!」

彼は慌てて外に出ようとしたが、彼女はさっとすそを降ろし、

「もういい!」

とその背中に怒鳴るように声を掛けた。

「私が無警戒過ぎたのだ。もう服を着た。気にするな。」

「は、はぁ…」

自室に一人になっても警戒をする必要なんてないだろうに…と思いながらも彼は頷き、ベッドに座る彼女に歩み寄る。

「水か…、すまないな、助かる。」

そう言いながら彼女は椅子に掛けた上着に手を伸ばす。

「…?中尉、呼び出しでもあったのですか?」

「いや…だが、部下の前ではキチンとしてないとな。」

「…中尉…!」

袖に腕を通そうとするのを遮るように、彼は彼女の肩を掴んだ。

「少尉?何をする!?」

シャツ越しに肩に彼の手の温度を感じ、女の心臓がドキンと強く打つのを感じた。

「差し出がましいようですが…中尉、自分と二人の時くらいはもう少し力を抜いてください。でないと…」

彼はゆっくりと苦しそうに、だがはっきりと自分の思いを伝える。

「でないと、中尉…壊れちゃいますよ…。これじゃ…休まる時が無いじゃないですか…甘える相手がいないじゃないですか…」

「少尉…」

「アークエンジェルには中尉が気を許せるような同じ階級の人間も、気がね無く甘えられるような上司もいません…俺…自分は…中尉の部下ですけど…頼りないと思いますけど…一応、中尉と同期だし…年齢…一緒だし…誕生日…ちょっとだけ早いし………えっと…つまり、お…自分が…言いたいのは…」

言葉が出ず、彼はうつむく。

「少尉…」

彼女は上着をベッドの上に落とし、肩に置かれた少し震えるノイマンの手に自分の手を重ねる。

「少尉…ありがとう…」

目を閉じ、彼の腕に頬を寄せる。

フ…っと、まぶた越しに視界が暗くなり、唇に柔らかく、温かいものが触れる。

「…!?」

彼女が目を開けるのと同時にその感触なくなり、代わりに目の前にやさしく微笑む男の顔を目の前にして、女は言葉を失う。

「それじゃ、水、ここに置いておきますから、ゆっくり休んでくださいね」

何事も無かったように、にこにこと笑いながら彼は水の入ったコップを机に置き、部屋から出ていった。あとに一人残されたナタルは、そのままベッドに倒れこんだ。

「…あれ?えっと……え?」

今、何が起きたのか、彼女の頭は混乱して、暫くベッドの上をごろごろと転がっていたが、やがて眠気が襲い、彼女の意識はまどろみの中に入ってゆく。

(…ノイマン…)

直前まで彼の顔が頭を離れず、彼の事を考えながら彼女は眠りについた。

つづく

後書き(言い訳)

はい、前回の続きです。今回の課題はちゅーでした。あやうく課題達成しないまま終わるところでした…。この後、16話のジュース事件(?)につながるわけです。ノーマルで♂攻めって初めて書いたかもしれない…。そういや私は過去書いた小説って九割が一人称でして(あとの一割は一人称が不可能に近いエヴァのレイ主人公小説…そういえばこの時はカヲル攻だったわ…超ショート小説だけど…)、表現方法にかなり戸惑いました。多分もっとしっくりくる書き方があるんだろ〜な〜と思いつつ、私は漫画描きなんで、その辺は勘弁してください。あ、きっとノイマンはこの後、仮眠も取らずブリッジに戻るのでしょうね、涼しい顔で。そしてチャンドラに「早!」とかツッコミを入れられるのでしょう…。

誕生日はノイマンが6/9でナタルが12/24だそうです。四葉 楓さま、情報提供ありがとうございましたv

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