〜大人の純恋3〜後編

途中で何度か廊下で酔っ払いとすれ違ったものの、いかにも酔いつぶれているナタルを抱えるノイマンに疑問を抱く者はおらず、なんとか彼女の部屋の前に着いた。
「…失礼しますよ…っと」
一瞬ためらったが、彼は彼女の胸ポケットに手を伸ばし、手が胸の感触を認知する前にすばやく部屋のカードキーを取り出した。部屋の鍵を開け、ナタルを引きずりながら部屋に入り、扉を閉める。
「うう〜ん…」
「大丈夫ですか?」
彼はゆっくりと彼女をベッドに寝かせる。
「水、持ってきま……!ちょ…中尉!!」
「暑ぅ〜い〜」
ノイマンの存在はお構いなしに彼女は服を脱ぎ散らかす。上着、シャツ、ブーツ、スカート、…
「…!失礼しま…」
「こら!」
慌てて部屋から出て行こうとする彼の腕をナタルは思いっきり引っ張った。
「う…わっ!」
そのままベッドに背中から倒れこむ。
「上官である私が脱いでいるんだ!貴様も脱げ!」
訳のわからない理屈を叫びながら馬乗りになり、彼女は彼の上着を脱がせる。
「え…ちょっと…」
(ダメだ、目が据わってる…)
彼は抵抗せず、彼女のなすがままにされた。

「…スト〜ップ!!」
ナタルは顔を真っ赤にしながらノイマンの話を止めた。
「あれ、もういいんですか?」
「うう〜…また頭痛が…」
この先の展開を予想し、またもや彼女は頭を抑えた。これまで軍一筋で生きてきた彼女にとって、自分のこととは思えない大失態だ。
「だってまさか…部下を無理やり…」
うつむいたまま、彼女は声を絞り出した。
「え、でも…」
「でも…、じゃないッ!私たちは軍人なんだぞ!?いくら砂漠の虎を撃退した直後とはいえ…そんな…」
「でもまぁ、これくらいは…」
「何がこれくらいだっ!日ごろ子供たちの行動にあれだけ文句を言っておいて、示しがつかんではないかっ…!」
そう言いながら、彼につかみかかる。
「それに、私は…覚えてないんだ…」
「だったら良いじゃないですか?貴女は何も悪くないんでしょう?」
「…覚えてないから…余計に…お前にも悪いと…」
彼の肩をつかみ、そのままうなだれる。
「そう…覚えてないんだ…大切な事なのに…大切な…」
「中尉…」
正面に下着姿で座り込む女を、男は見つめた。
「せっかく…初めての…」
耳を澄ませて聞いていなければ気づけないような小さな声で、女はつぶやいた。
「………」
(何か、勘違いしてるんじゃないかな…)
彼は思い当たり、励ますように明るく彼女に言った。
「大丈夫ですよ、入れられただけですから!」
「…誰が?」
「お…自分が。」
「………誰に?」
「中尉に。」
「………何ぃ〜〜〜〜!!!!????」
彼女は大声をあげる。
(入れたって、入れたって…いや、挿れられたって!しかも私が少尉に!!)
彼女の頭の中に色々な妄想がぐるぐると回る。
「は…初めてなのにそんな…変態…な事を…」
半ば呆然自失でつぶやく。
「あ、あれ?」
(もっと勘違いしちゃったかな…)
彼は彼女の顔を覗き込む。
「あ…」
彼女の顔は耳まで真っ赤で、まだ肩に乗せられた手も汗でじっとりしている。
「私は…なんて事を…ノイマンの将来とプライドに傷をつけて…その上覚えていないなんて…」
(いくらなんでもそこまでのことは…)
彼女が何を想像しているかを予想し、軽く困ったように笑う彼は、彼女が自分を階級で呼ばなかったことも聞き逃さなかった。
「私はどうしたら良い!?こんなことでお前の名誉を返せるとは思えないが、お前が望むなら何でもしてやろう!」
バッと顔を上げ、彼にまくし立てる。
「そんな…いいですよ…」
「それでは私の気が済まないんだっ!」
「う〜ん……あ!じゃあ、そのまま少し目を閉じててください。」
「こ、こうか?」
何かを思いついたような彼の言葉に彼女はおとなしく従う。
「そう、そのまま…」
「…!」
視界が暗くなり、彼女の頬に彼の手が触れるのを感じる。それと同時に、唇にあの時の、温かくてやわらかい感覚を感じる。
「ふ…!ぅん…」
そして彼女の唇と歯の隙間から温かくて湿ったものが侵入してくる。
「んん…」
女は何の抵抗もすることなく、すこし声をあげた。
「……」
男はゆっくりと唇を離し、うるんだ瞳で見上げる女を見つめ、
「…っは…ノイ…」
「これで、おあい子ですね☆」
そして、にっこりと笑った。
「え?おあいこ…って…え?」
戸惑う女をよそに、立ち上がり、散らばった服を拾い集める。
(…なんだ…入れた…って、舌のことか…)
照れたように頭をポリポリとかく。
「…って、え〜!?」
(私から!?私からしたのか!?)
「なんてことを…」
力が抜けて、再びベッドに倒れこむ。その様子を男は上着に袖を通しながら楽しそうに見つめていた。
「中尉、服、ここに置いておきますから。ゆっくり休んでくださいね。」
「あ・ああ…」
彼女が振り向きもせず返事をすると、後ろで扉が開き、また閉じる音が聞こえた。
「…って」
改めて自分の姿を見返す。
「私ったら下着姿で何を〜〜〜〜〜!?」
誰もいなくなって急に恥ずかしくなり、彼女はシーツを頭から被った。

「…ふう…」
廊下に出たノイマンは安堵の息を漏らした。
(よくがんばったよな、俺。昨夜も今も、中尉にあんな格好されてて、よく我慢できたよな…)
詰襟を調えながら昨夜のことを思い出し、トイレに向かった。

ノイマンがなすがままにされていると、上半身があらわにされたところでナタルは背中を丸め、彼の顔に自分の顔を近づけた。
「ノイマン少尉…あの時本当は何をしたんだ?」
酒気まじりの熱い息が鼻にかかる。まるで尋問をするような彼女の瞳。
「あの時って……!」
彼の唇が彼女のそれにふさがれる。彼女の舌が強引に彼の口内に侵入してきた。
「んっ!む…ぷはっ」
はぁはぁと肩で息をしながら、彼女は唇を離した。
「…?」
そして彼女の動きが止まる。
「…中尉?」
彼は自分に馬乗りになっている彼女を見上げた。
「…どうせ…私は…可愛くない…スタイルも良くないし…若くも無い…」
「中尉…」
はらはらと彼女の瞳から涙があふれる。             (挿絵はコチラ)
「冷酷で、惨忍で…軍人でしかない女なんだっ!」
「中尉!」
「どうせ私なんかっ!誰も…」
「中尉っ!」
なんとか上体を起こし、しゃくりあげる女の後頭部に手を伸ばす。
「あ…」
そしてそのまま女の頭を引き寄せて再びベッドに倒れこんだ。男の胸に、女の涙で濡れた頬が触れる。
「中尉は、すごく可愛いですよ。」
そのままの手で女の頭をなでる。
「う…嘘だっ!」
彼女はそう反論しながらも体は抵抗はしない。
「嘘じゃないですよ、今だってホラ…こんなに可愛い。」
男は頭に置いた手を女の脇の下にするりととおし、そのまま引き上げる。
「ひゃっ…」
女は急に脇に感じた男の温かい手と、その力に、思わず声を上げた。
「ホラ、可愛い…」
女のすぐ目の前には男のやさしい笑顔があった。彼女はそのまま彼を見つめ返した。男は首だけを上げ、彼女の涙で光る頬に優しくキスをする。
「…ん…」
そのまま涙を吸い取るように目じりまで唇を移動させ、もう片方の頬にも同じ事をした。
「可愛くない人に、こんな事しませんって」
酒のせいか、違う理由からか、顔を赤らめる女にまたもにっこりと微笑む。
「ね?」
「うん…」
男がそういうと、女はゆっくり頷き、そして男の首筋に頬を寄せた。
「中尉…じぶ…いや、俺は」
「うん…」
「…貴女のこと…」
「うん…」
「…ずっと…」
「うん…」
「…中尉?」
「うん……」
「…」
「すー……」
彼がゆっくりと顔を横に向けると、彼女は静かに寝息を立てていた。
「…」
彼はほっとしたような、残念なようなため息を一つし、シーツを手で手繰り寄せて彼女の肩に掛けた。彼女はしっかりと自分に体を預けていて、彼が体だけを引き抜いて自室に戻るのは無理そうだ。
「おやすみなさい………ナタル」
彼は彼女の耳元でそっと囁き、目を閉じた。
(今日は一つの試練を乗り越えただけ、明日からまた新たな試練の日々が始まる…ただ、まだ今は…)

つづく

後書き(言い訳)

はい、やっと終了。挿絵もなんとか描けたし。今回のテーマはベ…大人のちゅーということで、こんなレベルでここまで長くなったら次回はど〜なるんだ!?一応次回のテーマも決まってるんですけど………まずはアニメで使えそうなシチュエーションが無ければいけませんが。前編の後書き?にも書いたとおり、この話は元々ギャグマンガなんで。漫画化したいと思いながらも、もう一本、漫画用のネタがあるし…う〜ん。

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