あれから色々な感覚がひどく不安定だった。現実味を帯びない、夢の中にいるような感覚、どうやってAAの自室に戻ったのかさえ覚えていない。ナタル・バジルール中尉は鞄に私物を詰めながらも、うつろな目で考えていた。噂を聞きつけ、廊下ですれ違いざまに敬礼をする部下たち…それは覚えているのだが、自分がどう応じたのか思い出せない。
―私はちゃんと軍人であっただろうか?
部下たちの中に、一人の男の影を探す。そんな自分に今ようやく気づき、一瞬、自嘲的な笑みを浮かべたが、またすぐうつろな表情に戻る。
AAクルー解体…想像していなかったわけではない、むしろ、そうなるであろうと思っていた。殆どのメンバーがそのままなことの方が意外であるはずなのだが…
「結局、私も覚悟が出来ていなかったのだな…」
ポツリと呟いた。
『中尉、よろしいでしょうか?』
ふいに男の声が耳に入る。彼女は黙っていたが、ロックを掛けていなかった扉は、彼女の心中を察したかのように、『プシュッ』と音を上げ、開いた。
「中尉、何かお手伝いをすることはありませんか?」
顔を上げて相手を確かめるまでも無い、先ほどまですぐ右側にいた男だ。
「こちらは大丈夫だ、ノイマン少尉。そちらの方が色々と大変だろう?フラガ少佐と、私と…その、ヤマト少尉とケーニヒ二等兵の穴を埋めねばならん。」
ノイマンが近づいてくる気配を感じ、立ち上がる。
「中尉…」
彼がナタルの肩を掴み、彼女の顔を見つめる。しかし彼女はとっさに横を向き、視線から逃げる。
「おまえには、迷惑を掛けたな…」
「中尉…」
「大丈夫だ、AAなら、生き残れるさ。」
精一杯に微笑んだつもりだった。
「あれ?おかしいな、目がぼやけて…」
「中尉ッ」
瞬間、視界が反転する。ボフッと、背中がベッドに押し付けられる。目がぼやけた理由が涙だったことも、現在の状況を理解する間もなく、荒々しく唇がふさがれる。
「んんっ!」
そして無理やり口内に侵入してくる男の舌。静かな部屋に響くのは、ベッドのきしむ音と、息遣い。
「のっ…ノイマン少尉っ…ん!」
一瞬唇が離れ、彼女は男の名を読んだが、またすぐその唇はふさがれる。
「ふ…ん…っ?」
彼女は、男の手がするりとスカートの中に伸びるのを感じた。
「ちょっ!少尉!」
男の唇は、彼女のそれから離れ、首筋を這う。
「や…!やめっ!ノイマン!」
「…」
女が腕や足をバタバタとさせて抵抗するが、男は無言のままストッキングと下着に手を掛けた。
「いやっ!こんなのヤだ!」
「…」
「やめてぇっ!ノイマンっ!」
「…!」
男の手から力が抜ける。
「…ノイマン…?」
そのまま、ナタルから体を離し、うなだれる。
「お…俺は…」
「ノイ…」
「す、すみません!」
勢いよく立ち上がり、出口へ走る…
「あ…」
ゴン…と大きな音を立てて、ノイマンは後ろに倒れこんだ。電気で操作される扉はそんなに早くは開かない、扉に額からぶつかってしまったのだ。色々な意味で頭の中がぐるぐるした。