映画Yes! プリキュア5GOGO! お菓子の国のハッピーバースディ

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「ちょ〜短編 プリキュアオールスターズ」の感想で、見ても見なくてもなんて書いてしまいましたが、今見るとこれ、すごく良く出来ている。

 そんな今作のお話は…
 わたし夢原のぞみ!わたしの誕生パーティーに、チョコラっていう女の子がブンビーに追われてやってきたの。
 チョコラを助けてあげたら、お礼にってみんなをお菓子の国「デザート王国」に連れていってくれたんだ。
 そこは、クリームパイの花やシュークリームの木、プリンの野原にジュースの川が流れていて、どれもみ〜んなおいしい!って、幸せな気分だったのに、悪いビター&ドライ、ムシバーンが現れて、プリキュアをお菓子にしてやる〜だって!!!
 しかもムシバーンは、デザート女王とココをあやつろうとしていたの!!! そんなこと、ぜ〜〜〜ったい許さない!!!
 お菓子は好きだけど、お菓子にはならないんだから!!
 以上公式のあらすじ。

 「ちょ〜短編」見たさに二回劇場で見て、DVD購入時にまた見て、「なんか随分設定投げっ放しジャーマンかましやがったなあ」と思っていた作品であったのですが、この感想を書くにあたり見直してみると、これが良く出来た作品だったのである。
 前の三回見て分からなかった事が、今見てみると全て分かるようにはなっているのである。子供向けのアニメだからと言って甘く見てはいけない。この作品は読み取ろうと思って見なければ、おそらくは以前の私のように「設定投げっ放しジャーマン」と感じてしまうだろう。
 以前はのぞみとココのカップリングが好きな人以外は楽しめない話と思っていたが、本当は結構悲しい物語だったのである。
 
 お話はあらすじにあるようにチョコラが現れお菓子の国へご招待されるのだが、そもそもこれが罠であるという所で最初は話が進んで行く、引用したあらすじには「悪いビター&ドライ、ムシバーンが現れて」と書かれておりますが、それが分かるのは中盤以降であり、最初はデザート女王が悪者であるように見せかけ、後に黒幕としてムシバーンが姿を現す。
 展開としてはムシバーンが出る前にプリキュアたちは揺動されて、かれんとりん、こまちとうらら、妖精たち、そしてのぞみと分断され、各々ピンチに陥り、のぞみと一部妖精たちは何とか合流するも一時逃げ延び、そこでようやく黒幕であるムシバーンの名前が出てくる。
 楽しくお菓子の国で遊んでいた所から一転二転と状況が変わっていくのは地味だが上手く、操られているデザート女王があって、その娘であるチョコラは悪い事に加担していると思いつつも、女王を人質に取られてプリキュアたちは窮地に追いやってしまい、良心の呵責と何も出来ない弱虫な自分に嘆く、今作のメインゲストキャラを見せている。
 そんなチョコラはドリームに「一緒に助けに行こう」と促され、女王と他のプリキュアの救出へ向い、女王と同じく操られたココと遭遇するとなる。
 ココとは戦えないとするドリームはいい様にやられるが、最終的にはムシバーンの洗脳もふたりの絆には敵わない。
 のぞみの必死の呼びかけに動きを止める操られたココは彼女のキスで目を覚ます。このキス、割と唐突のように思えるこのキスであるが、今作のTVシリーズでいう所のアバンタイトル的な部分で「眠り姫」の話がふってあり、このキスの為のその導入部であったのだ。まぁ男女逆にはなっておりますが(笑)、このプリキュア5はイケメンがスーパーヒロインに守られるという構図なのでまぁそこは問題ないであろう。というか、ちゃんと前フリをしっかりココで回収している所に注目していただきたい。余談ですが、のぞみはこれで歴代プリキュアで唯一のキス経験者です。
 展開は上記の最中に、お菓子にされてしまった他プリキュアの復活があるのですが、ドリーム=のぞみのモノローグに合わせ、お菓子にされていたプリキュアは難なく復活を遂げ、それまでいい様にやられていたのとは打って変わって、ビターとドライを倒してしまうのだが、あんまり深く考えないと随分都合よく見えるのだけど、このシーンよくよく考えるととても良く出来ている。
 のぞみのモノローグに他のプリキュアの皆さんが「声が聞こえた」と言って復活するのだけど、当然普通に考えて遠くに居るのぞみの声が聞こえるはずはないのだけど、ここでそれはどういう事なのかを読み取らねばならない。
 これは「のぞみがどう考えているか。どう思っているのか」という事を、彼女らが共有していたという事なのだ。ピンチの状況にあってのぞみの想いに応えようすることで、プリキュアたちはさらに大きな力を発揮できるのだ。
 プリキュア5の皆さんの個々の力はもちろん変身スーパーヒロイン的力ではあるのだけど、彼女らの真の力というのは、同じ想いで繋がって5つの個性をひとつにまとめ、ただプラスするだけではなくより大きな力にする。同じ想いを共有している事で、彼女らには声が聞こえているように感じられるのだ。
 この繋がる五人の想いとそれを感じて更なる力を発揮する。これがプリキュア5の魅力だろう。

 その後はムシバーンとの闘いになるが、過去三回見て分からなかったのは彼であったのだが、よく見てみると彼がどんな人間で、どんな想いがあったのかは彼自身がちゃんと語っていた。
 のぞみとココの絆を見せつけられたムシバーンは、勇気や希望、そして愛を「くだらん」と言い放つも、操られ気を失っているデザート女王の手をそっと触る。そこへくるみとチョコラが現れミルキィローズとの戦闘に入り、その間にチョコラはデザート女王を巣食おうと話しかけると、彼は「デザート女王は永遠に私の操り人形だ」と言い、チョコラの想いに応えた女王がムシバーンの呪縛から解けると「何故だ。おいしいお菓子を食べたい。それが我が望み」と言う。
 「そんな事の為にみんなを、お母様を苦しめたんですの!?」とのチョコラの言葉に彼は、「いくら食べても満たされない私の苦しみがお前たちに分かるか!!」と激怒する。
 そこまでを考えるに、ムシバーンという人物は愛や希望を否定し、欲望に支配されている事が分かる。だが、おそらくは彼はデザート女王を愛しているのだ。
 その後、デザート女王からあらゆるデザートを送ったがムシバーンは満足しなかった事が分かり、女王が心を込めて作ったデザートを心を否定する彼はそれを感じ取る事が出来なかった。お菓子に込められた気持ちを受け取る心がない彼に「どうして分かってもらえないのです?」と涙を流す女王とそれに怯むムシバーン。
 このシーンを見ると、どうも女王もムシバーンに想う所があったようだが、彼の為にと作ったお菓子と気持ちは、心を否定する彼に届く事はなかった。ムシバーンはあくまで自分の欲望を捉え、他人の気持ちを分かろうとはしなかった。想いが同じであるはずふたりは心の有り処で最後まで平行線だったのだ。
 人の心を理解しない限り女王は振り向かない。振り向かない女王を手に入れようと身体の自由を奪い操ったムシバーン。
 一番設定投げっぱなしだと思った所は、語られはしなかったが実はちゃんと背景が読み取れるようになっていて、この物語は女王とムシバーンの悲しい恋のお話であったように思える。

 デザート女王の涙と言葉も否定したムシバーンは「お前も、お前たちも、この国と一緒に消してくれるわ」とその強大な力をもってお菓子の国を破壊し始める。常に平行線であった女王と、愛や希望を胸に戦う思い通りにならないプリキュアたち、そして満足なお菓子を作れないこのお菓子の国に彼は見切りをつけた。いや、それは彼が手に入れられないものへの欲求に自暴自棄になったと見るのが正しいのであろう。どうせ手に入れられないのなら消してしまおうという事だ。
 ラストバトルの舞台に立ったプリキュアたちとチョコラにムシバーンは「事ここに至れば言葉など不要」と自分の欲望が上かプリキュアたちの愛と勇気と希望が上か決着を付けるのみだと語る。
 その時のドリームがとても悲しそうな顔をしているのが印象的で、思えばプリキュア5のラスボス「デスパライヤ」でさえ説得を試み、人一倍他人の気持ちに敏感な彼女である。そんなのぞみが彼の気持ちに気付かないわけがない。欲望にとらわれ全てを無に帰そうとする彼とはもう決して交わる事がない事を憂いている。そして彼が言うように戦って決着をつけるしか手がないと決意し臨む顔つきへと変わっていく。
 そして戦闘が始まるのだが、ムシバーンの力の前に倒れていくプリキュア達。ドリームが庇ったチョコラだけが立っている状況からは、ミラクルライトの大逆転展開だ。
 過去三回の視聴で、あんまりいい所のないゲストキャラだと思っていたチョコラだが、今回よく見てみるととてもいい役である。
 母である女王と人質に取られプリキュアを陥れ自分の非力さに泣き、ドリームと触れ合い女王の救出を決意し、その心でムシバーンの呪縛を解き、ここでドリームがシャイニングドリームへと変わるきっかけを作っていて、全体を通しての活躍をしている。
 ここでは愛も勇気も、希望も無くなったとするムシバーンに、「希望はなくなりませんわ!絶対、絶対に!」からの台詞が大逆転フラグになっているのもさることながら、これまで泣いてばっかりであった彼女が、最大のピンチに希望を失わず一人立ち向かい発する言葉が感動的だ。
 それにこのシャイニングドリームになるまでのシーン。劇場参加型の映画として、劇場に来たお友達にミラクルライトを付けさせる誘導としても見事で、チョコラの自分の愛も勇気も希望もほんの小さなものだけれどもドリームに新たな力をとミラクルライトを掲げ、それと同じくお菓子の国も皆さんもライトを付けドリームを応援するのだが、地上で女王が「さぁ、皆でライトを灯し声援を送るのです」と促すんですよ。もうこれは誰が見ても今ここがライトを付ける時だと分かるが、前作のように画面から見ている人たちに向っての台詞ではあるが、同時に劇中の民衆への言葉ともなっていて、作中の雰囲気を壊していないのが素晴らしい。ぶっちゃけた話、見ていて自分もライトを灯したいと思ったよ(笑)。それだけ感動的だし盛り上がりを作っているという事だ。
 どーでもいーけど、ミラクルライトはちびっ子しかもらえないのが残念で仕方ありません。大きいお友達にもくれたっていいよなぁ。
 さて、話を戻し物語の方だが、みんなの声援を受けシャイニングドリームと変わったのぞみが他人との繋がりが大きな力になる事を語ってくれる。それは大勢の人達の力を受けたドリームと一人孤独なムシバーンとの対比としてもすごく良し、プリキュア5のテーマのひとつである繋がる想いを象徴していている点も素晴らしい。
 そんなドリームはお菓子をおいしく食べる方法は、みんなと分け合って食べると何倍もおいしいお菓子になると言い、シャイニングドリームはムシバーンと互角以上の闘いを繰り広げ、プリキュアスターライトソリューションで彼を敗る。

 光の塵になりつつムシバーンは、何でもないと思っていた力に破れ、ドリームが言ったようにお菓子もそうなのか、誰かと分け合えばおいしさが増すのかと問う。ドリームは勝ったというのにすごく悲しい顔をしていて、その問いに答えない。これもどういう事なのか読み取らなければならない。
 これは結局の所、ムシバーンは最後までプリキュア達が言わんとする事を理解しなかったのではないだろうか。
 彼は方法を最後に問うた。分け合えばお菓子は美味くなるのかと。しかしドリームの言っていた事はもちろんそうではない。一緒に食べる仲間を、おいしいという気持ちを共有する相手が居る事が一番大事なんだと言っていたのだ。心を否定し続けた彼にドリームの気持ちも届く事はなかった。
 ムシバーンも自分がドリームの言っていた事を理解できていない事を悟ったのであろう。彼はそんな表情で「そうか……」といい光の塵となって消えていってしまう。
 改心する余地はあった。女王を想い、彼女の言葉に怯み、最後はプリキュアの言う事を理解しようとした。しかし平行線で終わってしまった。あるいは彼が行動を起こす前にのぞみたちとであっていたら、結果は違っていたのかもしれないし、こんな出来事は起こらなかったのかもしれない、しかし、そんなifはないのだ。彼が行動を起こしたからこそプリキュアはお菓子の国へ呼ばれたのだから。

 と、物語を追いながら感想を綴ってきましたが、四回目の視聴にて意外にも「ここはこうなんじゃないか。こういうことなんだ」と色々分かってしまった感動もあって随分な長文になってしまいましたが、今見れば、見所もたくさんあるし、話の展開も二転三転して飽きさせないし、戦闘も派手さはないけれども所々にいい動きと作画があって、物語としても、欲望に取り憑かれた孤独な男の悲しい結末を描いており、全体的に見てもとても良く出来ている。
 ただ、分かりにくさというのはあるので、むしろお子様よりかは大きなお友達の方が見て楽しめるんじゃないでしょうか。
 「ここはどういう事なんだろう」と考えながら見ないと「なんか設定投げっぱなしだな」と感じてしまう恐れがあるので、見るなら「よし!見るぞ!」と意気込んでみた方が良いかもしれません。
 なんにせよ、今見ると随分とおもしろい作品でありました。自分の中の評価が一気に変わりましたよ。気になる方は是非一度、もしくはすでにご覧になって私同様に「投げっぱなしだな」と感じていた方はもう二度三度ご覧あれ。
 最後に、当時「投げっ放しジャーマン過ぎる」とか言ってごめんなさい成田良美さん。Yes! プリキュア5GOGO!も今見たら印象違うのかなぁ。

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