<心気力一足一刀瞬息石火無妙術也>
居合は敵と居合わすの意味で、所謂撃剣の如く抜きあわせて勝負するものでなく機先を制して敵に一撃を与えまたは敵の出方に応じてこれに一撃を加える業である。従って右片手の業多し。しかしながら、左手不用かと言うに、これは然らず、抜刀、納刀、共に左手の働きによるところ殊更に重大なること忘るべからず。<居合術の要蹄は>政岡先生の言葉にも『左手で抜き、左手で納める』とあり。
学に従い了解せられるであろう。然して、居合とは抜刀、抜合、抜剣、坐合、居相、鞘の内(新陰流)等とも書き、適の居合わす意で、適を仮想してこれに対して刀の抜き方、収め方、斬撃刺突、攻防の方法等を厳格なる作法、周到なる注意の下に練磨する武道云々と、政岡先生の本に書かれている。
『在先看破気敵色意向即座瞬間振白刃粉砕敵臨機応変』(先ず、敵の気色、意向を看破すれば、即座瞬間に白刃を振って敵を粉砕する事臨機応変にあり。) 電光石火一瞬に勝ちを制する為の身体の運用練磨と精神の鍛練とを行う道。<居合学びの大むね(剣法略記)>剣刃の鞘に在るのは、例えば大極の静かなようなもので、剣が鞘を潜る間に一理陰陽となろうとする理があり、その鯉口を離れるところ、初めて天地は位し、剣が敵の身に中って勝ちを我に得るところ、神明が初めてその中に在るようである。鋒が鯉口を離れると敵は二つになり天地が位すれば、神明はすでにその中に在るのである。
『このならはしの教えは刀のさしざま、鞘手のかけざま、鯉口のきり様、柄手かけ様、大紋形のことゆへ(柄手のかけざる前のならわしなり)ぬきかかり、鞘の内ぬきはなし、切り付け、柄手のわたり、かざしさま、うちざま、手の内のこころ、しめゆるめ、足の踏み出しざま、立ちざま、手の高低、手ぶさの習いなどのくさぐさよりはたらきわたるさま、勝負の分かるきわぎわ、刀の扱い、収めざまのことわざを初め習わす教えにして、勝負拘りたることはなきに、おのづから其の事はこもるなれば常にこの習わしを重ねて手にならしむる時は、筋になれ、骨になれ、かたちに染み、心に気に入りて刀も業も我がものとなりて、我も知らず、人も知らず心おさまり静にして心気かたちに現れゆたかにして物よくとしかなうなれば、思いよらざる変に応ずる事のおのづから備わりて妙なる霊しき事を得るなり。よく学び習わして己がものとなさざればすむまじき業なり。この教えにつきてはことはりいと多し。』<新以心流後目録>乾坤無地卓孤節 喜得人空法又空
珍重大宋三尺剣 電光影裡斬春風不知居合者不知運剣法者也、剣居合唇歯輔車関係也
居合と言う事は、太刀を抜く事を居合と心得たる人多し。嗜まざる至極なり。抜かぬ前の平常、人と相対するを居合と言うなり。己を立て、人に逆らう時は、敵となりて居合も崩れ、抜き放ち喧嘩となるべし。常に人を立てて、己を立てず、柔和を第一とし、居合の実意を守り、礼儀を正し、人に後れて身を直くすれば、居合整い、天理に叶い、いよいよ天下和順にして、其の徳自ら備わるなり。又片時も油断なく出入り起居を慎み、遊山翫水といえども、心を静め用心致し、日夜朝暮心の油断なく、心の敵を作らず、己を責めて、己に克ち、居合艮今に過ちを改め務るを居合の大事とするなり。
下緒
中央付近を小指に引っかける又は中央付近を刀と一緒に提げる左手に刀を提げる
左手に刀を提げる時刃を上にして栗形の上部鯉口近い所を握り腕は自然に延ばし刀は斜めに保持する
親指を鍔にかける鞘走らぬ為、敵から刀を抜き取られない為、鯉口を切る為なり
右手に刀を持つ時は食指を鍔にかける
座る時は鐺床に当たらぬように保つ座り方
座る時に当たり先ず右手で袴のまちの下を右手掌で左へ更に甲の方で右へ払って座る。これは袴が足元にまといつくのを防ぐ為であり座った所袴のすそがちょうど蝶の羽根のような形となる。この場合右手で袴のまちの下を後ろに払って座る方法もある。(山本晴介先生がよくなさる)
即ち上体をやや前方に曲げ右手を浅く袴の股に入れ右手の掌で袴を左に払い更に手を返して掌で右に払う。両膝を曲げ、左右膝とつきりょ足先は延ばしてその上に腰を落ち着ける。左右膝頭の開き具合は両拳が入るほどにし、足は重ねることなく足の親指を左上右下(左下右上の方がよい)に重ねる。手は親指を軽く握り(握らない方がよい)込んでやや伏し目にして腿の上に置き体を垂直にして丹田に力を入れる(大切である)。両肘はやや張る(自然がよい)。目は真っ直ぐより下約三メートルほど前方の床を見る。凝視してはならない。所謂遠山の目付けである(目は半眼にして自然がよい)。立ち上がり方
両膝を合わせ腰を浮かす両足先を爪立てる。
右足を左膝内側に送り腰を浮かして立ちあがり左足を右足に揃える。礼法
<正座に対する礼>
提刀のまま上体を約十五度前に傾けて礼を行う。<神前又は特別丁重を要する上座に対する礼>
指を内側甲を向かい側になるように左手甲を回し身体の中央前に刃を差方向になる如く刀を垂直に持ち、甲を内側小指上親指下になるように右手首を返して左手の下を右手で持ち左手を離し自然に左側に垂れ、柄を後ろに切先を前下がりに刃部を後方に向け右手の甲を前にして体の右側に持ち礼をなす。礼終われば前と逆に再び左手に持つ。<刀に対する礼>
練習及び演武の前後に必ず行う
正座して右手にて刀を持ち鐺を右膝斜め前に立てそのまま刀を左に倒す。下げ緒は、右手にて鞘の向う側(現在は内側)に沿わせる。礼をなす。この時両手は指先を接して八の字につき礼を行う。帯刀
右手にて上より刀の栗形の上部を持ち(右人差し指を鍔にかける)刃を自分の方に向け鐺を両膝中央前にある如く刀を立てて左手を以って鞘の下部を上より下になで(この時体を屈しない)左手を以って帯刀すべきところの帯の個所に当て左手を以って鐺をあてがい少し差せば左手で鍔際右手で柄頭の所を押して帯刀する。
下緒は帯より下の鞘に外より懸ける
帯刀は体の横に帯びるのではなく前半に刀は水平に近く帯びるもので鍔の右側即ち内側が臍の前に来るよう帯刀する。
正式には角帯を締めておるものである。それで内二重を残して帯の間に鞘を入れて栗形の所まで差し込む
一度立ち上がり業に移る
一つ業終わる毎に次の業の為の姿勢を採る終礼
終わりに行う礼であって上述の逆に刀に対する礼、神前に対する礼又は上座に対する礼の順序に行う
刀に対する礼の場合左手を以って下緒を右手に渡し更に刀を帯した所にあてがい右人差し指を鍔にかけ右手を以って刀を抜き取り鐺を右膝前につけて左に倒して一文字に置き礼を行う稽古の場合その前後師に対する礼
刀を体右側に刃を内側即ち自分の方に向け膝頭と柄頭と並ぶようおきて礼を行う抜刀
正座の場合先ず両膝を静に合わしながら右手を下方より柄にかけ左手は鯉口に懸ける。腰浮く時臀部足をはなるるとき、足は必ず爪立つべし。
<順序>
1.右手を以って柄を握る2.鯉口を切り
鯉口の切り方
@普通(外切)
Aかくし切(内切)
B両切3.左親指を鞘に副える
4.次に抜きつけ(序破急の順序)即ち柄に右手を移すと
直ちに抜き出し初めは静に次いで早く終わりは急に
抜く最初の抜き付け、撃突、受け流す何れの場合においても刀を抜いてから行う事なし、抜くとそれをなすなり。即ち切先鞘を離れんとする所まで抜き、切先鞘を離れるやそれを行うなり。切先が鞘からはぢき出される気味なり。抜き付けの場合においても刀を抜いて切り付けるのではない。抜くと切り付けるなり。
納刀
左手中指中央即ち中指の略中心を鯉口の角にあてがい食指、中指及び親指を以って楕円形鯉口を作る。食指等鯉口より離すべからず。
右手の拳を上に返し刃を上に刀背を左手の親指食指の股を食指の第二関節に当て右斜め前に刀をしごき刀先親指食指の股を過ぎ鯉口に達するや左手にて刃と鞘が一直線となる如く操作して(この操作は余り目立たないのがよい)右手を手元に寄せ鞘に収める。
納刀終われば親指は離して鍔を上方より押さえる。
更に右手を柄頭に当て刀を十分納め切るべし
鯉口の上に鯉口の形に作りたる左手指は鞘から離すべからず。他流と異なる所なり。鞘は腰に多少の自由は認められるが納刀に際し殊更に迎えに行く事無し。迎えに行く如き納刀を行うもの他流にあり。