大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)
殺生 偸盗 邪淫 飲酒 妄語
この地獄の鬼が次のような詩を述べて罪人を叱りつける。「嘘をつくというのは、何者にも勝る強い火で、大海さえも
焼いてしまうのだ。まして、嘘をついた人を焼くなどは、薪や枯れ草を燃やすようにたやすいことなのだよ。」と。
小地獄 |
どんな罪人が |
どんなところ |
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第一 |
こうこうしょ 吼吼処 |
もめ事を起こし、親切に世話をしてもらったのに、恩を仇で返し嘘をついて相手を貶めた者 |
ここでは罪人の舌が徹底的に責められる。まず鋭い刀で顎に穴をあけ、ヤットコで舌をはさみ、引き出す。そして、その舌に悪泥水という毒を塗りつける。とたんに口の中は炎と燃え、舌は焼けただれる。炎の中には、無数の黒虫がいて、焼けただれた舌を根本まで食いちぎる。罪人は苦しくて声にならない声で吼え続けるので、この名が付いている。 |
第二 |
じゅくむうすうりょうしょ 受苦無有数量処 |
妬み,嫉み、僻みなど、卑しい感情や欲から、自分よりすばらしい人を陥れようとして、でっち上げて貶めた者 |
罪人の体の中に無数の虫が生じて動き回り、耐えられない痛さと痒さでのたうち回る。それだけでなく、虫が毒をはき出すから、内臓も肉も骨も神経も髄もおかしくなる。また、獄火で焼かれ、希望のない苦しみ、慰められることのない苦しみが延々と続く。嫉妬で身を焼いたからである。 さらに、「抜草苦」という固いトゲが無数に生えている毒草を薬と偽って塗られ、皮膚はずたずたになり、肉までぼろぼろになる。トゲからは猛毒が出ているので、焙られるような痛さも味わわされる。 |
第三 |
じゅけんくのうふかにんたいしょ 受堅苦悩不可忍耐処 |
一国の長、またはしかるべき役職に就き重大な責務をもっているにもかかわらず、いざというときに責任を転嫁した者 |
罪人の体の中に、数え切れない数の、火を噴き、猛毒をはき出す蛇が生じる。毒蛇は、血管、神経、筋肉、内臓、骨、髄などどんなところにも入り込み、からみつき動き回って締め上げ、毒を吐き、火を噴き、食いちぎってしまう。その苦痛は表現不可能なもので、とうてい耐えることができないことから、この名が付いている。 |
第四 |
ずいいあつしょ 随意圧処 |
他人の田畑、土地、森林を奪った者 |
猛烈な熱風によって、意のままに吹き飛ばされ、岩にぶつかり壁に打ち付けられて痛めつけられる。倒れるとたいへんな圧力で押さえつけられ、潰されてしまう。 巨大な山のような鉄のふいごが二つあり、あらゆるものを吹き飛ばしても、なお余りがあるほど猛烈な台風と竜巻がいっしょになったような風が起きる。火山の噴火のような熱風が吹き出すのである。 罪人は焼かれたあと、溶かされた鉄鉱石のように、鉄鉗ではさまれ、鉄枕の上に置かれ、大きな金槌で何度も何度も打たれる。 |
第五 |
いっさいあんしょ 一切闇処 |
他人の妻を強姦しておきながら、誘惑されたと嘘をついた男 |
鬼は、「この頭が嘘を考え、この口が嘘を並べたのか。」と叫び、まず鋭い刃のなたを脳天に振り下ろし、真っ二つに断ち割る。頭蓋が割れ、顔も口も裂ける。そして、舌を鉄鉗ではさんで引き出して切る。縄のれんのように切り裂かれ、炎の刀でさらに焼き切られる。 |
第六 |
じんあんえんしょ 人闇煙処 |
仲間とがんばろうと誓い合いながら、裏切ったもの |
まず全身を細切れにされる。痛くて我慢できないが、とにかく際限まで切り刻まれる。文字通り微塵になるまで切り刻まれ、事切れるのだが、また元の身体にされ、同じことがくり返される。 そのあと、肉を削ぎ落とされ、骨だけにされる。その骨の中に、虫が無数に生まれる。虫は鋭く固い金剛の嘴を持っているので、全身の至るところをはいずり回ってかみつき、食いちぎる。火と毒を噴き出す虫もあるので、苦しみは限りない。 |
第七 |
じょひちゅうだしょ 如飛虫堕処 |
修行中の僧侶たちの持ち物や布施でいただいた穀物や衣服などを盗んだり、托鉢でいただいたものを独り占めにしたり、それを売ってもうけた者 |
ここには巨大で獰猛な鉄の狗が数え切れないほどいて、血肉に飢えて唸り声をあげている。罪人は、狗にむさぼり食いちぎられ、腹をかみ切られ、内臓や骨も食われてしまう。鬼は、罪人の体を切り刻み、切り取った肉片を鉄の狗に与えていく。 また、鬼は、罪人の顎を鉄鉤で引っかけて口を開けさせ、鉄鉗を突っ込んで舌を引き出し、「この舌が虚言の元凶だ。」と責めに責めあげる。ここから逃げ出した者は、逃げ出せたと思い、飛び込んだところが巨大な炉で、どこまで行っても火責め地獄から逃げ出せないことを思い知らされる。 「飛んで火にいる夏の虫。」というわけである。 |
第八 |
しかつとうしょ 死活等処 |
出家ではないのに、出家姿で人を欺いた者 |
鬼は罪人の体を鉄杖で思い切り打つ。打ちまくられ、罪人は死ぬが、杖を放すとすぐ生き返り、また打たれる。苦しさに前方の林に逃げ込むと、そこは、池もあり、青い蓮が咲き乱れ、何とも美しい所で、罪人には極楽のように見える。しかしそれは騙し絵。実際は火の池地獄。あまりの高温で、炎が赤から青に変わっているのである。鬼は、逃げられないように罪人の足を切ってこの火の池地獄に投げ込む。 |
第九 |
いいてんしょ 異異転処 |
大嘘をついて事業を失敗させたり、勝負で負けさせたり、事故に遭遇させて命を落とすような目に遭わせた者 |
遠くで父母、妻子、部下、友人、恩師、恩人などが手招きしている。思わず走り寄ってみると、真っ赤な溶岩がどろどろ流れる河の中で、みんなが泣き叫び、助けを求めている。罪人は助けようとするが、鬼が仕掛けた罠にかかり、捕らわれ、全身を切り刻まれ、痛めつけられる。皮をはがれ、肉を削がれ、筋を抜かれ、骨だけにされる。愛する家族や恩人が熱泥の中で苦しんでいるのに、何もできないのは、もっとも情けない。 |
第十 |
とうきぼうしょ 唐悕望処 |
病気や貧困で苦しむ人を見ながら、知らぬふりをした者 |
この小地獄には、キャダニ食、フジャニ食と呼ばれるご馳走がある。掃除も行き届いて清潔そのものである。ふかふかした布団も敷かれている。贅沢三昧、超高級ホテルのスウィートルームに医者看護婦付き。 ところが、用意された食べ物、飲み物を口に入れようとすると、スープは煮えたぎる鉄の汁、温かそうな湯気は熱炎、食べ物は毒と火の塊、食べることも飲むこともできない。 それよりも前に、入り口でたいへんな目に遭う。入り口は鉄鉤でつくられており、全身が傷だらけになってしまうのである。傷だらけになっても、欲深さと卑しさから、食べたい飲みたいとテーブルに近づくが、ご馳走のすべてが真っ赤に焼けた鉄でできており、大やけどしてしまう。 また、歓喜钁、随喜钁と名付けられた熱沸した鉄汁の鍋に投げ込まれて茹でられる。逆さづりに茹でられ、大声で叫び喚くが、救けてもらえない。 |
第十一 |
せきはくのうしょ 雙逼悩処 |
町や村、あるいは会や組織の中で、和を乱したり、他人の悪口を言ったりして貶める者 |
炎の牙を持った数え切れないほどの獅子がいて、人を見ると襲い、敵愾心を持ってかみつく。全身を炎の牙の獅子に噛まれ、食いちぎられて大声で叫び喚くが、誰も助けてはくれない。獅子の牙は炎も噴き出すから、大やけども負う。 |
第十二 |
てつそうあつしょ 迭相圧処 |
夫婦親子、兄弟姉妹、親戚縁者の間で、財産や相続で醜く争った者 |
至るところに無数の鋭い刃の鉄鋏が置いてある。鬼は罪人を捕らえ、罪人に騙された者を連れてきて、鋏を渡して騙した者の肉を切り取らせる。そのあと、切り取られた肉が口に押し込まれ、無理矢理食べさせられる。自分の肉を食うという苦しさに加え、自分が吐いた言葉の嘘が、苦しい毒となるのである。 |
第十三 |
こんごうしちょうしょ 金剛嘴鳥処 |
病気で苦しんでいる人に理屈にならない理屈を並べ、嘘をつきしかるべき治療を施さず、必要な薬を与えなかった者 |
ここには金剛嘴鳥という名の、硬くて鋭い金属の嘴をした鳥が、数え切れないほど飛び交っている。この鳥は、鋭い嘴で頭から足の先まで全身を啄み食いちぎる。食いちぎられたところは肉がはみ出てただれ、遠くから見ると蓮華のようである。 このあと、熾烈な火焔が燃えさかる道を行かされ、熱砂のうえを裸足で歩かされる。 さらに、次の責めがある。今度は自分の舌を食う亡者にされ、食って舌がなくなると、すぐに生え、延々食い続ける。嘘を言った罰である。 |
第十四 |
かまんしょ 火鬘処 |
法を守るべき立場にある裁判官、検事、警察官らが、嘘八百を並べ、罪を逃れようとした者 |
まず真っ赤に焼けた鉄板の上に置かれる。そして、うえからも焼けた鉄板をかぶせられてしまう。鉄板にはおろし金のようなトゲがついているので、肉も筋も内臓も骨も血管も、罪人の肉体のすべてがすりおろされて、血脂泥肉になってしまう。 次は溶岩の河で熱地獄。火山爆発で溶岩が流れ落ちていくように熱で真っ赤に溶けてどろどろになった灰がぶくぶくと大きな泡を立てながら流れている。どろどろに溶けた熱灰に巻き込まれて液体になってしまう。 |
第十五 |
じゅふくしょ 受鋒苦処 |
素直な心からの布施に言いがかりをつけ、布施の額や中身えこひいきした者 |
焼けた先のとがった鉄針で、口と舌とがいっしょに突き通されるので、泣き叫ぶこともできない。 この責めから逃げようにも捕まって身動きがとれないので、全身わずかな毛根の隙間すら見逃さないほどに突き刺される。痛い上に熱い。口と舌を突き刺されているから、苦しみもまったく言葉にならない。 |
第十六 |
じゅむへんくしょ 受無辺苦処 |
人を正すべき立場にありながら、間違った道を教えた者 |
鬼が焼けたカナテコで罪人の舌を抜く。抜いたあとから再び舌が生じ、生じるとまた抜く。目玉も同じようにして抜かれる。また、カミソリのように薄くてよく切れる刃をもった刀で罪人の全身を切り刻む。そこに断虫という鋭い刃を持った虫を数え切れないほどばらまかれる。罪人の体にかみつき、切り刻まれた全身を食べる。痛いことこの上ない。 このあと、真っ暗闇の中で、炎を噴き出す鋭い金属の口と歯と爪を持った摩竭魚がいて罪人を焼いた上で頭からかみ砕いてしまう。腹の中でも炎が燃えさかっていて、さらに焼かれて食べ尽くされてしまう。 |