叫喚地獄(きょうかんじごく)

  殺生 偸盗 邪淫 飲酒

 この地獄の鬼の首領は、体中が金のように黄色で、目から火を出し、真っ赤な着物をつけている。手足も大きく、風の
ように速く走り、気味の悪い声を出して、罪人を怖れさせる。また、鉄の棒で頭を打ったり、厚く焼けた鉄の上を走らせ
たり、熱した鍋の中で罪人を何度もひっくり返して炙る。そのうえ、熱した釜の中に入れてぐつぐつと煮たり、炎でいっ
ぱいになっている鉄の部屋に入れたりする。または、口をカナテコでこじ開けて、煮えたぎった銅の液を入れて、体中の
諸器官を焼いて肛門から出したりする。

 生き物を殺し、他人のものを盗み、よこしまな性行為を持ち、酒を飲んだものがこの地獄に堕ちる。

 

小地獄

どんな罪人が

どんなところ

第一

だいこうしょ

大吼処

 修行し、仏の教えを学びとろうとしている人に酒を飲ませた者

 罪人は無理やり口をこじ開けられ、煮えたぎった白鑞を大きな鉄盃何杯分も、あたかも酒のように流し込まれる。口、喉が焼けただれて、動物がほえるように大きな声を上げる。

第二

ふせいしょ

普聲処

 仏門修行に入り、何とか比丘を認められた者が、心の弛みから酒を飲んでしまった者

 鬼は、大きな杵を振り下ろし、激しく打ち据える。痛苦に泣き叫ぶ声は、この小地獄全体を取り囲むようにそびえる鉄囲山にこだまし、地獄の河面に波紋をつくり、隅々まで普く聞こえわたる。何度も打ち据えられるうちに、肉も骨も筋も何もかも粉々になり、随は飛び散り、罪人は影も形もなくなってしまう。さらに鬼が粉々になった肉片骨片を集め、息を吹きかけると、元の体に戻ってしまうので、苦痛は際限なくくり返される。

第三

はつかりゅうしょ

髪火流処

 修行して五戒を学んだ者を唆して酒を飲ませた者

 ここは火の雨が降っている。罪人は酒を浴びたように火の雨を浴び、頭の先から足の先まで焼かれてしまう。頭髪は燃え上がり、さながら火を噴く鬘となる。

第四

かまつちゅうしょ

火末虫処

 酒を売るのに水を加えて売った者

 ここにはあらゆる病気がある(病気の数は404)。その中の一つの病気でさえも、一昼夜の内に、この地球上の多くの人を殺すほどの力がある。その病気で延々苦しんだあと、404病のひとつずつで命を落としていく。

 また、体中から虫が出てきて、皮・肉・骨・随までも破って食い尽くしていく。

第五

ねつてつかしょしょ

熱鉄火杵処

 鳥獣に酒を飲ませたり、薬物を与えたりして食べたり、売ったりした者

 罪人は、鳥獣にしたのと同じように、鬼からまともな判断能力や自由な動きを奪う熱沸の液を飲まされる。もうろうとし、動けない状態の罪人を、鬼は真っ赤に焼けた大きな杵で何度も打ち据える。

 鬼は、たくさんの罪人に相撲の立ち会いのように向かい合わせて、全力でぶつかり合いしろと命じる。お互いがつぶし合って細切れの肉の山になってしまう。鬼はそれを餅のようにして食べてしまう。

第六

うえんかしょ

雨炎火処

 象に酒を飲ませて暴れさせ、建物を壊したり、人をけがさせたりした者

 ここには、全身が火の塊となっている恐ろしい大きな恐竜のような象がいる。まず、鼻で罪人を打ち据える。丸太ん棒を何百本も束ねたような鼻が打ち下ろされ、あっという間もなくつぶされてしまう。それと同時に火の塊が雨のように降ってきて、焼かれ、また、象の大きな足で踏みつぶされる。痛さと暑さで泣きわめくことになる。

 このあと、銅が溶けてぐらぐら煮立っている大きな鼎に放り込まれ無量百千年にわたって茹でられ続ける。

第七

さつさつしょ

殺殺処

 貞淑な女性に酒を飲ませ、淫行に及んだ者

 まず、熱い鉤で男根を引き抜かれる。あまりの痛さに泣き叫ぶがどうしようもない。それで終わりではなく、男根は若布のようにすぐ生えてくるので、また引き抜かれる。これが際限なく続けられる。

 万に一つこの責め苦から逃げ出すことに成功したとすると、罪人は一瞬歓喜に叫ぶが、そこは目のくらむような断崖絶壁である。振り返ると鬼がすぐそこに迫っているので、絶壁から飛び降りてしまう。するとそこは無数の鉄の鋭い嘴をもった烏、鷲、鳶、鷹など猛禽類が飛び回っていて、獲物がくるのを待ち受けている。あっという間に餌食になり、全身を啄まれてしまう。

第八

てつりんこうやしょ

鉄林曠野処

 酒に毒物や不純物を混ぜて他人に飲ませ、体をおかしくさせたり、殺したりした者

 ここには高速度で回転する真っ赤に焼けた鉄の輪がある。鬼は、まず罪人たちを真っ赤に焼けた鉄の鎖で縛り上げ、この高速回転している炎熱の鉄の輪に引っかける。遠心分離器にかけられるのと同じで、目が回るだけではなく血液など体液はぜんぶ吹き飛んでしまう。鬼は、高速回転する罪人に向かって次々と鉄の矢を射る。矢は火を噴き出し毒が塗られている。いられた無数の鉄と炎の矢は、罪人の体にまるで林のように林立する。

第九

ふあんしょ

普闇処

 安い酒を偽って高く売りつけた者

 ここはすべてが漆黒の闇で、闇なのに火が燃えている。たいへんな高熱である。鬼は、闇討ちするように罪人たちを金棒で打ちまくる。罪人たちは、誰に打たれたのか解らないまま、ぶっ飛ばされ、体中傷だらけになる。さらに、高熱の火でやけどを負い、全身がただれてのたうち回る。

第十

えんまらしゃやくこうやしょ

閻魔羅遮約曠野処

 病人や妊婦に元気づける薬だとだまして酒を飲ませた者 

 まず、吊り下げられ、金棒で思い切り打たれる。その次に、足の先から火をつけられ、頭まで焼かれる。そのあと炎熱の刀で、頭の先から足の先まで切られ、裂かれ、刺され、削がれ、徹底的に痛めつけられる。満身創痍、全身血だらけになり、誰であるかわからないようになるまで責められる。

第十一

けんりんしょ

剣林処

 旅人に偽って悪い酒を飲ませ、金品を奪った者

 ここでは雨のように炎火の石が降ってくる。真っ赤に焼けた石は細かいうえに無数に降ってくるので、全身あますところなく傷つき焼かれてしまう。この火の雨があつまって、いたるところ熱沸の河ができる。煮えたぎった血、赤銅、白鑞が沸騰して泡立ちながら流れている。罪人はここに投げこまれて茹でられる。

 この河から運良くはい上がっても、そこは剣が密林のように突き立ち、からまってジャングルのようになっている地獄になる。一歩でも進むものなら全身が傷だらけになってしまう。

第十二

だいけんりんしょ

大剣林処

 砂漠のど真ん中の、この道しかないところで、酒を売って暴利を貪ったもの

 ここには剣の形をした山よりも高い大木が立っており、葉は鋭い刀で茎からは炎を吹き出し、幹は真っ赤に焼けた熱鉄で煙突のように毒を吹き上げている。

 罪人はざんざん苦しめられたあと、鬼に蹴飛ばされ打たれながら、もっと鋭く大きな剣が密集して突き立っている大検林に追いやられる。蹴り込まれて意識を失い、木の根本に倒れ込むと、刀が雨のように降ってきて体に突き刺さる。刀は無数に降ってきて、肉も筋も、神経も内臓も、骨も髄も切り刻まれてしまう。逃げてもすぐ捕まり、枷で磔にされて、体を少しずつゆっくり切られていく。剣のジャンクルにうまく身を潜めても、そこには鉄の鋭い嘴をもった獰猛な鷲が無数にいるので、すぐその餌食となってしまう。剣の幹によじ登った罪人は、下から槍で突かれるので、さらに高いところに上るのだが、枝が細くてすぐに折れて落ちてしまう。

第十三

ばしょうえんりんしょ

芭蕉烟林処

 戒律を守る貞淑な女性に酒を飲ませ、淫行強姦を働いた者

 ここは火を噴く芭蕉が一分の隙間もなく植わり、密林のようになっている。罪人はゆっくり時間をかけて厳しく咎められながら焼かれていく。

 特に男根が徹底して責められる。金棒で激しく殴打され、膨れあがって傷だらけになったところを焼かれ、尿道に毒煙が注入される。

 また、煙葉鬘という名の大きな鉄の鳥が飛んできて追いかけ回す。煙と炎を吹き出しているので、目くらましされたようになって逃げることができない。その鋭い嘴で全身を突かれ、肉を噛みちぎられ、熟れて潰れたザクロのようになってしまう。

第十四

うえんかりんしょ

有煙火林処

 政治家や役人に酒を飲ませ、有利な取り計らいを得ようとした者

 ここは熱風が竜巻のように吹き荒れており、巻き込まれて全身がまるで刀で切られたようになってしまう。もちろん大やけどを負い、皮膚はただれてしまう。また、竜巻に高くとばされ、真っ逆さまに落ちて、骨は折れ、筋も切れ、肉は崩れ、切れ切れになってしまう。

 このあと鬼は鉄棒で罪人を激しく打ち、鋭い刃の刀で体を切り刻み、さらに万病に罹患させ、熱灰をぶっかけて苦しめる。

 また、脳に腫瘍や瘤を植え付けられ、頭頂が三角錐のように隆起して苦しむ罰もある。

第十五

うんかむしょ

雲火霧処

 戒を守って正道を歩もうとしている人物に酒を飲ませ、弄び、辱め、笑い者にした者

 ここも火焔竜巻地獄。人の背丈の何百倍もの高さと厚さをもった火の塊が無数に存在し、ごうごうと音を立てて燃えている。鬼は、罪人が苦しむのを確かめながらゆっくりゆっくり焼いていく。焼かれた体は木の葉のように舞、十方に展開して縄のようにねじられる。熱いうえに高速でねじられて痛くてたまらない。 

第十六

ふんべつくしょ

分別苦処

 使用人に酒を飲ませ、暴れ回るようにあおり、鹿などを捕らえて殺すようにけしかけた者

 鬼は、罪人を何百何千何万何億回殴り、蹴飛ばし、倒れさせ、酒を飲むことがどんなに悪いことかを説教する。


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