焦熱地獄(しょうねつじごく)

  殺生 偸盗 邪淫 飲酒 妄語 邪見

 この地獄の鬼は、罪人を捕まえて熱い鉄のうえに寝かせ、上に向かせたり、舌に伏させたりして、頭の先から足の先ま
で、大きな熱鉄の棒で打ったり突いたりして肉団子のようにする。また、熱く焼けた大きな鉄の釜の上に置き、すごく暑
い日で炙って、あちこちに転がし、裏も表も万遍なく焼き焦がす。また、大きな鉄の串で肛門から頭まで突き刺し、何度
もひっくり返して炙って、罪人の体のあらゆる部分から炎が出るようにする。また、焼けた釜に入れたり、鉄の高台に乗
せたりして、骨の髄にまでとおるほど焼く。

 仮に、この地獄のほんのわずかの火を人間世界のもってくるとすると、一瞬にすべてを焼き尽くすほどである。この地獄
に堕ちた人が、前の五つの地獄の火を見たら、まるで霜や雪のようなものである。

 

小地獄

どんな罪人が

どんなところ

第一

だいしょうしょ

大焼処

 殺生は救済であると言って、平然と人や生き物を殺し、草木を踏み散らした者

 この地獄の熱さは、他の地獄のすべてを焼き尽くしても、なお余りある。体の外からと内からの二つの火で焼かれるのみならず、第三の火によっても焼かれる。第三の火とは殺生を肯定し、平然と美化し、何ら躊躇することなく積極的に実行する間違った心が燃えさせるもので、目で見ることはできないけれど、たいへんな高熱で罪人を焼き、心身両面に苦痛を与える。

第二

ぶんだりかしょ

分荼離迦処

 食べることをやめ、その結果死ねば天に生まれ変わることを信じ、飢死自殺した者

 ここは、髪の毛一本すら入る隙間もないくらい、至るところで火が噴き出し、すべてが燃え、炎が渦巻いて、罪人を焼き尽くしてしまう。焼かれて灰粉になってしまった罪人が、鬼の一息で生き返り、次の苦しみが始まるのはここでも同じである。

 遠くから見ると白蓮華が咲いた極楽の池のような所がある。罪人は全速力で走っていくが、すべては錯覚である。池までの道が極楽のように明るいのは、獄火が満ち満ちているからである。

第三

りゅうせんしょ

龍旋処

 礼儀作法が持つ意味と意義を理解しようとせず、服装や立ち居振る舞いがだらしない不作法者

 ここには、頭から炎を噴き出す、山のような大きさの、鋭い歯と毒をもった牙をむき出しにした、まるで恐竜のような龍が数え切れないほどいる。激しく怒るたびに毒と噴煙を噴射する。龍の肌は岩のように硬く、鋭く尖るトゲだらけで、それが怒って竜巻のように回転して暴れるので、罪人は粉々になってしまう。また、強力な歯でかみ切られ、潰されてしまう。牙からは毒と炎が噴射されているので、毒と熱で延々と苦しめられる。

第四

しゃくどうみでいぎょせんしょ

赤銅弥泥魚旋処

 因果応報や修行の努力を否定し、運命は決まっているなどとし、仏の教えに従わない者

 ここは、赤銅がふつふつと煮えたぎる広大な海であり、カミソリの刃よりも鋭い歯を持った弥泥魚が無数にいる。口から粘液状のつばを出し、罪人を絡めて捕まえてしまう。そして、罪人をいたぶり、恐怖と苦痛を十分味わわせたあと、まず体の半分を噛み、残りの半分を赤銅の海で焼く。泣き叫ぶ罪人の涙を極上の調味料のように味わいながら、ゆっくりと食べるのである。

第五

てつかくしょ

 仏道修行者を殺すことを正当とし、「殺生は救済」という誤った考えを持った者

 ここには、赤銅が溶けて煮えたぎる六つの鍋がある。第一は「平等受苦無力無救」、串ざしにされ熱沸の銅で煮られる。第二は「火常熱沸」、常に熱沸、再高温の鍋である。第三は「鋸葉水生」、逆さづりの状態で投げ入れられ、鋸で切られたように刻まれ、煮られていく。第四は「極利刀鬘」、非常に鋭い刀が内側についたかづらをかぶせられて茹でられる。第五は「極熱沸水」、普通の沸騰水以上に高い温度の、強烈な熱さと勢いを持った湯で茹でられる。第六は「多饒悪蛇」、鋭い牙と猛毒を持った数え切れないほどの毒蛇が入っている高熱の鍋で、焼かれ苦しめられる。

第六

けつかひょうしょ

血河漂処

 破戒しても荒行で罪が消えると称し、自分がしたり、他人を唆してやらせたりした者

 鬼は手から熱炎を噴き出しながら、枷・刀・矛・石を持って罪人に襲いかかり、全身を切り刻んで砕き、煮えたぎった銅の河に放り込む。流れる銅がまるで血の河のように見えるのでこの名がある。「血河漂」のあとは、「悪水可畏」という悪水が流れる河に放り込まれる。この河には、触れただけで火を噴き出し、触れた者をすべて焼いてしまう「丸虫」という名の毒虫が数え切れないほどいて、罪人に食らいつき、焼き、食べてしまう。

第七

にゅうこつずいちゅうしょ

饒骨髄虫処

 破戒悪行を注意されてもいっさい耳をかさない者

 鬼はまず大きな金槌で罪人の頭に長大な錐を突き刺す。足の先までを貫いて、杭のように立てる。そのように固められまま何日も放置され、そこに、数え切れない数の「湿生虫」が寄ってたかる。この虫は、湿ったところが好きで、腐敗した肉が一番の好物である。罪人は食われる時間が長くなるように、山のような大きさにされ、苦痛を与えられる。湿生虫のつぎは、「機関虫」が用意される。この虫は、まるで機械のように罪人の身・肉・骨を噛みつぶしてしまう。てたかる。いなすいをつきさす。りりりりりりてまわりりいて、どいて、て、いほどいて、んはこなごなになってしまう。

第八

いっさいじんじゅくしょ

一切人熟処

 火を放ち、火が飽満すると、天は歓喜し、自分が天に生まれ変わる、などと信じて放火した者

 身動きできないようにされた上で焼かれるのみならず、妻子・父母・兄弟姉妹・友人知人など愛するまわりのすべてが連座して焼かれる。愛する者が、火焔の中から泣き叫ぶのを聞かされ、精神的にも厳しく責められるのである。邪見から放火した罪によって、これまでの地獄のどの地獄よりもきつい火で焼かれる。縄はどんな縄よりもきつく締まり、枷はどんな枷よりも固く動きを封じ込める。

第九

むしゅうぼつにゅうしょ

無終没入処

 邪見の結果、他人の親切な忠告を無視し、仏の教えを理解ぜず邪道に走った者

 ここにも、頂上が見えないほど高く巨大な鉄の火を噴く山がある。木や草からも強烈な火が噴き出ているので熱くてしかたがなく、逃げようとしても逃げることはできない。

鬼は、足指から始め、体の部分を一つずつ焼いていく。

 ここから脱出できることもあるが、人ではなく、糞便を食べる餓鬼に生まれ変わらされるだけである。五百代にわたって糞便を食べて生きることを余儀なくされる。

第十

だいはずましょ

大鉢頭摩処

 僧侶を殺すと、十界の望むところに生まれ変れるなどと誤った考えをもち、殺生した者

 鬼は罪人の邪見を改めさせるために、頭の内部に鋭いトゲのついた大きくて重い鉢(鉢頭摩)をかぶせる。トゲは鋭くて長いから脳を突き抜けて、首から下にも突き刺さる。また、焼かれる苦しみも味わわされる。火焔が全身にできた傷をなめるようにするから、表現し尽くせない熱さ痛さに苦しめられる。「鉢頭摩」は、もともと真っ赤な蓮の花のことであり、紅蓮の炎で焼かれることの象徴である。

第十一

あくけんがんしょ

悪嶮岸処

 入水自殺するといっさいの罪が消滅し、梵天のつくった世界に生まれ変わると考え、自殺した者

 ここはあらゆるところが鋭く切り立った高い断崖絶壁である。罪人は鬼に追われてこの壁をよじ登っていくが、あまりの高さと険しさにおびえ泣きながら上る。また、岩の表面がトゲだらけで、至るところから火が噴き出しているので、全身傷だらけ、大やけどになってしまう。そして、ただれて血と肉が垂れ下がり、足を滑らせて落る。もちろん際限なく生き返り、責めがくり返される。

第十二

こんごうこつしょ

金剛骨処

 邪見から刹那的に生き、まわりにも吹聴し、快楽に引きずり込んだ者

 まず、罪人は鋭い刀ですべての肉をそぎ取らり、骨だけにされる。そして同じように骨だけにされた罪人の骨の一片を握らされ、互いに殴り合えと命ぜられる。熱地獄の中でお互いが粉々になるまで殴り合わされる。そのあと、鬼が息を吹きかけると、また生き返るので、殴り合いは延々とくり返される。

第十三

こくてつじょうひょうはかいじゅくしょ

黒鉄縄剽刃解受苦処

 五逆十悪を平然と犯し、いい加減な生き方をし、修行は無駄だと言いふらした者

 まず、トゲのついた黒い鉄鎖でつながれ、激しく炎を噴き出す鋭い刀で頭の先から足の先まで真っ二つに切り裂かれる。それも苦痛を長く味わわせるためにわざとゆっくり切られる。次は四つ、次は八つと延々と芥子粒ぐらいになるまで切り刻まれる。そのあとまた元の体にもどされ、同じように最初から責められ、苦しめられる。

第十四

なかちゅうちゅうあくかじゅくしょ

那迦虫柱悪火受苦処

 諸行無常を認めず、この世は定常、安心しようと言いふらした者

 罪人は頭から大きな針を突き刺され、先が肛門から突き出てそのまま大地に打ち込まれている。この世の諸行無常を認めず、不動を望んだからである。罪人はそのまま熱炎で焼かれる。そのあと、「那迦虫」という虫が罪人の体に食らいつき、肉も脂肪も内臓も脳も、すべて食べ尽くし、髄の髄まで啜り尽くしてしまう。それでも許されず、他人を惑わす元となった舌を、また、舌の根を切り取って地獄の狗に与える。

 何とかこの地獄から脱出できることもあるが、屎尿を常食とする餓鬼に生まれ変わり、毎日糞便や尿を貪ることになる。

第十五

あんかそうしょ

闇火風処

 素直に諸行無常・諸法皆空を認めようとせず、邪説を振りまいた者

 ここは、熱風が竜巻のように吹いていて、落ちたとたんに体が振り回される。執着・囚われ・拘泥から引き離すためである。風は刃がついているように鋭く強く、罪人の体は粉々になる。がんじがらめになった見方、考え方を潰すためである。

 仮に、この地獄から脱出に成功しても、食べては吐き、吐きだしては食べる食吐餓鬼の人生が待っている。

第十六

こんごうしほうしょ

金剛嘴蜂処

 無常・定常は因縁が決定すると、誤った考えを触れまわった者

 ここでは鬼が、きわめて細いピンセットのような物を手にして、罪人の体をちぎっていく。毛を毛根ごと抜くように突き刺し、皮膚だけでなく肉ごとちぎりとっていくので痛くてしかたがない。それだけではなく、引きちぎった肉片を舌におき、食べろと命令する。その肉は間違ったことを言いまわったおかげで、塩の何千倍何万倍も辛く、口に入れたと何にのどが渇いて水が欲しくなるが、水はどこにもない。苦痛と飢渇に苦しむことになる。

 さらに、至るところに鋭く尖った嘴と毒を持った蜂がいて、次々と刺す。刺されると毒で膨れあがって血が噴き出る。口が渇いているならとこの血も飲まされるのだが、舌の上に一滴乗せられるだけで口ものどもさらに渇いてしまう。もちろん焦熱で焼かれもする。


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