衆合地獄(しゅうごうじごく)
殺生 偸盗 邪淫
たくさんの鉄の山が向かい合って聳え立っている。牛の頭や馬の頭を持った鬼どもが、手に責め道具をたくさんもって
罪人を山の間に追い込む。すると両側から山がせまってきて罪人を押しつぶしてしまう。また、大きな鉄の山が空中より
降ってきて、罪人を砂の塊のように打ち砕く。また、石の上に罪人をのせて、大きな岩でつぶす。また、鉄の臼の中に入
れて鉄の杵でつぶす。すると、気味の悪い鬼や、獅子・虎・狼などの猛獣、烏、鷲などの鳥がやってきて食い散らす。
この地獄には大きな河がある。河の中には、鉄のくぎが真っ赤に燃えており、また、焼けてどろどろになった銅の液も
あり、その中に罪人は落とされる。
また、鬼は、罪人をつかんで、刀のように鋭い葉をした木の林に入れる。木の上を見ると、すばらしく美しい女性がい
る。そこで木をのぼってゆくと、葉が刀のようにその罪人の体や肉を切り裂く。このように体中を傷つけながらやっと木
の上にのぼってみると、さっきの美しい女性は地上にいる。「あなたを思うからこそ、わたしは下に降りてきたのですよ。
どうしてあなたは、わたしのそばにきて、わたしを抱いてくださらないのですか。」と。罪人はそれを聞くと、再び猛然
と欲望が起こってきて、下におりはじめる。すると、木の葉が全部、まるで剃刀のように鋭くとがって上に向く。のぼっ
たときのように体中を傷つけながらやっと地面にたどり着くと、美女はまた木の頂上にいる。それを見て罪人はまた……。
この地獄の中で、このように苦しみを受けるのは、正しくない性欲が原因である。
小地獄 |
どんな罪人が |
どんなところ |
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第一 |
たいりょうじゅくのうしょ 大量受苦悩処 |
邪淫な性行為をした者、また、それを覗き見て真似た者 |
鬼が炎熱の鉾をもって罪人の股間部を下から突き刺し、突き出た先が背中や腹、あるいは肩口にまで出てくるほど激しく容赦なく責められる。何人もの鬼が突き刺すので、耳に突き出たり、目から飛び出たりする。この格好で、男は睾丸、女は卵巣を抜かれる。 |
第二 |
かっこしょ 割刳処 |
口で男性を愛したり、自分が上になって積極的に性行為をした女性 |
口をこじ開けられ、舌が引きずり出されて痛めつけられ、のどに太くて長い熱鉄のくぎを突き刺される。その先は頭を突き抜ける。すると急に引き抜き、今度は口から耳に向けるように突き刺す。口淫したときのように、入れたりだしたりする。そして、銅の熱泥を流し込まれる。淫らな口、舌を焼き、心臓も肝臓も焼き肛門から流れ出る。 |
第三 |
みゃくみゃくだんしょ 脈脈断処 |
男性に無理やり淫行を迫った女性 |
鬼は女性罪人の口を無理やりこじ開け、大きな筒を強引に挿入する。そして、どろどろに溶けた熱い銅の汁をたっぷり飲まされる。熱くてわめきたいのだが、口ものども焼かれているので、まったく声が出ない。鬼は、「この口と舌が男を誘惑し、無理やり淫行に及んだのだ。」と言って、さらに銅を流し込む。 |
第四 |
あっけんしょ 悪見処 |
他人の子供を捕まえて無理に性行為をして泣かせた者 |
罪人が自分の子供を見ると、地獄に落ちていて、鬼が鉄の杖や鉄の錐でもって、その子の性器を突き刺したり、鉄のくぎを打ち込んでいる。その後、自分の体の苦しみを受ける。頭を下にされ、焼けた銅の液を肛門から注ぎいれられ、体内の器官がすべて焼け爛れ、最後に口から出てくる。 |
第五 |
だんしょ 団処 |
牛や馬、犬や猫などが交尾するのを見て、淫らな気持ちを起こし自慰にふけった者 |
ここには牛馬に似た恐ろしい猛獣がたくさんいる。その猛獣の交尾を見て淫らな気持ちを起こした罪人を、鬼は、丸ごとその猛獣の陰門に押し込んでしまう。猛獣たちの体の中は真っ赤に燃えており、罪人は丸焼きにされると同じことになる。この後、自分の妻が獣の集団の中でいいようにされるのを見せつけられる。妻は淫行にふけり、よがり声を上げる。 |
第六 |
たくのうしょ 多苦悩処 |
男でありながら男と性行為をもった者 |
生前関係をもった男がいて、その体を抱くと、体中が炎で包まれ、自分の体も焼けてこなごなになってしまう。死んでもすぐに生き返り、逃げていくと、険しいがけのところから下に落ちる。そして、口から炎を出している烏や狐がこの罪人を食い散らす。 |
第七 |
にんくしょ 忍苦処 |
他人の妻妾と関係をもった者 |
鬼が罪人を頭を舌にして足から木にぶら下げ、下から火を燃やして体中を焼く。やけ尽きると、また生き返る。苦しさのため大声を出そうとすると、火が口から入って体中の器官を焼く。 |
第八 |
しゅちゅうしゅちゅしょ 朱誅朱誅処 |
羊やロバなど家畜を相手に淫行をした男 |
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第九 |
かかけいしょ 何何奚処 |
近親相姦した者 |
鬼に金棒で激しく打たれ、人倫の道の外れたことを責められた上で焼かれる。そして、全身に火がついたまま谷間に追い詰められ、本格的な責めを受ける。また、烏丘山という全山燃えさかる山で焼き尽くされる。 |
第十 |
るいかしゅっしょ 涙火出処 |
まじめに修行している尼僧を誘惑し、また、暴力をふるい強姦したもの |
まず、目から火の出るほどすごい火に焼かれて苦しめられる。目を焼かれ体全体を焼かれたあと、まぶたを引き裂かれ、キャラダンという毒を眼窩に注ぎ込まれる。猛毒で熱くて痛い。さらに、大きな鉄のかぎと杵で男根と睾丸を打たれ、火であぶられる。 |
第十一 |
いっさいこんめつしょ 一切根滅処 |
女性に対して口や肛門を用いての性行為を行った者 |
鬼に捕らえられ、身動きできなくされたうえで、口をこじあけられ、鉄鉢から煮えたぎった銅を注ぎ込まれる。この中には熱鉄の黒虫がたくさん入っており、罪人の体の中で動き回って、内臓を食いちぎると同時に焼いてしまう。次は、罪人の耳、花、目、肛門など、体の穴という穴に煮えたぎった白鑞が注ぎ込まれる。 |
第十二 |
むひがんじゅくしょ 無彼岸受苦処 |
他人の妻と関係をもった者 |
火に焼かれ、刀で割られ、熱い灰をかぶせられ、あらゆる病気に苦しめられる。 |
第十三 |
はづましょ 鉢頭摩処 |
出家修行の身でありながら淫行にふけった者 |
この地獄は、いたるところ鉢頭摩(紅蓮)色に染まっている。遠目にはきれいなのだが、実は火焔と血に染められたものである。ここに落ちると鬼にすぐ捕まり、二つの罰のいずれかを選ばされる。大きな鼎に放り込まれてぐつぐつ煮られるか、鉄函の上に身動きできないように磔にされて大きな鉄の杵で何度も打たれるかのいずれかである。 |
第十四 |
まかはづましょ 摩訶鉢頭摩処 |
僧の地位を詐称し、邪淫にふけった者 |
ここには、火山から流れ出る溶岩のような紅蓮の熱灰が激しく流れる大河があり、罪人はここに投げ込まれる。次に魚にされて、熱泥の河に放たれる。あまりの熱さに苦しくなり、新鮮な空気を吸おうと思って、熱泥の流面に浮かび上がると、それを待ち受けていたように、鉄の嘴を持った鳥が襲いかかってくる。 |
第十五 |
かぼんしょ 火盆処 |
在家時代の美食飲酒遊興が忘れられない破戒僧 |
至るところから熱炎が噴出している。罪人はここに落ちたとたんにすべての火焔が集まるようになっていて、蝋燭のように燃え上がる。その熱さに泣き、叫び、わめく。それで口を大きく開けると、炎が入って大火傷し、舌も焼けてしまう。熱風はさらに喉と肺にも入り、耳にも入って泣き叫びわめく。目にも入り、熱炎は鉄の衣となって体を包み込んでしまう。 |
第十六 |
てつまっかしょ 鉄末火処 |
女性の外見の美しさに惑わされて、愛欲の心を生じさせ、不浄な淫欲に走った者 |
ここは高くて厚い熱鉄の壁に囲まれた四角の箱地獄である。鉄の炎が燃えさかった巨大な箱の中で焼かれつづける。罪人はどろどろに溶けた鉄の雨をかぶって焼かれ、芥子粒のようになってしまう。愛欲は灰になっても消えないので、粉末にされる。粉末にされた罪人は焼かれて舞い上がり、鉄の雨、火の雨となって降り、自らまたその火で焼かれる。 この小地獄の苦しみは、他のどんなものにもたとえることができない。 |