花咲くいろは 1〜13話

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第1話 十六歳、春、まだつぼみ

うはっ、なんか連ドラみたいだ。

 そんな今回のお話は…
 突然、母、皐月(さつき)から「夜逃げをすることになった」と伝えられた松前緒花(まつまえ・おはな)。
 母親から手渡されたのは“喜翆荘”(きっすいそう)という名と、電話番号が書かれた一枚の紙切れだけ。
 住み慣れた街、母親、そしてクラスメイトの種村孝一(たねむら・こういち)に別れを告げ、 まだ出会ったことのない祖母がいる街で暮らすことになった緒花は、海岸線を走る列車からの景色を見ながら、これから始まる新たな生活に思いをはせるのだった。
 以上公式のあらすじ。

 P.A.WORKS 10周年記念作品とあっちゃぁ見逃すわけにもいかない。当然期待して見たわけだが、まだ導入部という事でちょっとおとなしい感じではあるものの、ちゃんと都度機を気にさせる作りが良いな。
 お話としては、恵まれていないようで恵まれている都会っ子の緒花が、田舎で旅館を経営している祖母の所で暮らすことになるが……という話。
 Aパートは主人公緒花を取り巻く状況を説明しつつ、どうして田舎へ行くこととなるのかという導入で、生粋の都会っ子である緒花をことさら強調し、特に何もない生活から何かを変えたいと思っていた所へきた思いがけないチャンスに、多少なりとも胸躍らせる彼女を見せ、何となく明るい兆しを見せておきながら、自分の浅はかな行動故に旅館従業員で同い年の民子に「死ね!」と言われ、勝手に優しいと想像していた祖母には飴ちゃんではなくバケツとぞうきんを放り投げられ、見事にすれ違った理想と現実を描いている。
 Bパートからもそれは続くが、その前にメインキャラクターの紹介をしていくわけだが、これが実に上手くて旅館内で緒花が行く先々で出会う人々が大体どのような人物なのかを説明せずに説明している。と書くと変な日本語ですが、緒花を通してその人がどういう人かという特徴を自然に見せていて無理がない。取って付けたように現れ、ひとりでくっちゃべって去っていくようなヘマをしないのはさすがだ。そーゆーアニメ、いっぱいあるからなぁ。
 突然放り込まれた旅館の従業員に会っていく。普通のことなのでごく自然でなければならない。でも旅館従業員はこの物語のメインキャラクターなのでどういった人物なのかは説明しなくてはならない。例えば、空から女の子が落ちてくるのは、そのインパクトさえあればいいと思うが、普通にあることを普通に描く、でも見せなければならないことは見せる。そう考えると自然さを装っていることになるのだが、それを感じさせない技量は素晴らしいだろう。

 そんな導入部であるものの、ちゃんとドラマも入れ込んであり感心。メインは緒花の親切心から民子の布団を干してあげた時に起こる。
 自分より遅く寝て自分より早くおき仕事をしている民子を思ってのことだが、客から見える表側に干し、あまつさえ過って客の上に布団を落としてしまう大失態を演じる。
 ちょうど出くわした次郎丸に気を取られているうちに布団がするするっと落ちてしい、見ていて思わず「ああっ!」となってしまう演出も楽しいが、一番いい所は祖母に怒られる所からである。
 劇中での説明は後になるのだが、上記したように緒花が布団を干したのは「客から見える表側」なのだ。仕事をしている身としたら、この緒花の行動は「ホントお前なに考えてんの?」レベルで正直イラッとくるんだが、「初めてのお仕事」な緒花にそんなことが分かるはずもなく。
 しかも民子も呼ばれ、お前の自己管理がなっていないから緒花がこんなことをしでかしたとビンタを喰らう。恵まれていないようで恵まれている緒花にとっては理不尽この上ないのだが、無論、祖母の言うことの方がもっともな正論である。
 緒花は新人さんなので仕事のことがこれっぽっちも分からないのは明白。先輩である民子がしっかりしていれば今回のことは起こらなかったという理論。緒花はその立場から責任を棚上げされたのだ。
 でも緒花はその若さと分かってなさから納得がいかず、悪いのは自分なんだから自分も叩いてほしいと申し出る。その緒花の本気に祖母も本気で応える。経営者として本気ビンタを3発。そう、本来一番悪いのは緒花なのだ。
 そして両頬が思いっきり腫れ上がり鼻血までたらす緒花の表情。これがいい。先にビンタされた民子を見て、これくらいだろうというのもあったろうし、祖母だからという甘えも無自覚であったとしてもあっただろう。しかし旅館経営者の本気は緒花の予想を越えていて、自分で申し出たにも関わらず、こうまでされるとは思っていなかった。という顔をしているのだ。喜翆荘に着いてからの緒花はアマちゃんなのである。全てにおいて甘く見ているのでこういう大きなしっぺ返しを喰らうのだ。
 それはその後の民子との会話でも見て取れて、こんなのおかしいよね、どうかしているよねという緒花に民子は厳しい言葉を浴びせる。同じ年の民子は自分と同じ気持ちだろうと思っていたわけだが、仕事の中に身を置いている民子は緒花のそれの方がどうかしているのである。
 死して一人残された緒花は廊下のぞうきんがけを始め、ついに泣き出してしまう。悔しいのだ。ここで何も出来ない、何も分からない、自分の思っていることは全否定、分かち合う仲間もいない、いろんなことがここであふれてしまう。でもなんも出来ない。そんなどうしようもない悔しさがまざまざとにじみ出ていて良い。
 とりあえず今自分に出来る廊下のぞうきんがけに「うぉりゃー!」と全力でぶつかっていく緒花が、この喜翆荘でこれからどんなことを巻き起こしていくか楽しみだ。

 と、自分が仕事しているんでそういう視点で見ていましたが、仕事が生活のメインでない学生諸君らなんかは、緒花に感情移入するのかもしれませんねぇ。
 そんなふたつの視点でも楽しめる内容になっていたんじゃないでしょうか。とりあえず、これからどうなっていくか楽しみです。

第2話 復讐するは、まかないにあ

いやぁ、おもしろいなぁ。

 そんな今回のお話は…
 「従業員として働きながら高校に通うこと」と、祖母である四十万スイ(しじま・すい)から厳しく言われ、スイが経営する温泉旅館“喜翆荘”で、新たな生活を歩み始めた緒花。
 それは思い描いていた生活とはほど遠い世界だった。
 だが彼女は、板前見習いとして住み込みで働く鶴来民子(つるぎ・みんこ)や同じ仲居の押水菜子(おしみず・なこ)をはじめ、喜翆荘で働く従業員たちと打ち解けようと孤軍奮闘。
 しかしその頑張りが裏目に出てしまう。
 以上公式のあらすじ。

 今回の話の流れとしては、前回は仕事がなーんも分かってなくてこっぴどくしかられて悔しかったので、ダメ母の教え「他人に頼らないで自分でなんとかする」を張切って実践し、見事に空回りする緒花であったが……という話。
 まず話の流れとして、前回からの悔しさから、分からないなら分からない自分なりに張切ってみるも空回りし、その分かってなさから第三話へと続くトラブルを起こしつつ、なんか嫌いだと思っている根岸徹からの言葉でこのままではいけないとなんとなく悟り、民子と菜子に本気でぶつかっていって、最後は自分で起こしたトラブルに巻き込まれ第3話へと引っぱるという見事な流れだ。
 前回見ていて分かるように、今の緒花では仕事という中では通用しないんだというのを、彼女が失敗なりを通して、あぁ今までのはここでは通用しないんだと、なんとなーく分かったようになる彼女の淡い成長を描きつつ、そんな彼女に対する周りの人々、そして起こる事件へのプロローグが無理なく自然な流れで、見ていて時間を忘れる話の構成力が見事だ。
 そういった中で印象に残るのは、喜翆荘の大黒柱であり緒花の祖母である四十万スイとダメ母皐月だ。
 スイはその役柄もあって、まだヒヨッコどころか卵かもという緒花に、見事な大人の見解で子供の彼女をズバッと切る。
 始まってすぐの緒花の草刈りは、刈るなら根元というそんな一般常識さえ知らず、上の方だけバッサバッサと刈っている彼女を見ているだけで、「あぁ!もうっ!」とか思ってしまう所で、スイが「そんな上の所切ったってすぐに伸びてきちまうよ。適当な仕事は邪魔なだけだ」とバッサリですよ。そんなスイに「ですよねー」と思いつつ、がんばっている自分を認めてもらえずムッとする緒花にも「ああ、分かる分かる(笑)」と若かりし自分を見てしまう。
 また次郎丸の原稿が無くなった件でも「率先して仕事をしようとするのは結構だがね。言っただろ。無駄なやる気は邪魔になるだけだ」ですよ。しかもアップで。
 それに反論し、原稿を探すと言う緒花を「いや、いい。また下手な事されちゃたまらないからね」とここでもバッサリですよ。
 見ていて分かるように原稿が無くなったというのは完全に次郎丸のウソであるが、劇中でそれに気付いているのはこのスイだけである。困った客である次郎丸をどうしようかと言う時に起きたこの事件。見るからに海千山千の彼女である。どうしようかの筋道は立っていたはずだ。そこで妙なやる気を出している緒花に下手な事をしてもらいたくないのだ。要は小娘は引っ込んでいろという事だ。
 出番としてはさしてあるでもないスイであるがこの存在感。喜翆荘は彼女が中心で動いているのがよく分かる存在の大きさが良いですなぁ。
 次にダメ母皐月ですが……ホントダメ母である(笑)。回想での授業参観に来なかった言い訳は、正直あまりにも酷いとしか思えんよなぁ。しかし緒花は自分で「どうしようもないダメ人間」と称しつつも、自分をここまで育ててくれた事への尊敬も少しはあるようで、そんなダメ母の教えを実践してしまう。反面教師のような彼女の教えを実践した所でうまくいくはずもなく、緒花の行動は裏目裏目に出てしまう事となる。
 そんなダメ母であるが、ダメ母でも母であって、同じく回想のダメ母の嫌いなブロッコリーをワザとどっさりと盛るシーン。ここは悪くとれば、ちびっ子緒花の本気に大人げなく対抗したともとれるが、ダメ母でも母らしく、緒花の本気に本気で返したのだ。緒花はそこから本気で相手にぶつかっていけば本気で返してくれる事もある、ことを学んだのだ。ついでに母の教えはいーかげんであった事も(笑)。
 これが転機となり、緒花は民子と菜子に本気と本音でぶつかっていき、ほんの少し関係を帰る事となるのだった。

 さて、今回個人的に気になった所なんですが、それは次郎丸のウソである。お話的な流れでの事ではなく、どうしてどう見てもウソと分かるようにしてあるか。という事でだ。
 どう見てもウソであるにも関わらず、劇中としてはそれに気付いているのはスイ唯一人。ということはだ、このウソは暴く事が目的ではないということだ。
 見ている人がそれをウソだと分かっている上で、張本人の次郎丸、気付いているであろうスイ、全然分かってないその他の人々が、そのウソに対してどう思いどう動くのかを見せたいのだ。
 次郎丸が苦し紛れについたウソに、喜翆荘の人達が巻き起こすドラマを作りたいということなのだろう。それを通してその人たちの人となりが見えてくるのではないだろうか。
 そういうことを踏まえての今回の引きですが、盗み見てしまった次郎丸の原稿をみた緒花が彼に迫られ、どうせ大したことにはならないだろうと思いつつも「どうなるんだろう」と思ってしまうのもさることながら、今回のサブタイが「復讐するは、まかないにあり」にも関わらず、民子と菜子の嫌いなものをまかないで出すからと緒花にいわせておいて、彼女らがそれを食べることがなく、「民子と菜子がそれを食った反応を見られないの?」と二重の引きをしているのが見事だ。
 
 こんなことされたら、どうしたって次回が気になるに決まっている(笑)。


第3話 ホビロン

いやぁ、見事に朝ドラ的でおもしろい。

 そんな今回のお話は…
 “喜翆荘”で長逗留をしている売れない小説家、次郎丸太郎(じろうまる・たろう)。
 彼の書きかけの原稿をゴミだと勘違いして捨ててしまった緒花は、次の朝、まかないの支度途中に姿を消してしまう。
 「東京に帰ってしまったのでは?」と心配する従業員たち。しかしスイは、そんな彼らを横目に旅館の大掃除を命じる。
 掃除のため次郎丸の部屋に向かった菜子だったが、次郎丸に、かたくなに掃除、そして部屋に入られることを拒まれてしまうのだが……。
 以上公式のあらすじ。

 朝ドラちゃんと見たことありませんが(笑)。
 それはともかく、お話は次郎丸の狂言から発展する騒動から緒花が精神的に喜翆荘に迎えられる様子を描いている。
 とは言っても基本は次郎丸関係のドタバタで、しかしそれが無くてはまとまらないのでお話としては良く出来ていると言える。
 そんな話は二重構造になっていて、パッと見の展開としては次郎丸の狂言を発端とする騒動で、自分に物書きとしての才能が無いと自ら言っている次郎丸は、本当は誰かに「大丈夫、アンタは小説家だ!」と背中を押されたかったのだということと、緒花が仕事が分からなくて悔しくて、それでも分からないなりに何とかがんばりたいんだというところをみんなに聞いてもらい、どっちも意味は違えど「出来ない」なりにもがいておったのだと、喜翆荘の人々に迎えられ、とりあえずの一段落をつけている見事な流れだ。
 今回のお話の意味合いは、どうしても小説が書けない次郎丸が緒花をウォッチし、彼女が自分でもわからない気持ちに気付き、仕事のできない緒花だから宿代を滞納してる客ではなく、小説家として次郎丸を見れたということで、喜翆荘の他の人々は、次郎丸はやな客であり緒花はなーんも分かってない新人さんでしかないので、この騒動は緒花でないと丸く収まらない。と、いうことをおかみさんであるスイが、実は上手い事仕切っていた、という所にある。
 前回からも分かる通り、劇中次郎丸のウソに気付いていたのは彼女だけで、今回の騒動後の仏壇での台詞から、緒花が分からないなりにがんばろうともがいていたのを知っていたのも彼女だけだ。
 詰め将棋のように「計算通り!」というわけではないだろうが、次郎丸にぶつけてなんとかなるのは緒花だろうと分かっていたのだろう。前回に緒花が動こうとするのを止めたのは、次郎丸が切羽詰まって動くのを持っていたのだ。
 だからBパートからののどかなカーチェイスでも落ち着いたもんだし、徹が信号待ちで飛び出しちゃうのも菜子が崖から次郎丸を助けに飛び込んでも、喜翆荘のことはみーんな知っているからなんも驚くことが無いのだ。途中の豆腐屋によれば徹は追いついてくるだろうし、菜子は小さいことからスイミングスクールに通っていて泳ぎが達者だから大丈夫。
 要は状況に応じてうまーいこと手の平で転がしていたようなものであるが、それをみんなに気付かれないようにさりげなーく行っていたのだ。なんだかんだで喜翆荘の人々を、そして孫である緒花を影から見守っている。緒花がそれに気付くのは、きっと随分と先のことなんでしょうねぇ。

 さて、個人的に気になった所としては、まずサブタイにもなっている「ホビロン」である。ホビロンとは何ぞや?と思っていたら、あぁ、あの「これが食える人の気がしれん」って感じのグロい食いもんか。
 それはともかく、前回に民子がベットで携帯の明かりを頼りにすごい勢いでノートに何を書いているんだろうと思っていたんだけど、緒花に「『死ね』は止めようよ!」と言われ、それに変わる言葉を考えていたんだねー。
 今回は騒動を通して緒花が喜翆荘の人たちの人となりを知るというのがあり、緒花はこれで民子を理解する。彼女はぶっきらぼうで人付き合い悪いけど、すごい努力家で真面目で一生懸命な人なのだ。
 緒花のことが嫌いなら、わざわざ別の言葉を考えてやる必要なんかないのに、前回緒花が本気でぶつかってきたもんだから、本気で対抗しないと気が済まなくなっちゃったんだろうねぇ。それで根が真面目なもんだから、ノートに候補を考えて書いちゃう辺りのある意味バカっぽさが可愛らしい。
 人となりと言えば菜子もそうで、崖からダイブして次郎丸を助けるシーンは、子供自分のあだ名は「かっぱっぱ」な彼女の見せ所である。
 そんな彼女はいつもおどおどしていてあんまり自分に自信がないのだが、そんな彼女が自ら「ちょとは自信がある」と言えるほどの特技を披露し、ちょっと怖いと思っていた緒花にすごいと言われ、彼女の中で緒花に対するマイナスをプラスで相殺してちょっと向き合えるようになった感じが良いですな。
 お話以外の所では、この物語がちょっとコメディ風味であることを踏まえた数々のシーンだろう。普通のドラマならという所で少し外してくる所が上手い。
 縛られる緒花は逆に縛る順序を教えてしまうし、カーチェイスは異様なのどかさだし、崖でのシーンは普通のドラマならスイが出てきて説教した段階で、次郎丸がガクッとうなだれて終わる要な所だがそうはさせない。菜子が飛び込んでからは、あのスイから「かっぱっぱ」なんていう言葉が出てくるのもどこか締まらない。
 途中のどこかで敢えて外しながらも、それでもきっちり見せたい所は締めている。この構成力と見せ方が抜群だ。
 
 お話としては、とりあえず今回の騒動で、緒花が喜翆荘でがんばりたい、輝きたいんだということが皆に伝わり、一緒に仕事をする仲間として迎えられて、第1話から続いたプロローグが終わったという感じがしますな。
 次回からまたどんな騒動が巻き起こるのか楽しみだ。


第4話 青鷺ラプソディー

普通に見入ってしまった。

 そんな今回のお話は…
 民子、菜子と同じ学校に通うことになった緒花。
 東京から来たということで女生徒たちには質問攻めに、実は男子に人気のある民子と一緒に住んでいるということで、男子生徒からは興奮気味に詰め寄られる。
 その勢いに戸惑う緒花を救ったのは、クラスメイトであり、有名温泉旅館“福屋”(ふくや)の一人娘である和倉結名(わくら・ゆいな)だった。
 にぎやかにスタートした緒花の学校生活だが、校舎裏で男子生徒から告白を受けている民子の姿を目撃する。  以上公式のあらすじ。
 ラプソディーの意味を良く知らんかったので調べてみると「狂詩曲」とあった。なんのこっちゃと思い狂詩曲で検索すると「自由な形式により、民族的または叙事的内容を表現した器楽曲。」となり、んじゃ「叙事」とは正しくどういう意味かと言うと「事実や事件を、ありのままに述べ記すこと。また、その述べ記したもの。」なんだそうな。ということは、今回のサブタイは「青鷺を自由な形式により、民族的または事実や事件を、ありのままに述べ記すような内容の器楽曲」となり、なんのこっちゃよーわからん。
 そんなサブタイに疑問を抱いた私のことはともかく、今回のお話としては、民子がいつも徹に叱られて「すいません、すいません」と従順に従っているのは、ただ板場だからというわけではないんだよ。ってゆーのがメイン所で、主役である緒花はと言うと、勘違いしまくって地雷を踏むというKYらしさの本領を発揮する。
 話は新学期となって学校へ登校する所から始まり、最後のメインキャラ、ライバル旅館(?)「ふくや」の女将の孫「和倉結名(わくらゆいな」の紹介やら、喜翆荘三人娘の学校での様子などなど盛り込みながら、上記した民子メインの話を無理なく進めており、相変わらず見事な流れだ。
 校舎裏(?)で野郎が民子に告白しているのを目撃してしまった緒花は彼女の理想を知ってしまう。視聴者的にそれで民子が徹を好いていることが分かるのだが、主役でありトラブルメーカでありバカでKYで思慮が足りず、なにより徹のことをイヤミなあんちゃんとしか見ていないのでそれに気付かない。
 そもそも緒花は学校でも結名を自分を庇ってくれたなどと勘違いをするようなヤツである(笑)。どーみても自己顕示したいだけであり、同じ旅館の跡取り娘としてなんとなく優位に立ちたいだけなのだが。
 喜翆荘でも徹に嫌味を言われている最中に現れた民子を「庇ってくれた!」と思い、彼女が徹を好いているとは露にも思わない緒花は、お風呂で民子に徹の悪口をふってしまうのだからおもしろい。何がおもしろいって、アホが自ら地雷を踏み抜こうとする様を横で見ているわけですから(笑)。
 前回までの次郎丸事件(?)でもそうだったように、民子の好きな人は誰なのかがメインではなく、徹のことが好きな民子とそれに全く気付かない緒花がどうするかのドラマを見せているのである。  上記喜翆荘の一連のシーンは、配膳の所で民子が徹とふたりきりになりたいのだなぁと分かるし、それに全く気付かず勘違いしている緒花に「もぅ、バカだなぁ。あとで何かやらかしちゃうんだろうなぁ」などと思っていた所でお風呂のシーンである。
 民子と仲良くなりたい緒花は「女子というものは共通の敵について話せば盛り上がる!」と考え徹について話をふってしまうわけだが、もうっ!そうなんだけど!その話の入りは当たっているんだけど、今は!今は違うんだよー!と見ていてそう思わずにいられない。
 そして徹を擁護する民子を見て、さすがの緒花もようやく気付き「……ぁぁああっ!みんちの好きな人って!?」の様子を見ると「気付いたのはいいけど今それを言うなーっ!」と突っ込まずにはいられない。そんな主役らしいトラブルメーカーっぷりが見ていて可笑しい。
 ちなみに仲良くなる第一歩として「みんち」と呼ぶ所から始めようと思っていた緒花だが、上記一連の流れで自然に「みんち」と呼んでいる。こういう人懐っこさは緒花のいい所なんですけどねぇ。まぁそれが裏目に出ることの方が多いんですけど(笑)。まぁこうやってなんだかんだで仲良くなっていくわけです。若いっていいなぁ。
 そういえば、毎回差し込まれる東京の孝ちゃんこと「種村孝一」ですけど、緒花としてはまだ恋なのかなんなのかよく分からないけれど気にはなっている、といった感じのようだ。結局自分にそういう経験がないので民子のことが分からないという対比になっているのも上手い。
 緒花が彼とどう向き合うのかは分からないけれど、彼女が新しい土地でいろいろと経験を積んでいく中で、自分の恋愛を見つけていくのかもしれませんね。若いっていいなぁ(笑)。

 さて、すごく個人的なことですけど、結名があんまりというか、すごく見ていてイラッとするんだが。
 これが学校の二大モテ巨頭とは思えないんですけどねー。もうひとりは民子だったわけですが、正直どっちも女子にすごく嫌われていそうよね(笑)。
 それと民子のあだ名「みんち」誕生秘話なんかも今回盛り込まれておったのですが、最初から「『みんち』はねぇだろ、そんな挽き肉的な」と思って気になっていたんですよね。らしいエピソードで和みました。
 そこでは緒花が菜子を「なこち」とあだ名で呼ぶわけですが、上記したようにここでも彼女の人懐っこさという長所が発揮され、菜子とは随分と仲良くなった様子も今回新学期で学校に登校すると言う時間の経過を感じさせて良いですな。

 今回はふくやにバイクを止めて結名を後ろに乗せて走り去っていく徹を目撃した民子と緒花、という所で引っぱったわけですが、次回はこの流れ進んでいくんだろうけど、あんまり展開が読めませんなぁ。一体どうなるというんでしょうね。気になるなぁ。
 こうやって続きを楽しみにさせるってのは必要だよな。


第5話 涙の板前慕情

ドタバタっていやぁドタバタ。

 そんな今回のお話は…
 “喜翆荘”の板前であり民子を指導する先輩でもある宮岸徹(みやぎし・とおる)。
 緒花と民子は、彼がホットパンツ姿の結名をバイクに乗せ走り去るのを目撃する。
 驚くふたりだったが、翌日、板長の富樫連二(とがし・れんじ)から徹が来ないことを告げられた民子は、さらにショックを受ける。
 事情を知った菜子や次郎丸、仲居頭の輪島巴(わじま・ともえ)らも加わってあれこれ推測するも、次郎丸が仕入れた情報により、福屋旅館による徹の引き抜きという結論に至るが……。
 以上公式のあらすじ。

 お話としてはあらすじにあるように、前回の引きから徹がライバル(?)旅館「ふくや」に引き抜きされたと勘違いした緒花たちは……という内容。
 と言ってもこれまでと同様に、緒花たちが目撃したのはバイクの後ろにふくやの娘を乗せただけであり、今回の巴姉さんの目撃や四郎丸の話も憶測に過ぎず、端から見れば引き抜き何ぞはかなり飛躍した想像でしかなく、まぁたぶん違うんだろうなぁというのは見ていてすぐに分かる。要は「徹が引き抜かれた」と勘違いした緒花達がどうするかを見せているのである。
 なのでメインとしては民子の恋心とそれに対する緒花の思いという所だろう。
 今の高校にも行かず板前になろうとしていたが、親に反対され、それでも諦めきれない民子は修行させてくれる板場を探し喜翆荘に辿り着く。少しくらいは自分の腕に自信はあったろうが、やって見せた三枚下ろしの評価は燦々たるものだった。しかし徹はその想いだけは本物のようだからと喜翆荘の板場に入れてもらえるようスイと蓮二に頭を下げ、徹が一から教えるのであらば良しとしてくれるのであった。という民子が喜翆荘で働いている理由を紹介し、彼女が仕事に一所懸命であることを示し、それ故に徹への強い想いがあることをよく見せている。
 まぁ正直な所、私も徹に対する思いは緒花と一緒であんまり好きじゃなく、思慮に欠ける所があるのがなんとも苦手というかイヤなんですけど、なんでそんな野郎に民子が惚れているのかこれまで見ていてよく分からなかったわけだが、こーゆー分かりやすいのを見せられるとまぁ納得といった感じである。
 個人的にはそんな分かりやすい恋心よりも気になったのは、民子が料理人になりたい理由だ。
 これまでそれが語られた描写はなく、16、7の女の子が高校へ行くのよりも板場で修行したいと思わせるものはなんなのかを知りたい所だが、その辺の話はきっともうちょっと先の話であろうから楽しみにしておこう。
 しかし徹が喜翆荘からいなくなってしまったとなってからの彼女は、緒花に「徹さんがいないとダメになるじゃないですか」と言われてしまうくらいのダメっぷりで、女性を扱うってのはいやはや難しいものですなぁ。
 ま、それはともかく、普段から真面目で出来ないなりに一所懸命な彼女が、想い人が去ってしまったという事態に、ああも狼狽してしまう様を見せて、民子の徹に対する想いが本物であることと共に、そういった中でもしっかり考えていて、それ故悩む彼女の真面目さをよく出ている。
 それに対し緒花は劇中民子にいわれていたようになーんもわかっていないのだが、仕事に恋に懸命な民子を分かってないなりに応援したい。台詞にもあったように、それは民子のためだけではなく、がんばることのなかったこれまでの自分が、真面目にがんばっている人を応援すれば自分もがんばれるような気がするという自分のためでもある。要は民子を見て、自分も何かにがんばりたいと思うようになったのだ。
 その思いはすぐに行動に表れ空回りに終わり無駄には終わるのだが、全く無駄だったわけではなく、緒花の思いは民子との関係を変えるきっかけとなったのだ。考える天才よりも行動するバカの方が強いのだ。

 さて、個人的に所としては、前回の引きであるgとおると結名のバイクふたり乗りから引き抜きへと考えが至るまでは、事実に基づいてはいるものの、上記した通りに結構な飛躍で、どうせ引き抜くなら徹でなく蓮二の方だろうと普通は思うのだが、なんかそういうことにトントン拍子でなってしまう辺りはらしくて良い。
 そもそもダメ小説家である次郎丸の推測などはアテになるはずもなく、彼の言ったふくやの女将と喜翆荘の女将であるスイがライバルだという話は、全くの作り話ではないものの、風邪で寝込んだ板前の助っ人に徹を貸し出し、事後に「あとでわびの電話を入れといてくれ。シゲ子ちゃんの所にね」の台詞から分かるように、どちらかと言えばライバルと書いて親友と読む方なのであろう。むしろ今回のオチは引き抜きでなく助っ人だったというよりは、そっちの方だったんじゃなかろうか。

 ともあれ、今回はおもしろくはありはしたけど展開としてはベタでもうひと味欲しかったように思います。緒花がふくやに乗り込んで「たのもーっ!」は青臭過ぎて見ていてちょっと恥ずかしかったよ。
 まぁでもそれは狙ってやっているのかもしれないが。


第6話 Nothing Venture Nothing Win

温故知新?

 そんな今回のお話は…
 ある朝緒花が玄関を掃除していると、車に乗ったひとりの女性が現われる。
 彼女こそ、経営が苦しい“喜翆荘”を立て直すべく、叔父であり番頭である四十万緑(しじま・えにし)が雇った経営コンサルタント川尻崇子(かわじり・たかこ)だった。
 実は、ほぼ毎月やってくるという崇子から今回提案されたのは、仲居の服装を一新する案だった。
 ド派手な衣装を前にとまどう従業員たちだが、崇子の迫力と縁の勧めで、とりあえず服装を変え仕事をすることに。
 以上公式のあらすじ。

 今回のお話は一話完結の「ボトルショー」……かどうかは分からないけれど、今回だけで締めているお話。
 何が言いたかったかは、最後の緒花のモノローグが語っていると思うので、その辺は省くとして、今回のおもしろい所と言えば、誰も間違ってない所だろう。
 というと、コンサルの川尻崇子はどうなのかという話になるが、サブタイにもなっている「Nothing Venture Nothing Win」は、まぁその通りで、やってみないことには始まらないので間違ってはいない。ただ各々が少しずつ間違っていてでも間違っていないという所がおもしろいのだ。
 前述したコンサルの方法論としては、今回の流れを見るに間違ってはいなかったわけで、間違っていたのはその急進過ぎる発想であった。緒花の傾いている喜翆荘の経営に、自分でも出来る何かを探すのは間違いではないが、コンサルの言うことを鵜呑みにしたのは間違っている。縁が劇中に言う失敗するにしても何もしないよりかマシはその通りだが、コンサルに肩入れし過ぎているのはどうか。そもそも失敗しない方がいいわけだし。最初からそんなことを考えているうちはダメだ。たぶん(苦笑)。
 女将さんのスイにしたってそうで、まぁ確かにコンサルは胡散臭いヤツなのだが、経営がとうに傾いているのなら何か手を打たないといけないわな。経営者なんだし。
 と、誰もが間違っているようで間違っていないような、左右後のモノローグでもあったように、喜翆荘にとって変わっていくのが良いのか悪いのかは正直な所、誰にも分からない。だが、なんかしないことにはなんも起こらないよ、と言うことをおもしろおかしく描いている。
 ひとつのお話としては、なんか胡散臭いコンサルのどうにも上手くいきそうもない提案に、基本的になんも分かってない主役の緒花が乗っかってしまって失敗し、最終的には同じ方法論での大逆転を演じ、今回の中で上げ下げがあって見ていて気持ちが良い作りになっている。
 喜翆荘の良さというのは、その変わらない様式美がいいわけで、それに新しい風をぶち込んで壊そうとするコンサルがまず鼻持ちならない。そしてそれに乗っかってしまう緒花に「バカだなぁ」と思ってしまう。そう「根本的に間違っている」と思わせるのだ。
 逆転劇として根本的な方法を取り替えるのかと思っていたのだが、方法を変えずにその中の選択を変えることでの逆転で、一番言いたかったであろう「やってみないとわからない」へ持っていくシナリオが見事だ。結局誰もが喜翆荘を良くしようとがんばっているのだから。

 さて、個人的な所としては、スイが何故コンサルをあんなに邪険に扱うかが興味深かった。
 今回分かったように、このコンサルは分かっているようで分かっていないと言うか、どうも頭でっかちな部分もあって、どうせこれまでも突飛なことを言い出して従業員から反感を買っているのは見た通りであるが、今回の流れでもあったように、仲居の衣装を変えるというのはスイがとうの昔に行っていたものであった。そこから推察するに、コンサルの言うことやることは、大概昔にスイが試したことなんじゃないだろうか。
 なのでスイとしたら「経営コンサルタント」などと言う肩書きを持ちながら役に立たんヤツだと思っているのかもしれない。
 しかし喜翆荘が歴史を積み重ねると共に時代は変わる。おそらく当時はコンサルの持ってきた衣装同様突飛であったであろう服(緒花と菜子が着ているのを見て「なんて格好」と言った事からそうであったのだろうと推測できる)は、今となっては喜翆荘の歴史を壊す事無く新しい変化をもたらした。
 その昔にスイがした向われなかったであろう努力が、孫の代になって報われたというのも見ていて気持ちのよいものである。まぁそのうちコンサルの努力も報われる日が来るのかもしれないな(笑)。

 ちょっと気になった所としては徹である。今回彼が緒花を気にしているようなシーンがあったのだけど、これたぶん釣りだよね?
 これまで緒花を辛かったり、引き抜き騒動のときは「結局引き止めたのはお前だけか」などと言わせ、そして今回でのことである。自分にはどうもそう思わせているような節を感じるのだ。オレ的には徹はコンサルの方に気があるような気がしますが、まぁ大抵の場合、私の予想は当たらないのでアテになりませんが(笑)。
 まぁどちらにせよ、その辺で民子とひと騒動起こりそうな感じですよねー。はてさてどうなりますか。

 そーいえば、このアニメは2クールだそうで(webラジオ「ぼんぼりラジオ花いろ放送局」より)、まぁディスクが3話収録で9巻まで出るならそうだろうという話ではあるが。
 P.AWORKSはいつも1クールだったので、これは2クールくらいやってもいーんじゃないかと思っていた所なので嬉しい限り。好きな作品を長く楽しめるのはいいですよねー。


第7話 喜翆戦線異状なし

ベタだがいいコメディに仕上がっている。

 そんな今回のお話は…
 母からの電話でお見合いを勧められる巴。すでに相手の写真も送ったと言われ、実家に帰ってこいと迫られる。
 それに対して勝手に決めないでと反論するも、高校時代の友達の中で結婚していないのは巴だけであることや、喜翆荘でお金持ちのお客さんを捕まえて玉の輿に乗ることに失敗していることを指摘され言葉に詰まる。
 今の仕事を続けるか、それとも結婚か。これからの人生について悩む巴。
 そんな彼女の前に、少し特殊な常連客一行が現われる。
 以上公式のあらすじ。

 お話はあらすじにある通り、巴姉さんが毎日々々同じことの繰り返しな喜翆荘での仕事を辞めて、実家に帰って結婚でもしようかなーと考えていたのだが、常連客であるサバゲーマーのお客の対応に難儀する菜子や緒花を見て、この際のことだから、未来ある若者のためサバゲーマーにうんと嫌がらせして追い出し、クレームつけられまくってクビになってさっぱりきっぱり辞めてしまおうと画策するのだが……という話。
 正直、その後の展開なんてすぐに読める話ではあるが、そのお約束的展開を見事にコメディに昇華していて、見ていて楽しい話になっているんだから上手い。また単なるコメディとして終わっているわけでもなく、このお話で伝えたいこともちゃんと伝えている点も素晴らしいだろう。
 話の構成としては、Aパートは問題提起で、巴姉さんの同級生の友達が皆結婚している中、このまま仕事を続ける意味があるのかという今回のメインから、問題のあるお客サバゲーマー達の登場とその問題行動、振り回される菜子と緒花(主に菜子)、辞めることをほのめかしても気付かない(フリをする)スイなどを見せ、最後に上記したさっぱりクビにしてもらおうと巴姉さんが結論を出す所まで。こうやって書き出してみると、見せなければいけない部分というのは多いが、Aパートの9分少々にこれらが無理なく収まっている。
 個人的にはサバゲーマー達を上手く見せていると思った。というのは、問題客である彼らを問題客として見せていることで、まぁそれは当たり前のことではあるんだけど、スイの「そのお客様だけど、また、あの方達だよ」から空に暗雲が展開し一体どんな大変なお客かと思わせ、登場してからの問題行動の数々から自分のうちに帰ってベットに突っ伏して「疲れた」と巴姉さんを見て、大変なお客だと見ているこっちに思わせないと意味がない。
 今の菜子と緒花では手に余る難儀な客、辞めようと思っている自分、でもこのまま辞めてしまっていいのかしら?前途有望な若者を見殺しにして自分が生き残っても、それはむしろ自分が無駄死になんじゃないのか?巴姉さんがそんなことを思う所がポイントだ。
 劇中の台詞にもあったように、辞めた後のことなんか考えたって意味がない。なんせ辞めてしまったらその後関わることはないのだから。しかし、巴姉さんは辞めるにしたってそれじゃ後腐れ悪いわいと思う辺り、仲居の仕事に対し思う所があるということなのだ。別にどーでもよけりゃ後腐れ悪かろーが辞めてしまえばそれまでなのだから。
 Bパートからは、上記の決意した巴姉さんのサバゲーマー達への反撃が行われる。姉さんの思惑とは逆に嫌がらせが嫌がらせでなくなってしまうのはお約束。
 さらには困った客に見事な対応をする巴姉さんに感じ入る菜子と緒花に尊敬され、サバゲーマー達には自分達の遊びに真面目に付き合ってくれたと感謝され、災い転じて福となす?的ななオチ。しかし言いたい所はそこではない。
 Aパートで「生きている気がしないんだよぅ!」と言っていた巴姉さんは、事後での母親との電話で「この仕事しとってすんごいしんどい時ほど、生きとるって実感が湧くげん」と言っている。
 おもてなしし「また来ます」と言ってくれるお客さん。慕ってくれる後輩。自分の仕事が報われるその瞬間。毎日々々同じことの繰り返しで薄ぼんやりとしてしまっていた、仕事をしている実感を姉さんは思い出したのだ。
 辞めようと思っていたこの仕事だが、なんだかんだで巴姉さんは仲居の仕事が好きなのである。
 個人的な所ではやっぱりスイであろう。Aパートで「生きている気がしないんだよぅ!」と言っていた巴姉さんに出くわし、もうその時には「おや?」と感づいていたことでしょう。その後実家に帰ろうかと思っているとの言葉に「有休かい?」とすっとぼけ、それでありながらBパートで彼女の様子をうかがっていたりする。けれど特にスイが姉さんに何かするわけでもないのだ。
 喜翆荘的に姉さんが居なくなるのは痛いのもあって、実家に帰る云々にすっとぼけたりしてますが、辞める辞めないは本人の判断でもあるし、何よりスイは巴を信頼している節がある。
 巴姉さんの所業の数々にスイが出刃って来ない辺りがそうなんだろう。緒花だったら出てきて叱るだろうことを思うと、まぁそんなことを思う時もあるさねと放っておいたんじゃないですかね。
 さりとて心配ではあるので一度そっと様子を見には来た。その思慮深さが実にスイらしい。とても仕事に厳しい人ではあるけれど、従業員のことを気にする気持ちを持ち合わせているのだ。

 さて、それ以外で気になった所と言えば、巴姉さんが意外に軍事知識があったことだろうか。
 最初見た時は、姉さんはちょっとそっち方面に興味があるのかと思っていたのだが、何回かこの7話を見ているとそれは違うのだと気付いた。おそらくは去年一昨年と難儀したであろうこのサバゲーマー達がなんとかならないか調べた結果だったんじゃなかろうか。だって普通レーションなんて知らないもんんなぁ。
 こういう所からも姉さんの仕事に対する取り組みが分かるというものだ。まぁ単純に、ホントにちょっと好きっていう設定なのかもしれないが(笑)。
 もひとつとしては、菜子と比べて緒花の胸のなんて小さいことよ(笑)。風呂場でのバスタオル一枚の姿を見ても見事な「つるん」具合である。
 それに伴って、緒花の身長もちょっと気になっていて、菜子と並ぶと緒花の頭は菜子の鼻くらいで結構な身長差がある。どうも菜子はちょっと背が高い感じがあるのだが、そうだとしても緒花は結構ちっさい。
 まぁ劇中「小さい」と言われることが何回かあったが、実際150ちょいでもちっさいと感じるので、菜子が165くらいなら緒花は150もないような気がするなぁ。なんかあんまりそんな気がしませんが。(どうも緒花は147cmという設定らしいです。中の人伊藤かな恵さんが一緒の身長だとwebラジオ言っていました/2012.2.27追記)
 
 ともあれこの第7話は5、6回程見たくらい楽しんだ。一話完結のボトルショーとして良く出来ているんじゃないかと思います。


第8話 走り出す

 なんとかなっちゃうとは思いつつ。

 そんな今回のお話は…
 旅行雑誌で喜翆荘のある湯乃鷺温泉街が特集されることを知った緒花。
 旅館ランキングで上位になればお客も増え、スイからも労ってもらえるのではと妄想する。
 しかし現実は1組の予約しか入っておらず、菜子や徹が休みをとるぐらい暇だった……。
 ところが幸か不幸か常連さんと飛び込み客が重なり、一気に慌しくなる喜翆荘。
 スイも仲居として巴や緒花を手伝おうとするが、急に倒れてしまう。
 そんな中、崇子はお客に覆面記者がいると言い出すのだが……。
 以上公式のあらすじ。

 お話の方は上記あらすじの通りで、雑誌の覆面記者がいるかもしれないという状況で、スイが倒れ、やってきた崇子は覆面記者かもしれない客を贔屓しろと言い出すし、その崇子のおかげでプレーッシャーに弱い漣さんがおかしくなり、徹は友人の結婚式のため休みでという「こんな時に」というタイミングの悪さを積み重ねて、冒頭書いたように、なんとかなっちゃうんだろうなとは思いつつも、このピンチを喜翆荘のみんながどう切り抜けるかを気にさせる。
 喜翆荘のピンチの他にも、旅館喜翆荘として誰か分からない記者にどう対応するかというのも見せていて、これはいつも通り「どうするか」を見せるのではなく、それに対してキャラがどう動くかがポイント。
 崇子の他の客と差を付けるという案は、劇中に緒花が言うようにそれは違うだろうと見ていても思う。しかし決定権を持つ女将のスイがいない状況で、皆が違うと思いつつも、でも本当に経営の傾く喜翆荘にとってこのチャンスを逃して良いものだろうかと逡巡してしまう。それを見越してのことなのか、病院に運ばれながらもスイが手を打っているのがニクい。
 付き添った緒花に自分のことはいいから仕事に戻れと言いつつ、取りに行こうと思っていた帳面がと言いかけてまぁいいかと話を切り、帰りがけの緒花に頼んだよとあんまりらしくないことを言う。  こんなことを言われれば帳面がなんなのか気になるのが人の性。緒花が気にして帳面を見ることも、息子の縁が崇子を呼ぶことも、泰子がなんか変なことを言い出すであろうことも、きっと予想の範疇であったのだろう。
 これが無いと後々どうなっていたか分からないことを考えると、さすがの役所といった感じだ。
 後は残る唯一の問題、料理のために連絡の取れない徹を連れてくるために緒花がサブタイ通り走り出す。何か違うと思っていた接客について論破し、残る問題の解決のために全力で走る。何かが好転しはじめている予感を感じさせる見事な流れで見ていて気持ちがいい。
 物語としてここでダメでしたとなるはずが無いことは重々承知ではあるのだが、その後の「ああ、良かった」を十分期待させてくれるのが良い。

 さて、個人的な所では緒花の成長が見られるのが印象に残った。第1話でなーんも考えていなかった彼女が、今は自分の仕事に充実感を覚え、その仕事に自信と誇りを持っている。
 今回の冒頭で、旅行雑誌を見る緒花と結名のシーン。旅館の評判など気にもしない結名に対して緒花は雑誌のランキングで上位の食い込めば客が増えると妄想する。上記引用したあらすじからは、労をねぎらってもらえることの方を考えているように感じられるが、劇中の彼女の妄想で、寸志をもらい温泉に入ってババ抜きをするってのは緒花曰く「いつもと一緒」なので、結局緒花は自分が自信と誇りを持っている喜翆荘が繁盛することの方が喜びなのだ。
 またスイの帳面を取りに行く際にも、最初敷居を踏んでいた彼女だが、今となっては当たり前のように敷居をまたいで部屋に入る。湯乃鷺に来る前はなーんも考えずにぼんやり生きていた彼女は今はちゃんと考えて生きている。客へのサービスに差を付けることでも、スイの帳面を見てやっぱりそれは違うんだスイ=喜翆荘はそれではいけないんだと思い至る。きっと最初の頃の緒花なら崇子の言葉を鵜呑みにしてしまう所だが、もうそんな彼女はいないのだ。喜翆荘で輝くために全力で走り、何かに懸命になる姿は見て気持ちがいいし羨ましく思う。自分はこんなに懸命になれる何かがあるだろうか。そんなことを思ってしまう。

 もひとつ気になった所としては、孝ちゃんである。タイミング悪いよなぁ(笑)。
 まぁそれはワザとではあるんだけど、緒花は彼と離れて初めて自分の中の気持ちに気付きはじめているんだけど、今は喜翆荘の方に頭がいっていて、メールなりなんなりがないと彼を思い出さない。
 お互いの気持ち的には結構近寄ってはきている感じなんだけど、次回あえないと正直つらいよねー。この辺のもどかしさっていうかじれったさが良くはあるんだけど、なんかこのふたりはあんまりくっつきそうにないよな(笑)。
 最後に民子ことなんでけど、この人物言いがキツくてすぐ緒花に怒ったりしてるんだけど、でも積極的ではないのよね。
 今回の漣さんがおかしくなってどうするとなった時、覆面記者と思われる客を優先すると崇子が言い出したのも、代案が無いのもあるが、それは違うと言い出せないし、徹を呼びにいくのもホントは自分がやりたかったに違いない。
 でも民子はどうしたらいいんだろう?で止まってしまうんだよねー。でもらしくはある。考え過ぎちゃって動けなくなる民子と思いつきで行動してしまう緒花。なんか民子は緒花においしい所をとられているような気がするなぁ。
 まぁその辺で今後一悶着ありそうな気がしますがはてさて。

 ともあれ、次回にこの困難を乗り切ることは分かってはいるんだけど気にせざるを得ない。この話をどう締めてくれるのか楽しみだ。


第9話 喜翆荘の一番長い日

 うーん。思ったほどの盛り上がりは無く。

 そんな今回のお話は…
 いきなり増えた宿泊客。突然倒れ病院に運ばれたスイ。菜子や徹の不在。そして覆面記者宿泊の疑い……。
 女将不在の中、右往左往する喜翆荘の面々は、崇子の提案で覆面記者と思われるお客を優先に接客しようとする。
 しかし緒花はこれまで通り、宿泊客全員に平等のおもてなしをするべきだと反対。友人の結婚式に出席している徹も連れ戻すと言って飛び出す。
 徹が見つからず焦る緒花の携帯に、突然孝一から着信が入る。
 以上公式のあらすじ。

 お話としては特別な何かが起こるというわけではなく、おかしくなった喜翆荘が元通りになるという流れで、サブタイの「喜翆荘の一番長い日」と言う割には盛り上がりどころはなかった。
 むしろ尺としては、徹を連れて帰ってきてからよりも、それまでの方に使っていて、まぁ喜翆荘の方はなんとかなることが分かり切っているので、そこよりも孝一と緒花のすれ違いという部分の方に注力したんじゃなかろうか。
 個人的に孝一と緒花の恋話なんぞにはあんまり興味がないので、喜翆荘の方をなんとかしてもらいたかった所ではあるが、上記したように、喜翆荘の方は要するに女将はいないけれどいるのと同じことをする。多少ズレがある者たちもいるが、全員が共通認識を持ち、その中心がいないスイの替わりに一時的に緒花がなった。ということが分かれば良いので、まぁいいと言えば良いのだけど、サブタイ的にはもうちょっとなんかあっても良さそうな気がします。そういう盛り上がり的な所は少し寂しかったかな。
 今回のメインは先に述べたように、孝一と緒花という所にあって、なーんも考えていなかった緒花が考えて動くようになったのはいいけれど、それは孝一の方には向いておらず、一方彼の方はと言うと緒花のことばっかり考えているようで、気持ち同様行動もすれ違っていく様子をありありと見せている。
 正直港も見事にすれ違っているのを見ると、コイツらはくっつきそうにないですよねー(笑)。最後に孝一には他の女の影が出てくるし。まぁ普通に考えても、自分のことをあんまり意識されていに遠くの想い人よりも、自分のことが好きな異性の方が良いに決まっている。世の中そんなもんです(苦い経験あり)。
 そもそも緒花は喜翆荘のことで頭がいっぱいで、仕事を覚え充実感ややりがいを感じている。でなければ苦労してどこにいるのか分からない徹を連れてこようだなんて思わない。もしかしたら自分はここで本当に輝けるのかもしれないと、がんばっている自分に何かしらの手応えを感じ、自分の中の期待に満ちあふれておるのですが、人の身体はひとつしかなくまた手はふたつしかない。湯乃鷺のほうに向いて輝く自分と喜翆荘を手に取れば、自然と孝一の方に向くことも手を取ることも敵わない。
 人生は常に選択の連続だ、と誰が言ったかは忘れたが、緒花はそんな岐路に立っているのかもしれませんね。

 さて、個人的なことを言うと、やっぱり期待していた分の喜翆荘でのことになる。徹を連れてきて漣さんが元通りになり、劇中の緒花の台詞でももあったように、その瞬間に喜翆荘として動き出したのだ。
 そこで印象的であったのは、お膳(?)を運ぶ緒花、巴姉さん菜子のカット。緒花が中央なんですよね。
 喜翆荘的立ち位置からすれば、仲居頭である姉さんが中央なんでしょうが、ピンチにあってそれをなんとかして、贔屓のあるサービスは間違いであると、女将であるスイの意思を読み取り、女将がいないという状況でありながら、本来あるべき姿の「喜翆荘」になんとか立て直した功労者であり主役として、ここでセンターは当然なのである。
 前述した「動き出した喜翆荘」は、こと今回に限っては緒花が中心となって動かした。緒花にとってはそんな自覚はなかったであろうが、記者に対しての台詞で「誰が記者かなんて関係無いですよ。おもてなしの心はみんなに同じです」は、スイがいたならば言ったであろう言葉だろう。
 第1話でなーんも考えてなかった緒花だが、今となってはこんなことを言えるまでに成長したことを思うとちょっと感慨深い。まぁスイに言わせればきっと「まだヒヨッコ所か卵だよ」だなんて言いそうですが(笑)。

 もひとつ気になった所として、私の予想に反して徹は緒花のことを気にしている様子ですな。まぁ私の予想なんて大概当たりませんけど。
 それで民子とのことを気にさせるシーンがいくつもあったわけですが、民子は立場的にどうしても緒花と同列にはなれないよなぁ。
 徹にとって民子は弟子みたいなもので、それ以上でもそれ以下でもないし、きっとそれはずっと変わらないのではないだろうか。民子が一人前の板前になったとしても、今度はライバルになるだけだろう。
 板前の世界に女性がほとんどいないのが何となく分かるような気がします。きっとそういうことを持ち込む世界ではないんでしょうね。男が趣味に没頭するように、ただひたすらに一生究極の、至高の料理を目指す。惚れたはれたはまた別の世界なのだ。
 とすると民子はどうなっちゃうんでしょうね。仕事も恋もなんて言っている場合ではないだろうが、民子とて17歳の乙女ですものね。どこら辺でこの辺のことが爆発するのかが楽しみだ。

 というわけで、個人的にはもうちょっと喜翆荘の方でなんかあってもいいかなとは思ったけども、「喜翆荘が一時的に大黒柱を失う」という前後編の後編として気持ち良く終わってはいる。
 雑誌の評価の方はともかく、街で仲居姿で走る緒花は結構良い宣伝になったんじゃないかなーと思うので、案外旅館の方は上手くいくんじゃないですかねー。


第10話 微熱

 菜子がテレビをつけるのが気になってしょうがない。

 そんな今回のお話は…
 最近、毎朝早起きをして玄関や帳場の掃除を続けていた緒花だったが、無理がたたり熱を出して倒れてしまう……。
 落ち着いて寝ている緒花を心配そうに見つめる民子や菜子、巴たちは、今日一日ゆっくり寝かしておこうと決める。
 オリジナルのおかゆを持ってくる徹や、お見舞いがてら新作を披露する次郎丸など、皆が入れ替わり立ち代り緒花の様子を見に来るも、緒花は自分がいなくても仕事が回るのを見て、本当に自分は必要なのかと自問する。
 以上公式のあらすじ。

 お話はサブタイやあらすじ通り、熱を出して寝込んでしまった緒花と喜翆荘の人達を見せていて、メイン所としては菜子が心配させまいと言った何気ない一言「緒花がいなくても喜翆荘は大丈夫」を、珍しくネガティブに捉えた緒花が、喜翆荘に自分は必要ないのではないかと思ってしまうところだが、その辺は最後にしっかり語ってくれるので別にここで言うことでもないだろう。
 今回の大部分は倒れた緒花に対する喜翆荘の人たちの行動と緒花の心中で、倒れた緒花という出来事に各々のキャラクターがどう動くかを上手いこと見せていて感心。
 そこでちょっと気になったのが徹で、私の当たらない予想に反してどうも彼は緒花に気がある様子なのがこれで決定的になったのはまぁ良いとして、調理場でえらい彼女を気にして、何か作って持っていこうかとかぶつぶつ言っていた割に、おかゆを持っていった際には「オレにこんな病人食作らせやがって」などと強がっちゃったりする素直でない彼の性格が見えて良い。
 それに伴って、そんな徹の一挙手一投足を気にする民子も良い。緒花に関することにいちいち反応する徹を見て嫉妬してしまうのが乙女心というもので、教えてもらった焼き物を焦がしてしまうのは、その嫉妬の炎を表しているんだろう。
 けれど民子は緒花に嫉妬心を持ちつつも、緒花が「私なんかいなくても喜翆荘は大丈夫だもんね」となく姿を見て、嫌ならここで畳み掛けてしまえば良いものを、そんなことはないんだとツンデレらしい優しさを見せる。
 なんだかんだ言って民子は緒花を嫌いではなく、最初は仕事をナメているとした緒花だが、今では仕事を彼女なりにがんばって随分カタチになってきた様子を見てきたであろう民子は、そんな緒花を一緒に仕事をする仲間として認めているのだろう。徹に関して別に緒花がちょっかい出しているわけでないことをちゃんと理解していて、ムカつきはするけれど、倒れるまでがんばってしまい喜翆荘のことばっかり考えている緒花を悪くは見ておらず、少なからず気持ち良くは思っているようだ。 無口でツンツンしている彼女だが、とても優しく繊細な民子がいじらしい。
 そしてもい一人気になった人物と言えば、冒頭書いた菜子である。なんで寝かしつけたのにも関わらずテレビをつけるんだ、菜子。私は真っ暗で無音状態でないと眠れないので、部屋にくる度にテレビをつけていく菜子が気になって仕方がなかったですよ(笑)。
 その理由は最後の方で明かされ、大家族のお姉さんであるらしい彼女は、昼寝とかして起きた時に音がしていないと寂しいという、まぁ彼女なりの気の使いようであったのだが、これが結構今回のアクセントになっているのよねー。
 菜子がつけて出て行って、誰かが入ってきてテレビを消す。基本的に緒花の部屋で繰り広げられる話はチャンネルをザッピングするかのように、シーングとの区切りを付けていて見ていておもしろい。
 テレビは今回の内容に全く関係がないのだけど、テレビをつける消すを気にさせるのがポイントで、ついていれば「消せよ」と思うし、誰かが入ってきて消せば、そこからのことを落ち着いて見れる。上手いこと考えるなぁと感心しましたよ。

 さて、最後は緒花のことなんですが、今回は彼女の行動よりも心中である。自分が必要か云々は劇中しっかり語られるから置いておいて、気になるのは緒花が見る夢の方だ。
 割と物切れ感のある今回のラストは、緒花が夢の中で「やっぱり喜翆荘にいたいんだ」と結論を出すことで終わる。
 自分がいなくても仕事が回るのを見て、寝込んで弱気になっていることもあり、帰っちゃおうかなと思い至るも、良い悪いは別として様子を見に来てくれる人達、緒花がいらないなんてことはないんだと言ってくれる民子と菜子、やりがいを感じる仕事に、緒花は夢の中の浩一にそう結論を出す。緒花の中で産まれ育った東京や孝一よりも、湯乃鷺や喜翆荘の人達を選んだのだ。
 これでもう孝一とは「もうないな」と思わせる。まぁそもそもとして、緒花は時々メールなり電話をくれる彼に対し、ありがたいなーとは思ってもそれ以上はなく、湯乃鷺で輝こうとする自分や喜翆荘の方に頭がいっているし、孝一の方も前回に女の影があったしで、どう見ても上手くいきそうにない。
 ともあれ、東京からきた人であった緒花は、ここで湯乃鷺の人になると決心したのだ。でもそれは苦渋の決断であったことは緒花の涙が物語るだろう。なーんも考えていなかった彼女であったが、今ここへ至れば、いろいろと物事を考えるようになってきて彼女の成長を窺える。
 最初はちょっとイラッとする主人公であったが、今となってはその真っ直ぐさが気持ち良い。ちゃんと時間経過と共に、その成長を描いているのは素晴らしいだろう。

 というわけで、特に大事件が!という話ではないのですが、上記したテレビの件であったり、時間軸をずらして見せて、後で「ああそういうことだったのか」と分かるようになっていたり、各々のキャラクターなりがよく表れていて楽しく見れた。
 前回前々回の山場が過ぎ、今回のインターミッションを挟んで、これから物語がどうなっていくか楽しみだ。


第11話 夜に吼える

 初めてぶつかる大人の壁。ダメママン再登場。

 そんな今回のお話は…
 湯乃鷺温泉街の特集が載った旅行雑誌の発売日。
 緒花は旅館ランキングでの喜翆荘の高評価を期待していたが、現実は10点満点中の5点。またランキングの結果を受けてか、予約キャンセルが相次いでいた。
 ランキングの結果に納得のできない緒花は、「喜翆荘にめちゃくちゃな評価をつけた犯人と戦ってきます」と書おきを残し、電車に飛び乗っていた。
 交渉(?)のすえ、なんとか出版社で記事を担当したライターの名刺を見せてもらうのだが……。
 以上公式のあらすじ。

 記事を担当したライターはダメママンこと緒花の母「皐月」であった。
 来てもいない旅館の評価をどうして書けるのか。実家だというのもあるが、湯乃鷺に建設中のリゾートスパ(だったっけ?)がどうも圧力をかけたらしく、まぁいわゆる大人の事情なのである。しかし緒花はそれでは納得がいかず、身内に裏切られたとしか思えない。
 また小さい頃から自由奔放なママンが仕事だからと約束を破ってきたことが、こんな仕事のためだったのかと怒りを露にするも、そんな仕事でお前を育てたのだと居直られてしまう。
 そして東京に戻ってきたので南都無しに孝一を見に行けば女の影。彼はまだ自分のことを思ってくれているようで、バイト先の女への返事を保留しているが、それを否定する緒花自身も同じことをしていたのだった。
 雨に打たれ行けば壁にぶつかる。湯乃鷺に来て、輝く自分を目指しぼんぼって(なりたい自分を目指してがんばるの意。『ぼんぼる』は緒花の造語)、何とか上手いこと言ってきた緒花が初めて味わう挫折。
 結果が伴わなかった努力に、その結果を出した評価は大人の事情で歪められ、気付きはじめた男への想いはすでに遅く、そんな状況を思い雨に打たれながら歩けばナンパ野郎に引っ掛かってしまう。
 もうどうしたらいいか分からず、たまらず逃げ出した緒花が口走った言葉は「母ちゃん!」であった。しかしその声に応えたのは、喜翆荘の仕事仲間、民子だった。
 「母ちゃん!」の叫びに「緒花!」の声が聞こえた時、私はこの良い所をママンが持っていくのだろうと思ったのだが、上記したようにそれは皐月ではなく民子の声であった。もう東京は緒花の日常ではなくなっていたのだ。前回夢の中で彼女自身が選んだ通り、彼女の日常は湯の鷺、喜翆荘へといつのまにか移っていった。そしてなんも考えていなかった東京の人「松前緒花」は、湯乃鷺に来て「輝ける自分」を目指しぼんぼる「松前緒花」へと変わった。
 もうなんも考えずに無為に生きてきた子供ではなく、壁にぶち当たり悩み考える大人の階段を上りはじめたのだ。見ていても第1話でかの時に感じた苛立はもう彼女の中に無いことを見ても、彼女の成長が窺える。
 しかしそこはまだ17歳の娘。対処できない事柄の連続についに泣き出してしまう。ここから何を得て緒花はステップアップしていくのだろうか。
 打ちひしがれる緒花は見る結構つらい話ではあったが、これからどうなっていくかを楽しみにさせてくれる。

 個人的にはやっぱりダメママンこと皐月だろう。この人、ダメなんだかそうでないんだかよく分からない人である。
 基本的にはこの人はダメなママンであることは間違いなく、第1話で彼氏と夜逃げしたにも関わらず、別れて東京に帰ってきているのに緒花に連絡ひとつよこさない。しかもそれを悪く思っている様子はこれっぽっちもない。
 しかし、上記したようにこんな仕事のために今まで自分は我慢してきたのかと怒る緒花には、そうだよ、この仕事でお前を育てたんだもんねと言ったりする。
 もし自分が皐月の立場であったなら、緒花の問いになんて応えたら良いのか分からない。だが下手な言い訳するよりか、皐月の言うようなことの方が随分マシ、というかまぁ事実ではあるんですが、彼女は緒花を自分の子供というよりは、いち人間として対等に扱っているようにも思える。ま、単に負けず嫌いというふうにも見えるんですけど(笑)。
 それでありながら、スト風の抗議をする緒花に文句を言うでもなく差し入れしたり親らしい優しい一面を見せたりするのだが、でもよく考えるとこの行為、母親っぽいかと言われるとそうでもない。  案外、母娘ふたりでこれまで人生という戦場で生きてきた戦友、という感じなのかもしれないなぁ。
 なんにせよ、喰えない女である。弟である縁はさぞ苦労したことであろうな(笑)。

 というわけで、湯乃サギからは馴れての東京編は次回も続くようで、ダメママンと孝一に緒花がどう向き合っていくのか、そして良い所で現れた民子と徹はどう絡んでくるのか、次回も楽しみだ。


第12話 『じゃあな。』

 民子が可哀想すぎる。

 そんな今回のお話は…
 旅行雑誌の旅館ランキングで、喜翆荘に悪い点数を点けられたのは大人の事情が絡んでいたと知ってショックを受ける緒花。
 心配で迎えに来た徹と民子に慰められ、3人は小さなビジネスホテルで一夜を明かすことに。
 翌朝、緒花は喜翆荘の本当の良さを知ってもらうため、母親であり、ライターでもある皐月を誘拐して連れて帰ることを宣言。徹と民子にも協力を仰ぐ。
 それを了承する徹だったが、孝一も一緒に喜翆荘に連れていくという条件を出す。
 以上公式のあらすじ。

 お話はAパートで孝一のことに一応の区切りを付け、Bパートでママンに先手を打たれ次回へ続くという内容。
 Aパートの方は、徹が出した条件のもと、逡巡しながらも孝一のバイト先へ行ったら恋敵「波子」とバッタリ出会い、自分の愚かさと周りを見渡すことの大事さを知るという話。
 綺麗に百合色に染まった脳を持つ身としましては、野郎のことなんざ正直どーでもいーんですけど、目緒花が初めて自らの孝一への想いを自覚したけれど、いつも結果、孝一を利用する形になっていたことで、一途に彼を思い続ける波子と比べ負い目を感じてしまい、またこれまで孝一のことを何も考えていなかった自分を見つめ直し、あぁ、目の前のことをぼんぼっているだけじゃダメなんだなぁと、緒花の心の成長がみれるのが良い。
 それはママンの記事にも繋がっていて、緒花自身はぼんぼっていたが孝一や波子にとってはそうではなく、それと同様にママンの記事も要はそういうことの一環であって、自分の周りが連綿と繋がっていて初めて世界が形成されていることに気付く。
 緒花は自分の目に移る世界だけを見ていたが、それは視界にあるだけの小さな世界で、実際には世界はもっと大きく、目の前のことだけが全てでないことを知る。
 最初なーんも考えていなかった緒花が、そこまで考えるに至ったのだから随分な成長である。でもそれは、喜翆荘で仕事をしたからこそであり、家と学校という箱庭が全てである単なる学生では気付けないことで、今ある緒花の状況があるからこそ、その成長をみることが出来るのだ。きっと湯乃鷺にくることがなかったのなら、彼女はまだ数年は第1話の少女のままであっただろう。そういう緒花の心の変遷が見ていてとても興味深かった。

 個人的には、冒頭に書いた民子である。なんかとても不憫ですよねー(笑)。
 緒花が孝一を連れてくるまで名店巡りとか言って吐くまで喰わされるし、民子の想いに気付きもせず、緒花が気になって落ち着かない様子であったりと、徹もなかなか罪作りであるが、まぁ男なんで基本バカなので(笑)、女の子の想いに気付かないのなら男なんてこんなもんである。
 まぁそれはともかく、そういった民子の状況を踏まえてみると、彼女が緒花を菜子のように接しないのも分かるというもので(まぁ性格もありますが)、そりゃまぁおもしろくないというもんです。  しかし、緒花の常にど真ん中ストレートみたいな素直さ(あまり物事を考えないとも言うが)を頭の良い民子は理解しており本気で憎めないってのも、実はとても優しい民子の性格を表している。  それとママンですが、この人はなんと言うか人生経験豊富と言いましょうか、私はこういう隙のない人は苦手です。
 先回りして先手打ってくるし、おちゃらけていると思って隙を見せると、徹底的にそこを攻めてくるし、バカなことを言っていると思えばズバッと真実をえぐってくる。
 正直この人に勝てそうな気が全くしない。んだけど、勝てる気がしないと言う点ではスイも同じである。
 これまで書いてきたように、スイは気に入っているのだが、ママンこと皐月がダメなのは一体何故なのか。ちょっと考えてみた所、まぁたぶん、皐月の方が質悪いからですよねー(笑)。
 この人、絶対に半分おもしろがってるもん。ムキになるだけ損、だよなぁ。でも相手にしないとたぶん絡んでくるんだぜ、きっと。うわぁホント質悪い(笑)。

 と、いうわけで、次回はそんな皐月ママンが喜翆荘で巻き起こす騒動のようですが、楽しみですねぇ色々な意味で。
 ああ、そうだ。どーでもいーんですけど、皐月ママンが自分も昔、緒花と同じことを言ったと感慨に耽るシーンがありますよね。これはよく聞く話で、自分の子供が自分が子供だった頃と同じことをしたという話のオチは、そんな自分の子供にほっこりするとなるんですが、まぁ私は子供なんていないのでアレなんですけど、私は全くほっこりしないどころか、気持ちワルっと思ってしまうんですよねー。
 自分の分身みたいのがいるなんて耐えられないっていうのが理由なんですけど、こういうダメ人間は子供作っちゃダメよねー。まぁそんな気はさらさらないですが。(ホントどーでもいー話だ)


第13話 四十万の女 〜傷心MIX〜

うわぁ、やっぱイヤな女(笑)。

 そんな今回のお話は…
 母親を車に乗せ戻ってきた緒花たち。
 皐月は着くなり、浴衣のデザインやお茶菓子、お風呂の時間について、いろいろと指摘する。
 菜子はそんな彼女を素敵と思い、小さい頃から姉にいじめられてきた縁は威圧的なオーラにひるみ、次郎丸は皐月の艶めかしく白いうなじにやられていた。
 一方、スイと緒花は皐月と距離を取っていたのだが……。
 仕事を通してスイ、皐月、緒花それぞれの気持ちが交錯。四十万の女たちの物語に新たな1ページが加わる。
 以上公式のあらすじ。

 お話は、皐月が喜翆荘に一泊して帰って行くまでの話だが、実家に泊まりにきた客と、身内をお客とする女将と仲居という四十万家と喜翆荘が織り交ぜになった不思議な感じを醸し出している。
 最初は難客「皐月」を喜翆荘がどう乗り切るかというふうな体であるのだが、次第に四十万家の女の話へといつの間にか移行している上手さが光る。
 個人的にはやはりスイが見ていて興味深く、いつもドーンとかめている女将が、見てくれこそ変わらないが心中いろんな意味で穏やかではない様子がおもしろい。
 まずのっけから、「あのお客を見たらね、顔を左右からはったおしたくなるだろうよ」と随分苛立っているご様子。それを皐月が分かって茶化すんだから質悪いが(笑)、そこは実の娘、そんな挑発に乗らないスイの方が一枚上手だ。
 部屋に案内してからは、外で落ち着かない様子の縁はまぁそうだろうというものだが、皐月のアドバイスを聞こうとする彼をひっぱたいて帰って行くスイも、なんだかんだで気になって見に来たんでしょうな。そこで皐月のアドバイスの話を耳にし、バカバカしくなって縁をひっぱたいて帰って行く。あまり表に出てこないスイの心情が垣間見れる。
 その後の全体会議(?)で、川尻崇子を呼んだという情けなーい縁に本気の往復ビンタを喰らわし、「こんな時にまで人様に頼って!これは喜翆荘だけじゃない、四十万の問題」と言った所で、そんな自分の感情の発露と言葉に自らはっとする。
 女将として私事を切り離そうと思っていた。でも違っていた。実の娘でも客は客、一見さんであって一見さんでないその客は、血のつながりがあるからこそスイと緒花で出来ることがある。途中で差し込まれる昔のエピソードと共に四十万の女達の繋がりを感じさせる。
 これまであまり緒花とスイの間で血縁関係を感じさせるシーンはなかったが、対皐月を考えるふたりの間には間違いなくそれがある。喜翆荘の中で脈々と受け継がれて行く四十万の血。古い旅館、喜翆荘が見守ってきたものの中のひとつを見ている感じが良いですな。
 それが如実の表れているのがその後の四十万の女達の飲み会だ。四十万の血筋は恋より仕事。男に一度や二度フラれたくらいじゃ諦めない。そんな話が出来るのは、ここ、喜翆荘だからなのだろう。なにせ四十万の原点なのだから。

 お話としては、当然緒花の事も語っていて、前回だかにも書いたが、今回から緒花は東京からやってきた人ではなく、自分が湯乃鷺の喜翆荘の人なのだと自覚する。緒花の「いつも」は東京ではなくもうここ喜翆荘なのだ。
 ここまでの前半13話は、東京からやってきた人緒花が、湯乃鷺に来て色々あって喜翆荘の人になりました。という話だったような気がします。
 人間的にも随分と成長した彼女が、これからの1クール、この湯乃鷺でどうなっていくのか楽しみです。


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