花咲くいろは 14〜26話

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第14話 これが私の生きる道

修学旅行編の前編。

 そんな今回のお話は…
 空に浮かぶ白い雲、照りつける太陽、目の前に広がる青い海。今日は緒花たちが通う香林(こうりん)高校の修学旅行。
 水着姿の緒花が、パーカーとショートパンツとサングラスで完全防備姿の民子の手を引き海へ誘っていた。仕事を離れ緒花、民子、菜子、結名たちは南国の夏を満喫していた。
 宿泊先の大きさに圧倒される緒花。旅館の番頭であり跡取り息子の日渡洋輔(ひわたり・ようすけ)は、何か結名と関係がありそうな雰囲気だが?
 以上公式のあらすじ。

 どうも結名のお話のようだが今回は問題提起で終わっている前編。で終わらせてしまいたいくらい前編的な話である。
 正直何を書こうか困ってしまっておりまして、おもしろくなかったわけではないんですが、割とこうなるんだろうなぁという予想の範疇内で進んでいる感じで、まぁそれはいつものことなのでいいのですが、そこからのキャラクターの行動が予想の範囲内で新鮮味に欠けたと言うか印象に残る部分が少なかった。
 本編のお話の印象よりも、修学旅行中の小エピソードの方が印象強くて、まずは何をもっても今回のメインである結名であろう。基本的にこの人を私は受け入れられないよ。
 設定的にはどうも天然らしいのだけど、私から見るとどうがんばって見ても作っているし、計算して行動しているような腹黒さが感じられてイヤだ。
 それなのに結名が学校の野郎どもに人気がある理由が分からなくて、男子にちやほや(?)されている彼女がどうも納得できないし、女子がそんな彼女をやっかむそぶりすらないのがものすごくおかしな世界のように感じられてしまっていかん。
 常々フィクションはウソをウソと感じさせてはいけないと言っているが、この結名というキャラは、思いっきりウソ臭を醸し出していて、その場の雰囲気を壊してしまっているような気がしてならない。喜翆荘の面々のウソはそういうことを感じさせないんだけどなぁ。
 その結名に関連することとして、修学旅行編のゲストキャラ日渡洋輔も気になるところ。こっちはお話のメイン所である所の、バイト達への気配りの無さが上手く作ってあって良い。
 バイトさんは従業員ではあるものの社員ではないわけで、今回のお話のように嫌なら簡単に辞めていってしまう。労働力が欲しいからバイトとして雇っているわけで、その扱いは結構難しい。
 もちろん劇中のバイトさんたちの勤務態度はよろしくないが、洋輔は彼女らを使う立場なので、そんな彼女らを上手いこと仕事やらせるのが仕事。なんだけど、それはもう見事にそれが出来てないから、見ていて「も〜っ!」となってしまう。
 ここは見ている側にそう思わせるのがキモなのだ。確かにバイトさんたちの言い分はどうかと思うが、洋輔にもお前もだぞと言いたくなる。このどっちもどっち感が大事。
 バイトさんたちがただ悪いというだけでなく、自分ちの旅館を日本一の旅館にしてやんぜ!とか言っちゃっている洋輔にも足りないものあるわけで、ここから派生するピンチに緒花たちはどうするのかな?と思わせるお話の作りが上手い。のだけど、たぶん手伝っちゃうんでしょうねぇ。
 それが分かっちゃうからどうも今回は書くことがなかったりするわけですよ。先を予想するのは楽しいけれど、読めてしまうのはおもしろくないからな。

 さて、個人的に気になった所というと結構細々ある。
 まず修学旅行中に女子に告白、というのは分からんでもないが、思春期真っ盛りの連中が、周囲のそれと分かるような状況を作るとは思えず乗り切れん。
 それと夜の海がざぶざぶいっているのでカッパかと思って緒花が見に行ったら菜子だったのシーン。夜の海はとても危険です!泳ぎに自信があるからといってそんなことをしてはいけません!というのもさることながら、このシーンの前の食事の時に、菜子が泳ぐことに気合いを入れていたのがあったからか、海がざぶざぶいっている時点で「菜子だな」と読めてしまうのはもったいない。どーでもいーけど、カッパは河にいるものですよねぇ(笑)。
 一番気になった所としましては、緒花と菜子がスリッパを綺麗に並べてしまうシーン。まぁ職業病的なことなんですけど、日常仲居として働いている彼女らにとってしないと気が済まないというか、反射的にしてしまう行動というのがよーくわかるからだ。
 学生時分にコンビニでバイトしていたことがありまして、自動ドアが開いて開いたときに音が鳴って「いらっしゃいませ〜」というわけですが、全然別のコンビニに客として入り立ち読みしていた時、他の客が入りドアが開いて思わず「いらっしゃ……(もごもご)」となってしまったことがあったのですよ。
 なので「あー分かる分かる」と思わず頷いてしまったのでした。習慣になっていることって思わずやっちゃうよなー。特に意識してないようなことだと特に。
 こういう共感できるような所があるっていうのは素晴らしいなーと思う。何かしら感じ入る所がないとだんだん見なくなっていくもので、「いいな」とか前述したような「あぁ分かる」とか思わせるように作っているんだから見事だなと思う。

 修学旅行編は次回が本番であろうので、まぁ何となくこうなるんだろうなぁというのは分かるものの、喜翆荘の面々がどうしてどうするかを楽しみにしたい。

第15話 マメ、のち、晴れ

分かっちゃいるけど気持ちのいいもんである。

 そんな今回のお話は…
 結名の遠い親戚の日渡洋輔。彼の実家が経営する旅館「福洋」に修学旅行で泊まることになった緒花たち。
 しかし番頭である洋輔の厳しい指導や彼の態度に我慢できず、バイトの仲居4人が突如辞めてしまう。
 洋輔の両親と残った従業員は、手空きの仲居がいないか組合に連絡を取るなど奔走する。
 それを見ていた緒花は、自ら仲居の仕事を手伝うと伝えるも、洋輔の父にお客様の手を煩わせるわけにはいかないからと断られるのだが……。
 以上公式のあらすじ。

 お話は前回予想した通り、緒花たちが旅館を手伝い、この修学旅行編でのメインである結名は心境を変化させるという内容。前半は緒花達チーム喜翆荘、後半は結名のことを描いている。  前半は一度は断られるも、やっぱり緒花は気になっちゃってもう一度手伝いを申し出る。最初は緒花の独断専行であるのだが、緒花が一人増えた所でという時に、菜子と民子がやって来るという「集う仲間達」はやっぱり見ていて気持ちがいい。
 それだけでは終わらず、Aパートの引きに緒花曰く「秘密兵器」が壊れるというトラブルに、仕事に生きる四十万の女、緒花はトラブルをなんとかしようとアイデアを出し周りを動かしていく。今回はそこがキモだ。
 この修学旅行編でのメインは結名で、同じ旅館の孫娘という立場ながら全く違う考え方の緒花との違いを彼女が身を以て知る。
 元々この人、初登場時から緒花に対して対抗意識みたいなものが見え隠れしていて、それで自分の方が上であるという認識(容姿や実家の旅館の格など諸々含め)を持っている。しかし今回のことで洋輔から同じ立ち位置にいながら緒花との違いを指摘され、また彼の理想は緒花の方が近いのだ言われたことで、自分は緒花に勝っていると思っていたことが幻想であったことに気付く。
 その容姿から男子にチヤホヤされやりたいようにやってきた結名と、自らの行動から周りを動かす緒花。緒花は最終的にクラスの友達をも動かしていた。自分の知っているキツい旅館の仕事をこなし、友達に手伝ってもらってイヤな顔ひとつされない人を引きつける力。緒花は自分が持っていないものを持っている。結名は初めて見えない所での人の価値に気付き、またそんな緒花と実体験によって旅館の仕事の違う面を知る。
 好きなことをやっていた方が良いに決まっていると思っていた結名だが、やってみて初めて分かる良さもある事に気付き、精神的に随分と子供っぽかった彼女は、この一件で人生における経験値を得て少し大人になったことだろう。

 とまぁ結名の方はそんな感じで、やっぱり個人的にはチーム喜翆荘の方が見ていて気持ちがいいのは上で語った。結名はやっぱりどうも好きになれんのでまぁどーでもいーっちゃどーでもいい(笑)。
 チーム喜翆荘は主役の緒花を中心に、彼女のとにかくがむしゃらに前向き行動が周りを引きつけ、ピンチに集う仲間は見ていて高揚感があり気持ちが良い。
 緒花が強制したわけでなく、手伝いたいと思わせる、思ってくれる仲間。それによって回り出し一丸となる旅館。何かに一生懸命な人の姿は美しいし、こうありたいと思わずにはおれん。
 上にも書いたが最終的にはクラスの友達をも動かしてしまう緒花は、結名があんまり好きじゃないと言うか、どっちかって言うと嫌いな自分としては「どうだ!お前の器の小ささを知るがいい!!」とちょっとした優越感に浸れましたよ(笑)。
 それとちょっと気になった所としては、洋輔とスイの違いですかね。従業員に厳しいという点で同じなのだけど、育たてられなかった洋輔と、最初と比べて随分と成長した緒花に育てたスイ。
 厳しさでもスイの方がよっぽど厳しいのは劇中緒花が語っていたが、何が違うってスイは間違ったことはしないのだ。緒花曰く「超女将ビンタ」も、アレどう考えても緒花が悪いしね。まぁつまるところビンタされるのはされるようなコトするヤツが悪いのだ。
 んじゃ、今回辞めてしまったバイトさんたちが喜翆荘に来ていたらというのを想像してみると、まぁ、ないね。何がないかと言うと、スイは彼女たちを採用しないだろう。アレがいるくらいなら最初からいない方がマシ、と考えるんじゃないですかね。とったとしてもすぐ辞めさせちゃうような気がします。まぁ人を見る目は大事だよね。

 と、いうわけで、お話的には前回予想した通り、こんなんになるんじゃないかなーという範疇内ではあったものの、その予想内のことに「よしキタ!」と思わせる気持ちよさがあった。
 おそらくはおおよそみんなこんなことを考えるだろうという所を見越しての作りなんだろうと思う。その辺はさすがと言う他ないな。


第16話 あの空、この空

うわぁ、難しいなぁ。

 そんな今回のお話は…
 結名の実家である「福屋旅館」に集まった湯乃鷺温泉の女将、組合員たち。
 不況の時世、どうやったら温泉地を盛り上げられるかと話し合っていた。その中には緒花、菜子、民子、そして結名の姿も。
 突然女将から率直な意見をと求められた緒花たちは、自分たちの欲望のまま答え女将たちを呆れさせてしまう。
 その頃、喜翆荘では縁と経営コンサルタントの崇子が、スイに喜翆荘を舞台にした映画の製作、そしてその映画への出資の提案をしていた。
 以上公式のあらすじ。

 お話としては、崇子と縁が上記引用したあらすじにあるように、喜翆荘を舞台とした映画製作に出資するのだが……という話。
 次回予告を見るまでもなく、なんとなーく胡散臭い「総合プロデューサー」を見るに、詐欺なんじゃないかとは思うが、まぁそれはきっとそうなんだろう。これまで同様、そういう状況下でのキャラクターがどう動くのかを見せている。
 そんな胡散臭い話にスイがゴーを出すはずもないと思ったら、何故かあっさり今回のことは縁に全て任せると言い出す。きっと何かあるだろうと分かってはいるものの、将来喜翆荘を背負って立つ縁のために、多少痛い目を見ても勉強さてやりたいという親心なのはらしくない行動からもわかる。
 おそらくは詐欺であろうこの映画の話。この収拾をスイがどうしてくるか楽しみだ。

 お話として興味深いのはそれくらいなのだが、今回は冒頭書いたように難しいのだ。何が難しいかって色々なシーンですごく凝っていて、しかしそこで何が言いたいのかがよく分からないから困るのだ。
 今回のお話としては縁がメインで、胡散臭い話に乗ってしまう経営者としてはダメな若旦那っぷりの彼が、それでも喜翆荘をもり立てようと奮戦する、というのが大体の流れであるのだが、そこから彼の原風景とどう繋がって、どういう彼の気持ちを伝えたいのかがよく見えない。
 夏にプールの水面から飛び上がってくる姉の皐月。それを見つめているであろうスイの顔は日傘の影でよく見えない。逆光と水しぶきでキラキラと輝く姉の皐月は劇中縁の独白でもあるように、美しく、頭の回転が早く、なんでも出来て人気者のまるで物語の中のような人。そんな彼女は憧れでありコンプレックスでもある。
 そんな彼が姉に追いついて追い越したいのか、それとも母であるスイに自分出来るんだという所を認めてもらいたいのか、きらきらと輝く姉のようになりたいのか、あの日姉を見ていたであろう母の瞳に自分を映したかったのか。もしかしたら全部ひっくるめてのことかもしれないが、プールで空を見上げ、伸びていくふたつの飛行機雲が言わんとする所がなんなのか、抽象的過ぎて私のお粗末な頭ではよく分からなかったですよ。画面的にはすごくおもしろいんですがねー。
 分からないと言えば、すごく不思議なシーンもある。
 映画の話を知ってはしゃぐ緒花と菜子が、外で竹箒をまたいでぴょんぴょんと飛び、集中し箒を握りしめ力むというシーンなのだが、コレ、ふたりが何をしようとしているのがさっぱり分からない。
 まぁ遊んでいるんだということは分かるのだが、どういう理由で箒にまたがって集中しようとしているのか。数十秒も使ってまたいだ箒の柄を握りしめ、力んでいる緒花のアップと箒の先っちょを映していたりするんだけど、何と繋がっているのか全然分からないんだよなー。
 「えっと、コイツらなにしてんの?」と思ってすごく印象に残っているんですけど、これも何を言わんとしているのか分からない。すごく気になるので、こういうことだよと分かる方がいらっしゃいましたら、そっと教えていただけると私がスッキリします(笑)。(BDのコメンタリーでやはり「魔女の宅急便ごっこ」であったことが判明しました。2012.3.5追記)
 印象に残ると言えば、おそらくこの人も胡散臭いプロデューサーに騙された口であろう女優さんが、お茶を持ってきたスイの仕草や立ち振る舞いに感心するというシーン。
 緒花たちの接客はこれまでちょいちょいありましたが、スイのそれは初めてで見ることもさることながら、緒花たちとは違った落ち着いた見事な接客でそりゃ女優さんも見ほれるというものである。
 見事な自然の湯の鷺と歴史ある佇まいの喜翆荘、そしてスイの立ち振る舞い。13話で皐月が評した「いつまでも変わり続ける十年一日」。喜翆荘の真骨頂とはおそらくこれなのだろう。ああ、これか。この感じが喜翆荘なのかと、もうちょっと味わっていたいと思っている所で崇子と縁が入ってきてしまい、雰囲気を壊してしまう。これがいい。
 スイの見せるその喜翆荘で味わえる安らぎのひと時があれば、経営は苦しくともたぶん喜翆荘は潰れない(と思う)。でも崇子と縁はそれが見えていないのだ。雰囲気を壊した彼らにスイは思う所があったろうが、敢えて制する事無く退室してしまう。敢えて何も言わない親心。好きにやってごらんと言ったからには、転んでも怪我しても見ているだけなのだ。自分で経験しなければ、転んだときの痛みは分からない。見ていないようでちゃんとスイは縁を見ているのだ。このさりげなさと思慮深さがたまらない。

 さて、お話の方は前述した通り、おそらくは詐欺であろうこの映画の話をどう締めくくってくれるのか、楽しみである。
 なんかスイがおいしい所を持っていっちゃいそうな雰囲気ではありますが(笑)。


第17話 プール・オン・ザ・ヒル

前回同様、割と抽象的。

 そんな今回のお話は…
 喜翆荘の螺旋階段では、緒花と菜子に追い詰められ進退窮まった結名の姿があった。
 喜翆荘を舞台にして、さらに現地の人も積極的にキャスティングすることとなった映画製作。特撮用の機材も運び込まれ、カメラテストが行なわれていた。それを嬉しそうに眺める縁。
 喜翆荘の庭にある池が映画の為に掃除され、元のプールの姿を取り戻すと、縁はそこに過去の幻影を見る。
 一方、東京に戻った皐月からスイへ一本の電話が……。
 以上公式のあらすじ。

 前回怪しい怪しいと言っていた通り、やっぱり詐欺であった映画の件。まぁ分かってはいたことだったので驚きもしないのですが、お話的にも何がどうなったとかもなく、端的に言えば詐欺に引っ掛かって喜翆荘の資金が減った、というだけである。
 ちょっと引いて物語を見れば、前回と今回のお話は縁と崇子の話ではあったが、正直な所、何を伝えたかったのかよく分からなかった。別に縁達に感情移入する何かがあったわけでもなく、詐欺をひっくり返すドラマチックな展開があったわけでもなし、湯乃鷺も喜翆荘も特に変わりなく、変わったと言えば上記した資金が減ったということと、縁と崇子の関係が変わったんだろうということくらいである。
 そんななか印象に残ったのは子供達で、映画がなくなったとか詐欺だったとかで何ら変わることはなく(詐欺の件は敢えて緒花達には伝えなかったようではあるが)、彼女たちはいつも通り青春を謳歌している。
 映画撮るんだって、楽しみだねー。なくなっちゃったんだって、残念だねー。も、長年使っていなかったプールを使えるようにするのも、彼女らにはいちイベントなのだ。
 大人のように経営云々とか、なんだかんだのしがらみも子供達にあるはずもなく、毎日あるたくさんのイベントの中のひとつを楽しんでいる。詐欺だなんだとはもっとも縁遠く、それ故もっとも冷静にこの話の中で動いていて、大人たちにとってのこの苦い失敗は、彼女らにとっては夏の思い出のひとつなのだ。巴さんじゃないが、若いってのはそれだけで特権よねー(しみじみ)。
 もひとつ、印象に残ったと言うか、意外であったのはスイだ。緒花の母でありスイの娘、そして縁の姉である皐月から映画の話はヤヴァイと聞いても、敢えて縁を止めることもなく、逆転の一手を打つわけでもなし、やったことと言えば縁の替わりに湯乃鷺温泉街の女将たちに詫びを入れにいったことくらいだ。
 経営者としては、断然縁より皐月の方が向いているのは劇中通りで、胡散臭いプロデューサーの裏を取れるんだから崇子なんかよりよっぽど優秀であり抜け目がない。スイもそれは十分を理解しており、詐欺の口車に乗ってしまう縁を見てつい、跡を継ぐ気はないか?と口走ってしまう。皐月にそんな気がさらさらないのを知っているのに。
 女将としてはきっと一流のスイも、人の親としては人並みなのかもしれない。騙されかけているのなら、なんとかするのが親心。でも今回の件で放ったらかしであったということは、縁がこれで何かを得てくれれば、という想いがあったのかもしれない。結局の所、彼女は仕事人なのだ。
 しかしスイが全く親らしいことをしてこなかったわけではないし、才覚のある皐月ばかりを見ていたわけでもないのは事後の縁との会話でも分かる。あの夏のプールでもきっとちゃんと縁も見ていたに違いない。

 まぁ結局、随分と印象的に見せていたジェット戦闘機の飛行機雲の言わんとすることはさっぱり分からなかったし、冒頭にも書いたが抽象的で何がテーマかよく分からんかった。
 そう考えるとらしくない二編であったが、割とまっすぐゴーな緒花がメインでない話として、上手く出来ているのかもしれない。


第18話 人魚姫と貝殻ブラ

やっぱスイはおいしい所を持っていくなぁ。

 そんな今回のお話は…
 夜、次男をおぶりながら台所で夕食を作っていると、長男と次女の「お腹空いたー」という声が響き、居間からは小学校の教師である両親の討論が聞こえてきた。
 「そういう話は学校で!」と、弟妹の面倒を見ながら両親をたしなめる菜子。そこには家の外では見られない力強くしゃべる姿があった。
 翌日、菜子はお客から見ごろの花を聞かれるも、すぐに答えられず落胆する。家でのように振舞いたい、やっぱり今の自分を変えたと思い始めていた。
 以上公式のあらすじ。

 お話は上記引用したあらすじにあるように、つまるところ極度の内弁慶を直したいと思う菜子であったが……という話で、まぁ要するに「本当の自分って?」というような話である。
 給料日に何故か給料が上がっていた菜子は、スイが菜子の性格を直してほしいのだと思い、前々からその性格を変えたいと思っていた菜子は、家の中での自分を常に出せるよう自分を変えようと試みるが、案の定色々と失敗してしまう。
 見た目から変えてしまおうと普段着ないような服を買ってしまったり、無理に家での自分を出してしまったりと見ていて結構痛々しく、そういう事ではないのにとつい思ってしまう。
 おもしろかったのは、いつも空気の読めない緒花が結構核心を突いていて、本当の自分を出せたらいいのにと言う菜子に、では今私と話している菜子は本当の菜子ではないのか?と問いかけるのだ。
 家の中だろうが外だろうが、菜子は菜子である。どちらも一部分でありどちらも本物なのだ。しかしその本質は変わらない。そういう事をスイが最後に言っておいしい所を持っていくのだ。
 給料が上がったのは、菜子の想像したもっとがんばってほしいと言う意味ではなく、つまるところを言うと成功報酬であったのだ。
 劇中スイが言っているように、仕事をする所は学校ではないので、がんばってほしいからとか期待値で給料が上がったりしない。給料が上がるのはそれなりの仕事をしたからである。まぁ仕事が生活の中心でない高校生にはよく分からないか、当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、これ実際仕事しないと実感ないのよねー。
 お役所みたいな完全に年功序列とかはまぁ置いておいて、今のご時世、仕事出来ないヤツは金もらえないし、学校と違って誰かがずっと仕事を教えてくれると言うわけでもなし、自分で進んで学んでいったり憶えていかないと先に進まないのよ。それが分かってくるのはまた仕事しはじめてから結構経ってからだしねー。
 このアニメが「お仕事青春群像劇」ということで、その辺良く出来ているなーと思った。まぁこの話に限らず、仕事するということを通して、若者が何かを得ていく様子や考えが改まっていく様子、そうして成長していくさまをよく描いている。
 菜子はスイから自分が「本当の自分でない」と思っていた外での自分の仕事が評価され、家の中と外はやっぱり違うけれど、自分の本質が変わらなければいいのだと自信を少しつけた。きっとこれから意識せずに少しずつ変わっていくのだろう。自分が変わるということは、その瞬間に劇的な変化をもたらすのではなく、何かをきっかけにいつのまにか過去の自分と違った自分になっているものだ。

 さて、その他気になった所としては、買い物のシーンである。同じ服を試着した菜子と緒花の対比があったのですが……緒花の何と貧相な事よ(笑)。
 まぁ緒花より菜子の方が発育がいいといいますか、緒花のつるんっぷりはなかなか見事である。そういえば緒花の身長は中の人「伊藤かな恵」さんと同じ身長だそうで、どうも147cmらしい。150ないのって結構小さいよなー。
 菜子が何cmあるかは知らないけれど、仲良し四人組を比べても一番背が高く、緒花との対比では15〜20cmくらいの差はありそう。ってことを考えると結構平均的に見ても背が高いな。まぁだからどうしたと言われると困っちゃうんですが(笑)。
 あとは菜子の家族なんですけど、両親がどうも教員らしいのはまぁ別にどーでもいーんですが、お母さん、美人ですよねー。それと下の妹ですが、絵本を読んであげているシーン。足をパチンパチンってやるの、やるよねーあの格好するとつい(笑)。そういう生活感がよく表れていて良いです。
 そーいえば、おへそを出していた下の妹に菜子が、「おへそ取られるよ〜三丁目のおじさんに取られるよ〜」というのだけど……三丁目のおじさんに失礼ですよね。それとも三丁目のおじさんは、幼女のおへそになんかしそうな人物なんでしょうか(笑)。
 最後に今回(も)おいしい所を持っていたスイですが、13話以降、随分と丸くなったような気がしませんか?なにかあとの方で何かありそうな気がするんですが、どうなんですかねー。
 何かありそうと言えば、OP見ていてちょっと思ったんですが、これって緒花が湯乃鷺から東京へ帰って行っていて、東京へ向う電車の中で湯乃鷺での事を思い出しているように見えるんだよなー。最終的の緒花は東京に帰っちゃうのかなぁ。東京には孝一もいるし、そもそもフッたフラれたは緒花が言っているだけで、決定的な何かがあったわけでもないし。
 湯乃鷺で変わっていった緒花が湯乃鷺でのことを胸に、何もないと言っていた東京で何かを見つけ今後も生きて行く。みたいなオチなのかもしれませんねー。
 最後になんにもないと「いろいろあったけど私は元気です」で終わっちゃうからな。きっとなんかあるんだろうと思うのだが、はてさて。


第19話 どろどろオムライス

いや、見事にサブタイが物語っていて良いな。

 そんな今回のお話は…
 文化祭で「姫カフェ」を企画することになった緒花たちのクラス。
 主に男子からの強い支持で、接客チームのリーダーは結名姫、料理チームのリーダーは民子姫ということに決まり、緒花は仲居の経験を活かし接客チームの講師を任される。
 あまり乗り気でない民子だったが、徹の「文化祭当日の昼間は暇だ」というひと言で俄然やる気に。
 限られた調理器具で、最高の料理を作ろうとメニューをいろいろと考えるのだが……。
 以上公式のあらすじ。

 お話は久々の学園編とでも言いますか、喜翆荘から一時離れ、学校での緒花たちのお話の前後編である。
 上記引用したあらすじにあるように、文化祭で二姫のいるクラスは大変盛り上がりふたりを中心に食い物屋をやることとなるのだが、ある意味緒花以上に空気の読めない民子がやらかしてしまうのがメインであり、クラスも違い全く関係のないと思われた菜子が締めるサブタイが今回を上手く物語っていて良く出来ている。
 メインはメニューにオムライスを入れてほしいとする調理班の一部に、民子が限られた器具ではおいしいオムライスが出来ないとして拒否する所から始まる対立である。
 これのなにがおもしろいって、別に青臭い青春的対立がどうこうではなく、その対立の原点は民子とその他の生活の中心と考え方の違いが如実に現れていて、仕事をしている身としてはとても興味深い対立なのだ。
 民子はこの物語の最初の方でも語られた(5話だったっけ?)ように、本当は高校にも行かず板前の修業をしたかった人で、今も高校に通いながら喜翆荘に住み込み仕事をしている。彼女の生活の中心は仕事なのだ。一方、その他の方々は当然の如く高校へ進み、学生としては学校という箱庭が生活の全てである。
 学園祭と言えど料理するからには、料理人の端くれとして、自分が出す料理は最高のものにしたい民子。
 修学旅行の時に民子にフラれた野郎に想いを寄せている女の子は、その野郎が好きなオムライスをどうしても食べてもらいたい。
 対立の構造はこうである。
 高校にも行かず板前になりたかった民子にとって、料理するということは仕事であって手を抜くことは許されない。例えを出すならば、友人を招いてパーティーを開くとする。その友人のひとりの料理人にパーティーに出す料理を作ってもらうとして、その料理人は友人のパーティーだからと言って手を抜くだろうか?
 という話で、女の子の「好きな男子に最高のものではないけれど、好物のオムライス食べてほしいんだもん」は仕事としている身としては、その気持ちは分からんでもないが、それ私事じゃん全体考えろよ。と思わずにはいられないのだけど、ここは学校なのである。
 ほぼ全ての生徒にとって学校という小さな箱庭での出来事が全てなのだ。すでに社会に出て荒波にもまれている民子と考え方が全く違う。箱庭に仕事を持ち込んでくる民子はその他にとって理解できないのだ。それと同じように、仕事に私情を挟んでくることに民子は理解できない。まぁ仕事に私情を全く挟まないのが良いとは言わないが、あくまで一般的な話として、民子は仕事する人間として出来得る限り最高の仕事をしたいし、それが当たり前だと思っている。
 仕事している身としては、民子の言うことはもっともであるとは思うものの、学生という身分から離れ随分経って、学生というものは私情入り乱れた中で、どう立ち振る舞って自分のポジションを確立するかにかかっている、と分かってくると、民子には「OK、んじゃぁふたりの恋を成就させちゃうぞ!」と言っちゃうくらいの余裕が欲しい、が彼女はまだ社会にその身を半分だけ突っ込んだ身でだし、なにより17歳。若いよなぁ。対する女の子も学生なんだから若い。その発想も当然というものである。
 まぁぶっちゃけ、私として見れば「どっちもどっち」で、そこで対立し別れちゃうんだから「若ぇ〜」と思わずにはおれん。大人もね、会議なんかで対立したりするんだけどね、そうすると妥協点を探り出すんだぜぇ。まぁ机の下ではどつき合っていたりする時もあるんですが(笑)。
 ともかく、そういう立場の違いから双方理解し得ないのが見えてくる、10代なんていつの頃だったかしら?なんて歳になってくると、民子や対する女の子の痛々しいのもさることながら実に微笑ましく、なるほど銘打っている「青春お仕事ストーリー」として良く出来ていて感心する。

 さて、そのメイン以外でのことも良く出来ていて、民子を仕事人として上記の通り記したが、彼女曰く「仕事と恋愛を一緒にするなんてあり得ない」と吠えておりましたが、ご存知の通り、割と民子は喜翆荘でそんな感じではあるし、Aパートで菜子や緒花にヤキモチを焼いているさまを見せていて、彼女のその言葉に「そうは言うけどお前もどうなんだ」とつい苦笑いしてしまう。そういった若気の至りと言うか、むず痒くなるような態を見せ微笑ましくなる前フリを作っているの上手い。
 個人的には緒花と民子、そして結名のクラスとは対照的に、全く活気のない菜子のクラスで粛々と行われるふたりだけの準備がアクセントとなっていておもしろい。
 盛り上がっているからこそ大きな対立を引き起こしてしまうクラスもあれば、やる気がなく投げっぱになってしまうクラスもある。それもまた学校で、よくあるマンガやアニメの文化祭のように、学校をあげて盛り上がる、なんて学校はそうそうあるもんじゃなく、私なんかは高校の頃学際でなにやったか正直憶えていないくらいだ。
 そういった学校らしさもよく表れているし、なによりふたりきりの教室で粛々と作業する中、あまり友達のいなさそうな絵の上手い女の子が菜子に友情を感じていたり、前回を経て変わりつつある菜子がその子に歩み寄ろうとするふたりのたどたどしさがなんとも初々しい。
 そんな中、不意に抽象画にタイトルをつけてほしいと言われ狼狽する菜子が、思わず今回を物語る「どろどろオムライス」と口走ってしまうのが可笑しく、まぁなんと良く出来たシナリオかと思う。

 次回でどう対立を解消し当日に挑むのか、また、菜子と絵の上手い女の子は友情(というか個人的には百合)を育めるのか期待したい。何せ次回のサブタイは「愛・香林祭(あい・こうりんさい=愛が降臨する祭りということですよね?)」なわけだし。


第20話 愛・香林祭

学生って良いですよねぇ。

 そんな今回のお話は…
 文化祭の「姫カフェ」のメニューについてクラスメイトと言い合いになってしまった民子。
 売り言葉に買い言葉、材料の買い出しや準備を自分だけでやると言い、準備当日も朝早くからひとりで出かけていた。
 心配した緒花は集合時間より早く教室に行くと、そこには黙々と準備を進める民子の姿が。手伝いを申し出る緒花に、民子は手伝いはいらないと声を張り上げる。
 一方クラスメイトの水野さんと二人きりで準備していた菜子だったが…。
 以上公式のあらすじ。

 前回から引き続きの文化祭のお話。
 お話としては、前回もめてしまったオムライスのことを解消し、みんなで文化祭ワッショーイ!って感じ。簡単に言えば。
 まぁ、基本的に何かとんでもない事件とか、世界の命運を賭けたなんやらが勃発するわけではない物語なので、やっていることとしては学生の文化祭の様子を眺めているだけなんですけど、学生という身分から随分経った身としましては、色々と懐かしくもあり分かることもある。
 その辺の一部は挿入される喜翆荘でのスイが語ってくれるが、学校という場所は、今学生の諸君には分からないであろうが、それはもうとても特殊な場所で、そこでしか得られないものっていうのがあるわけですよ。会社と学校は全然違うからねー。だって会社は営利組織なわけだし。
 と、いうわけで今回のテーマは友達なのです。分かりやすい!
 まぁそんなんは見ていて分かるとは思うんですけど、見ていてこういう学生特有のノリ的なモノはあるよなーと思うわけです。
 この文化祭編での民子みたく、会社でそんなふうになったとすると、誰も助けてくれないか、手伝ってくれたとしてもそれはそいつの仕事に影響出るからで、基本的に触らぬ神に祟りなしってなもんですよ。とばっちり喰らうのもイヤだしねー。
 と、会社に置き換えると「ねぇな」というような展開なんですが、学校なら「アリ」なのです。困っているヤツがいるなら助けるぜ!なぁに礼なんていらねぇゼ!仲間と共に一致団結!もっとやれそして心を育め!ってのが学生の本分だと思うのですよ。社会に出て全く同じようにはいかないけど、そのノウハウを得るってのが大事なのよねー。学生の頃はとんと気付きませんでしたが(苦笑)。
 そういうことを無意識にやれちゃう学生という身分とか学校という特殊な環境がよく出ているなぁと感心したわけです。まぁ正直ちょっとみんないい子ちゃんばっかりだなぁとは思いましたが。特に女子はね、色々とアレというか、男が見ていない所で黒いですもんね(苦笑)。

 そんなおもしろくもない会社の話なんぞは放っておいて、お話の方はと言いますと、上記したように何かとんでもないことが起こるわけでもない話ではありますが、見ていて気持ちよい作りになっている。
 喜翆荘という仕事の場から離れた緒花たちが学生の本分を全うする様子を描いているわけですが、緒花たちくらいの年頃の子たちにとって学校という場は、仕事とは別のことを教えてくれる大切な教育機関であって、別に教師から教えてもらうこと意外に、彼女らは学校という場でそれぞれ何かを得て成長していっている。それを意識してじゃなく無意識に、というのが見ていて気持ちが良い。
 各々の色々な思いが噛み合って、自然とトラブルを解決いていく。自然とというのが重要で、何かしらの計算や打算でない純然たる気持ちが事態を動かして行く。若さ故の力がこの歳になると微笑ましいのだ。また菜子のように思いがけず芽生える友情もある。学生の頃を思い出し、あぁいいなぁとノスタルジックな気分になるし、遠い昔に置いてきてしまった、あるいは忘れてしまっていた何かを思い出す。
 何度も言いますが、何か特別なことが起きるわけではないのですが、どこにでもあるような、誰しもが体験していそうなことだけに、色々と思うことがあるシナリオなんじゃないでしょうか。その辺狙ってやっているような気がしますが。

 さて、個人的に気になった所はと言うと、結名である。
 これまでなんでこの人が女子にもそれなりに人気があるのかよく分からないと書きましたが、今回、あぁなるほどという所がいくつかあった。この人は、トラブルに直接関わっていなかったからかもしれないが、意外と冷静でちょっと引いて物事を見極めている感じであった。そしてポツ、ポツと核心を突くようなことを言って楔を打っている。なんにも考えていないようで、この人はこの人なりに、このトラブルの解決のことを考えていてそのために動いているのだ。
 きっと今回以外のことでも、彼女の一言で解決してしまったようなことがあったのではないかと想像でき、彼女の人気というか、女子に嫌われていないのはこういうことかと、結名の能力にちょっと感心してしまいました。おそらくメインの4人娘の中では一番精神的に大人なのかもしれない。
 対して、渦中の人であった民子はというと、彼女としては学校は主戦場ではなく、人並みに卒業できれば良い、みたいに思っているのか、学校でかなり浮いちゃっていますよね。今となっては民子が女子に嫌われていない方がちょっとおかしいのではと思うようになってしまった。というか、美人なので男子に人気なぶん、確実に女子には好かれてはいないよな(笑)。  気になったと言えば菜子もである。彼女は緒花たちとクラスが違うのであんまり学校での立ち位置が見えてこない。しかし、4話だかで学校のかなり隅っこと思われる所で緒花とお昼を食べていたり、18話でのことを見ても、孤立はしていないだろうけどそんな仲の良い友達がクラスにはいないようだ。
 そういったことが連想される中で、むしろ菜子よりも孤立していそうな水野さんと仲良くなれた、というか結構一方的に好かれた感じもするが、18話を経て菜子の意識が少し変わったことと、菜子の持ち前の優しさや気配りに、感受性豊かな水野さんが好意を寄せたことが彼女の絵のタイトルに表れていて、ドタバタした緒花たちのクラスとは対照的に、静かに育まれた友情が綺麗に百合色に染まった脳を持つ身としては、結構ぐっとくるモノがあった。
 以降、菜子と水野さんの関係を窺わせるようなシーンなりがあればいいんだけどなぁ。

 最後にどーでもいーんだけど、文化祭当日の美術。「true tears 」の湯浅比呂美の特大ポスターが張ってありましたねー。Last tearsになってましたが。
 なんか今回の感想はちょっと愚痴っぽいな。


第21話 蘇る、死ね

民子って結構ネガティブだよなー。

 そんな今回のお話は…
 縁と崇子から突然の結婚宣言を聞かされる喜翆荘の面々。
 お金がなく結婚式があげられなくても、ふたりの力で旅館を盛り返すと息巻く縁だったが、スイから喜翆荘の番頭としての体面を保つため、必ず式は挙げること、と条件を出される。
 結婚費用の高さに頭を抱える縁、そしてそれを見つめる緒花たち……。だが豆じいのひと言から、皆が手伝い喜翆荘で結婚式を挙げることに!  緒花や初めて宴会料理を仕切ることになった徹は俄然やる気を出す。
 以上公式のあらすじ。

 お話としては、18話以降、デキちゃったと思っていたらついに結婚することとなった縁ング(笑)と崇子の結婚式をするぞ!ということを中心に、各々のあれこれといったいつもの感じである。
 喜翆荘で結婚式ということで、徹は宴会の料理を任され、緒花や菜子は結婚式のお手伝いということで俄然やる気になることから起こっていく様々な問題を見せていて、相変わらず良く出来た脚本だ。
 メイン所としては、サブタイにもあるように民子とのことで、相変わらずの空気読めなさっぷりの徹であるが、ちゃんと民子を気にしていたと思いきや、そこで緒花の話と出しちゃうんだから鈍感にも程がある。それはともかく、やっと上手くいくのかもと思った矢先にそんなんだから民子が緒花に怒ってしまうわけだけど、これって割と筋違いではあるよなー。まぁ、恋する乙女としてはそういうものなのかもしれないが。
 かれこれ21週経つが民子の思いなどこれっぽっちも伝わっておらず(まぁさもありなんといった感じだが)、むしろ緒花の方を気にしている徹に、民子は第3次お風呂場決戦にて随分とネガティブなことを言い出す。
 お前が喜翆荘を変えたんだから責任とって徹さんと付き合ってあげて、とはまた発想がネガティブですよねー。全くその気のない緒花にとっては劇中通り「はぁ?」であるし、第三者視点で言うと、そこに緒花の気持ちが全く介在していないので、ものすごく突飛なことを言っているのだけど、民子としては、徹が自分を見てくれていないので、民子が彼の幸せを思うに、緒花と付き合った方が徹は幸せだろうというネガティブな結論。
 ま、正直、この気持ちは男にはよく分からんと言いますか、なんで自分の方が緒花より彼を幸せにできるとか思わないのかなーとか思ってしまう。対抗してダメだったのならあきらめもついてそういう発想になるのも分からんではないけど、民子って別にこれまで徹に何かしらのモーションをかけたわけでもなく(オムライスはおそらく全員にLOVEと書いたであろうから)、なんにもしてないんだから当然何ら変わることはないのはまぁ当然と言えば当然なので、なんもしてない民子がなんでそんな方向へ結論をすぐに持っていってしまうのかは、この歳の男子としては理解に苦しむが、17歳の恋する乙女としてはそんなもんなのかもしれん。とは思った。
 ちょっと関係無いが、とある女性に彼氏がいて、女性の友達がその彼氏と浮気したとなったとき、この三人の中で悪いのは誰?というアンケートがあって、女性の解答で一番多かったのが友達が悪いでありました。ちなみ男性の解答はやっぱり彼氏が悪いが一番多くて、多分に漏れず私もそう思うのだけど、女性の考えは随分と男と違うなーとそのアンケート結果を見た時に思ったものだが、それを踏まえて民子のお前が責任取って徹と付き合え!ってのは、割りかしそれに類しているので理にかなっていると、自分の考えとは違うけれどもさもありなんと思うのは、そういうことなのかもしれん。
 それにしてもだ、私はむしろ民子よりも緒花の方が気になって、空気が読めないという設定の割に、風呂場に入ってすぐ、私また変なこと言った?などと随分と気にしていて、どーでもーことでかなり鈍感ではあるものの、緒花はそれなりに周りに気を配ってはいるようだ。
 それに、後日取りつく島もない民子に対し、果敢に関係修復のためにアタックしていくんだから、コイツは精神的に強いなーと思わざるを得ん。自分だったらと思うと、まず面倒なので(笑)とりあえずほとぼりが冷めるまでとか思ってしまうんですがねー。昨日の今日で見るからにご機嫌斜めな民子に当たっていくんだから並々ならぬ精神力ではあると思うし、コイツは結構友達思いの厚いヤツだとも思う。何かあった時にあんまり緒花は自分のことを考えたりはしていなくて、それは意識的に四十万の女であることを強調しているのかもしれませんな。

 さて、私としてはお気に入りのスイの方もやはり気になる所。特に喜翆荘の命名秘話はなかなか興味深い。というか、そういう意味であったのかと感心してしまったよ。
 縁の結婚を反対しているふうには見えてはいなかったので、結婚云々でなにかかかってくるとは思ってはいなかったが、旦那にもらった指輪を崇子に渡して、縁をよろしくと頭を下げるとは思ってもみなかった。
 元々厳しさの中にも優しさの見えるスイではあったが、13話以降は「女将」四十万スイというよりは、一人の人間としての四十万スイを見せているように思う。こういう一面もあるんだと思いつつも、決してそれが四十万スイという人物からかけ離れてはいない。むしろだからこそスイであるとさえ思わせる見事な人物像である。ぶっちゃけ影の主役と言っても差し支えないであろう。
 そんな彼女はその役所らしく、今回の最後では縁と崇子の結婚を認めながらも、喜翆荘を継がせる気はないと言う。
 矛盾しているような話である。話数的にも言ってここからが山場であろうから、ここからどうなっていくかが見物だ。


第22話 決意の片思い

あら、意外の方向に。

 そんな今回のお話は…
 緒花、菜子、そして結名は手作りのウェディングドレスを、蓮二から初めて宴会料理を任された徹は当日のメニュー作りに、そして次郎丸はオリジナルの寸劇の準備にと、それぞれが縁と崇子の結婚式準備を進めていた。
 そんな中、あることから一方的に民子に嫌われてしまった緒花は、何とか話し合おうとするのだが取り付く島も無い……。
 どうすることも出来ない緒花だったが、母・皐月との電話の中で聞かされた言葉をきっかけに、あることを決意する。
 以上公式のあらすじ。

 お話は縁と崇子の結婚式を中心に、前回から引き続きの民子との問題の解決と、物語のラストに向けたスイの決意の発表をメインに描いている。
 冒頭書いたように、どちらもけっこう意外な展開で、まず民子の方としては、ついにケンカとなってしまった緒花と民子の場に遭遇した徹が、図らずも民子の想いを聞いてしまうという展開。
 前回の感想で随分ネガティブだなーとか書いたんですが、ああ、なるほど、民子は諦めてしまっていたのね。見ているこっちとしては、緒花にその気が全く無いのを当然の如く知っているので、くっつく可能性が0だから軽く見ていましたが、劇中民子にとっては、もう自分ではダメなんだとガックリきてしまっていたということか。
 仲直りの経緯としては、緒花の母、皐月の電話で緒花がなんで孝一の事を振られてしまったと諦めていたのかと自問し、サブタイ通り片想いを決意して、民子が言う「徹と付き合え」は孝一に片思いするから絶対出来ないと拒否する所から始まる。
 そこからケンカとなって徹に民子の想いを聞かれてしまうのだが、自分としては民子の想いが伝わってしまうことはないだろうと思っていたのでけっこう意外であった。というのも、そうであったとしても物語的には何ら問題ないので、個人的に結局徹は民子の想いに気付かないで終わるんだろうと思っていたところだったので、まぁ虚をつかれた格好になった。だってなぁ、自分が徹だったとして、その後絶対やりにくいもんなぁ。どう接していいか迷う。
 まぁそんな私の事は置いておいて、徹がちゃんと民子の事も見ていた事が分かり、彼女も緒花と同じように片想いを続ける事を決意する。
 これまでと同じように緒花が主役らしく、その持ち前のポジティブさと行動力で周りをかき乱し引っぱっていく事となったわけだが、結局そこに尽きる、ということですな。最初はイラッとする東京から来た人であった彼女であったが、緒花の短所は喜翆荘へ来て長所へと変わったのだ。トラブルメーカーであった緒花は、今や喜翆荘の中心となっているのである。

 そんな喜翆荘であるが、豆じいこと電六さんが喜翆荘を辞める事となり、それに伴って今年のぼんぼり祭りでスイは喜翆荘を閉じると宣言した。前回の縁と崇子に喜翆荘は継がせないというのはこういう事だったんですね。
 しかし、いくら上記ふたりに経営の才覚が無いとはいえ閉める事はないと思うがなぁ。まぁスイの事だから、当然ちゃんとした理由があるのだろうが、今の所それと分かるものに心当たりがない。
 理由はともかく、閉めるとなると緒花を始め従業員はどうするのか。学生組はまぁ特に問題はなかろうが、巴さん、漣さん、徹はどうするんでしょうね。あ、あと次郎丸……は特にデメリットないな(笑)。
 あぁそういえば、徹をふくやに貸し出した時だったかに、スイがこれでいつ喜翆荘がなくなっても大丈夫だね、みたいな事を言っていた事もあったな。まぁそれはけっこう前の話なんでその時は本当に閉める事を考えてはいなかったであろうが、なんにせよ、スイが閉めると言ったからには、緒花やその他がどういったとしても、おそらくは決して折れないだろう。
 どうにかこうにか存続の道を選ぶのか、それとも喜翆荘の歴史が閉じてしまって終わるのか。これからの物語展開が気になって仕方ない。

 最後に個人的な事ですが、さすがにこの歳になると、片想い云々はちょっとこっ恥ずかしい気がしますな。もうなんか自分の中にそーゆー気がなくてねー。若いっていいわねーと巴さんが言うような事を思ってしまったですよ。
 それとその辺の片想い云々らへんはやっぱりと言いますか、随分とドラマ的ですよね。ドラマチックな展開ということではなく、実写のドラマっぽいという意味です。
 アニメっぽいとかドラマっぽいとか、あると思うんですが、やっぱりアニメはアニメなんで当然アニメっぽい演出と言いますか、映画とドラマで感じが違うのと同じ感じで、この「花咲くいろは」というアニメは全体的にアニメというよりはドラマっぽい。
 正直この物語が、NHKの朝の連続ドラマでやってもそう違和感ないと思うんですよねー。おそらくは狙ってやっているんだと思いますが、そうだとしたら良く出来ているよなぁ。


第23話 夢のおとしまえ

これからどうしようかっていう話。

 そんな今回のお話は…
 四十年欠かさずつけてきた業務日誌を誰かに引き継いでほしいという電六の申し出。
 それを了承したスイは、ある重大な決心を緒花に告げる……。
 後日スイの気持ちを知ることとなった喜翆荘の人々は、普段と同じよう仕事をこなしながら、これからの自分たちの行く末を思案していた。v  そんな中、崇子は縁が騙し取られたお金を取り戻すため東京に行くことを宣言。それを聞いたスイから、緒花も一緒に東京へ連れていってほしいと頼まれる。
 以上公式のあらすじ。

 お話としては、前回の喜翆荘を閉めるという流れを受けて、各々どうしようかと、とくには緒花が割と周りに流されながらどうしようか思案しているといった感じで、正直とくに某ない。
 今後のために東京へ一旦戻った緒花と、彼女の想い人孝一が緒花に対してどう思っているのかが分かれば内容的には良い。
 メイン所としては、孝一自身は緒花をフッたとは思っていないということで、まぁこれまでさんざ緒花が東京の男にフラれたとか言っておりましたが、別にそうはっきりと断言されたわけでもなく、勝手の緒花がそう思っていただけではあるものの、フラれたということにしておいて話を進めてあるので、冷静に考えれば「まぁそうなんだろうな」とは思うが、話の展開的にはその孝一の気持ちというのは初めて分かったような事実であるかのように見せているのは上手い。
 しかしなんだな。波子は当て馬であったか(笑)。もうちょっとその辺で何かしらあっても良かったように思うけどなぁ。波子のアタックが玉砕するとかの。
 基本この物語は喜翆荘のある湯乃鷺が中心なので(緒花が主役なんだから当然と言えば当然だが)、それとは別に「その頃東京の孝一は……」みたいなのがちょいちょいインサートしても良かったんじゃないですかね。今にして思えば。
 というのも、孝一云々は劇中ちょいちょい話には出るもののそれだけであって、物語の基本的な流れは喜翆荘で起こるアレコレだから印象が薄いんですよね。
 今ここでこうして緒花がいろいろあって彼に対する気持ちが変わり、片想いだ云々いうのであれば、喜翆荘での事と緒花の恋心はイコールくらい配分があっても良いような気がします。そう思うからこそ、東京で孝一がその頃どうしているかとか、波子に言い寄られて(?)どうなるんだ?みたいなのがあった方が、距離があってお互いしている事が分からないぶん、お仕事の方とは別にそっちも気に出来たのではないかと思います。
 まぁしかし、この物語の本分としては、やっぱり青春お仕事群像劇なのであろうから、見ているこっちとしても湯乃鷺=喜翆荘で緒花や取り巻く人々がなにしてどうするかを期待しているし、個人的なことを言うと、他人の恋路に全く興味のない者としては、緒花と孝一がくっつこうがどうなろうがどーでもいーというのがあるわな。
 ぶっちゃけ孝一云々に尺を割くくらいなら、喜翆荘関連に使ってほしいくらいである。結構ちょい役の孝一よりもスイがなに考えているかの方がよっぽど興味があるというものです。
 まぁそんなわけで、色恋云々にあんまり興味ない自分としては、結構退屈な話だったりする。どうせ上手くいくんだろうなーという予想もあるしなー。

 個人的な所としては、孝一が緒花と最後にあった時に飲んだコーヒーの味云々の所で、私がそんな思い出みたいのを引きずらないからか、スイブンとロマンチックなヤツだなぁと思ってしまったよ。みんなそういうこと考えるんかねー。
 自分はさっと切り替えてしまう質なので、全く孝一に感情移入みたいなものがなかったですよ。多分自分だったら波子とくっつく自信があるし(笑)。
 あ、だから友人D君に「外道」とか言われるのか(笑)。えー?でもなー。フツー据え膳喰わぬは男の恥だよなー。
 まぁそんな種族外道としては、どうでもいーっちゃぁどーでもいー話ではあったな。ホントむしろ喜翆荘の方が気になります。


第24話 ラスボスは四十万スイ

分裂してしまいましたな。

 そんな今回のお話は…
 偶然にも東京で出会った緒花と孝一。
 突然のことに驚くふたりだったが、孝一はあらためて自分の気持ちを緒花に伝えようと、ゆっくりと話しだす。
 しかし孝一の気持ちを汲み取った緒花は、それを遮り、ぼんぼり祭に来て欲しいとお願いする……。
 喜翆荘に戻ってきた緒花と崇子を待ち受けていたのは、ひっきりなしに入る予約の電話だった。
 盛り上がる縁や巴だったが、スイは決心を変えるつもりはなく、これ以上の予約を取らないようにと言う。
 以上公式のあらすじ。

 お話としては、皐月が書いた記事が元で喜翆荘に予約がいっぱい入ってきたものの、スイは頑に喜翆荘を閉じるという決意を変えようとはしない。そんな折、スイは旦那の墓参りに緒花を連れて行き、自らの胸中を語る。
 よく分からないなりにスイの気持ちを理解した緒花であったが、それを知らない喜翆荘の面々とスイは対立してしまい、緒花は板挟みにあってしまうが……。という感じ。
 今回のメインはまぁスイの気持ちだろう。なんで喜翆荘を閉じるとか言い出したのかと思っていたが、今回それが語られた。
 スイを喜ばせるためとした旦那との夢であった喜翆荘、その為に皐月や縁を始め様々なものを犠牲にしたが、そんな自分の夢やしがらみにみんなを巻き込みたくないし、それでは喜翆荘もそこで働くみんなもダメなのだというのが大体の所なのだが、別にスイは嫌だから辞めるわけではないわけで。
 喜翆荘とそこで働くみんなが大切で、だから自分達の夢にとらわれてほしくないということは劇中語られる。対して従業員たちも喜翆荘が好きだから閉める事に反対しているわけで、結局両者の思いは根本として一緒なのだけど対立してしまっているというにっちもさっちもいかないような状況になってしまいました。
 どっちが悪いというわけでもなく、好きだからこそ対立してしまう。誰かをやり込めて「イエー!」という単純な話ではないのは上手い脚本だろう。  どうやって互いの気持ちを寄り合わせていくか、また喜翆荘は閉めてしまうのかしないのか。それだけでも十分興味を惹くが、さらに唯一スイの気持ちを知っている緒花がこの板挟み状態をどう打破していくかも見物である。
 なんかこの流れだと、このまま喜翆荘が続く事になりました、ではキレイに終われなくなってしまいましたねー。一体どうやってこの物語を締めようと言うんでしょうか?

 さて、個人的な所では、今回の小エピソード「流れ包丁鉄平」でしょうか(笑)。
 いやだって、民子が料理人を志すきっかけはなんだったのかこれまで語られなかったが、まさかマンガだったとは。しかも次郎丸が原作だもんねー。人生ってのは分からんもんですな(笑)。
 人生はともかく、喜翆荘がどうなるって時に挟まれるこのエピソードは、割とホッとしていいです。
 その他としましては、スイの入浴でしょうか。いや別に入浴シーンがどうこうではありません。これなんだったのかなーと思って。
 というのも、スイが入ってきたのをちょうど入浴中だった三人娘があんなにビビっていたのを見ると、スイがワザと三人が入っているのを狙っていたのかなーと思ってみていたんですけど、狙っていたとしても、特にそうする理由が無いですしねぇ。
 まぁ簡単に考えれば、スイが風呂に入った後は入る前よりもキレイになっている、というのを見せたかった。のだろう。それを踏まえて、スイが他の誰よりも喜翆荘の事を分かっている、知り尽くしている。という、三人娘との格の違いと、その域まで達している彼女がどうして閉めるなんて言い出すのか、を印象付けたかったのかなー。

 というわけで、残り2話でどうしてどうなってどう終わるのかを楽しみにしていきたい。
 孝一の事?いやだってもう、お互いがお互いの事知ったし、後はもうはっきりさせるだけなので特になんも無いよ。喜翆荘をどうするかの方が気になる。


第25話 私の好きな喜翆荘

「仕事」って難しいよねー。

 そんな今回のお話は…
 湯乃鷺温泉にある神社や湖では、ぼんぼり祭の準備が着々と進められていた。
 結名から渡された願い札を持って緒花が戻ると、縁をはじめ蓮二や徹、民子や菜子、巴たちが、いつもより多くのお客さんをどうやってもてなすかとバタバタしていた。
 それを見ていたスイは、半ば諦めつつも祭の日だけは、今まで通りのやり方でもてなすようにと告げる。
 スイ、電六を除く面々が一丸となって喜翆荘を盛り上げようとしている中、緒花はどこか違和感を覚えた。
 以上公式のあらすじ。

 お話としては、前半の喜翆荘を立て直したいと強く願う縁たちに、スイの気持ちをひとりしっている緒花が違和感を感じ乗り切れないというところから、本来の「みんなが好きな喜翆荘」ってどういうことなのかしら?ということへ繋げて、スイと皆のわだかまりのようなモノが消え、いつもの喜翆荘を取り戻す。といったような流れ。
 みんなの喜翆荘をなんとかしようという気持ちが強過ぎて、喜翆荘を閉めようとするスイに対抗し、それが逆に仇となってみんながこだわる喜翆荘でなくなってしまう。みんな喜翆荘を良くしようとしているはずなのに、それが上手く回らないのだ。
 緒花の違和感は多分それで、答えはスイが言った言葉に集約されているんだと思う。「旅館商売はお客様第一、自分達は二の次三の次。でもね、私はそれが楽しかったんだよ」みんながそういう気持ちだったからこそ、喜翆荘はみんなが好きな場所だったのではないだろうか。結論を先に言ってしまえばそんな感じである。
 お話としては、そこへみんなが行き着くまでを上手く描いており、何とか喜翆荘をもり立てようと奮戦するも衝突してしまったり、変わろうとする喜翆荘に変わってしまっては自分の好きな喜翆荘でなくなってしまうのではと悩んだりしながらも、巴の負傷とタイミング良く現れる緒花の母皐月の登場から、自然と皆が原点に返って先に述べた所へ繋がっていく。
 おもしろいのは、これまでなんかあった時に先頭に立って行動してきた緒花が特に何かをする事が無かったことだろう。
 巴が負傷し回せないとなった時、スイが仲居をやると言い出し皐月がやってきて、喜翆荘を閉める云々ではなく、お客様を満足させる為に自分達が出来る事、全員のそういう意識統一がなって誰かが特に先導してということなく本来の喜翆荘、みんなが好きな喜翆荘になっていくのが、前半でもめていたのを見ていた分、ひとつにまとまったチーム喜翆荘が実に気持ちがいい。

 個人的にはっとしたのは、緒花の「仕事って勝ち負けなんですか?そんなのおかしいですよ。お客さんに喜んでもらうことより女将さんに勝つことの方が大切なんですか?」の台詞。
 どんな仕事であれ、その先にお客がいれば客商売なわけですが、従業員全員がお客さんに喜んでもらうことを考えて仕事できるならこの上ない。が、実際の所なかなかそうはいかないものねー。仕事している身としては。
 従業員が多ければ多いほどそういう意識の統一は難しいし、お客との距離が遠い仕事になるとそういう意識もまた薄れるし。でも、緒花が言うようなことを意識してした仕事の方がおそらく良い仕事なんだと当然思う。
 若い頃(あーなんか自分で若い頃とか言うとアレだなー)、自分のことばっかり考えて仕事して失敗したことのある身としては、緒花はまだ17(だったっけ?)なのに随分立派だなーと思いましたよ。
 社会人になる頃にこのアニメを見ていたのなら、けっこう違う人生送っていたかもなー。なんてことを考えてしまいました。あーでも、その頃の自分はかなりアホだったんで(今もけっこうですが)、あんま変わんないかな。

 物語としては次回最終回で、喜翆荘閉める云々の話は、おそらく覆ることはなさそうで、最終的にどうこの物語を締めくくるのかを期待したい。


第26話 花咲くいつか

終わったようなこれから始まるような、そんな感じ。

 そんな今回のお話は…
 神社を目指して徐々に集まるぼんぼりの灯り。暗闇の中で輝くその灯は、空に輝く天の川のようにも見えた。
 初めて目にするその様子に感動する緒花。そのとき携帯電話に孝一からのメールが入る。
 人の流れに逆行して、慌てて駆け出すその手には、願いが書かれたのぞみ札が握られていた……。
 夜店をのぞいたり飾られたぼんぼりを眺めたりとそれぞれが祭を楽しみ、一夜の夢が終わる。
 緒花、民子、菜子、そして皆の新しい物語がここから始まる――。
 以上公式のあらすじ。

 お話としては、Aパートのぼんぼり祭りで孝ちゃんとの決着をつけ、Bパートで閉じることとなった喜翆荘とそこで働く皆さんの終わりからの始まりを描く。
 閉じることとなった喜翆荘だが、そこで終わりではなく、サブタイにあるようにいつか花咲く為の始まりであるような、明るい未来を予想させる気持ちの良い終わり方であった。そういう思いもあって冒頭の一文なのであります。
 今回のお話については、まぁここでグダグダと書くよりかは上記したことで十分のような気がしますので、個人的にという所を言うと、やはり喜翆荘の最後であろうか。
 誰もいなくなった喜翆荘の中をスイが見て回るシーン。誰もいないはずの喜翆荘を見て回るうちにスイはたくさんのお客がいて、豆じいを始め皆が働く姿の幻影を見る。その中を笑顔で歩くスイが最後に見た幻影がなくなった主人で、そこでスイの幻影は終わる。
 喜翆荘はその由来の通り喜翆荘であったし、その喜翆荘はその後のスイの「さよなら」の言葉で本当の終わったのだ。若かりし頃スイが夢みたことは叶い幕を閉じた。
 そこに感傷は無かったのだが、ぼんぼり祭りの願い札に「四十万スイになりたい」と書いた緒花が、最初にやらされたぞうきんがけをしていて、最後のお別れをしていたとの言葉を聞いたスイが涙を見せるのである。
 これまで何があっても毅然としていたスイであったが、孫が自分と同じように喜翆荘にお別れをしていたことで、彼女の感情が少しだけ溢れる様子と、それに全く気付かなかったであろう相変わらず空気の読めない緒花がステキだ。
 そして東京へ帰る緒花との別れ。良かったら業務日誌を緒花に引き継いで欲しいと託すスイ。彼女の喜翆荘は終わったが、またいつかきっと新しい喜翆荘が始まり、それはこれまでのスイが喜ぶ喜翆荘ではなく、彼女を含めそこで働いていたみんなが喜ぶ喜翆荘。そんな喜翆荘をみんなが作るのを、去り行く電車を見送りながら「待ってるよ」とつぶやくスイにとっても、そこへ向ってそれぞれ歩き出したみんなと同じようにまた始まりなのである。
 物語は終わったが、劇中の彼らはここからまた始まっていき、この物語のタイトル通り花咲く為のいろはであったように思います。

 さて、最後なので全体的な感想としては、P.Aお得意の群像劇はやっぱり今回も良く出来ていたと言える。
 印象としてはNHKの朝ドラの様で、どうもそれは狙ってやったみたいなことが何かに書いてあったが、この物語が実際に朝ドラでやったとしてもきっと遜色ないだろう見事なシナリオだったように思うし、狙ってやってることが狙い通りになったのだから見事と言わざるを得ない。
 物語としては、最初はちょっとイラッと来る主人公松前緒花が、回を重ねていくうちに成長し、いつの間にか見ていて気持ちの良い人物になっていく気持ち良さがある。何かに一所懸命になっている人を見ていると自分もそうありたいと思うしそう思わせてくれた。
 そういう点でこの物語に切り離せないものとして「仕事」がある。最初、何もなかった緒花が「仲居」という仕事に夢中になっていくわけだが、まぁ正直に言うと、緒花のように仕事できることが理想である。実際そんな仕事ラブな人はけっこう会社で浮いてしまうような気がしますが、でもあれだけ一所懸命にやれるんならきっと気持ちがよかろうと思う。
 「仕事」をするってどういうことか、特に1、2話あたりは仕事の「し」の字も知らない緒花が見事な反面教師で示してくれ、仕事し始めの自分を見ているようで何とも言えない気分になります。が、そこからの緒花のぼんぼりは、業種は違えど同じ「仕事」をしている身として見ていて気持ちがよい。  キャラクターとしては、何はなくともやはりスイだろう。彼女がいないとこの物語は回らない、と言って良いくらい見事な存在感だ。
 実際こんな人がいたらきっと怖いんだろうと思うのだけど、彼女のすること言うことは、いちいち間違いがなく見ていて納得してしまう。あれだけ厳しい人ではあるんだけど、そういうこともありスイを嫌いにはなれないし、ただ厳しいというだけでなく、喜翆荘の閉じる理由「自分の夢に皆をこれ以上縛らせたくない」という思慮深さもあり、惚れ惚れするような見事なキャラクターであった。今期のアニメの中でこれ以上の良いキャラクターはいないと自分では思っている。
 正直な所、感想としては別に世界の運命をめぐる大事件が勃発するわけでもなく、主人公が何かの謎に挑むわけでもなし、湯乃鷺という土地にある人々の生活を描いているだけなんで、書きにくいったらなかったのですが、その悪く言えばなんでもない日常の話をここまで楽しく見続けさせるんだから見事な物語と言って差し支えない。2クール分の時間を割いて見てもなんら問題ないだろう。昨今不調と言われるTVドラマもこれくらいの物語を作れれば大ヒットするんじゃないかと思う。それはどーでもいーか(笑)。
 ともかく、全26話、十二分に楽しませていただいた。これから仕事とする新社会人とか仕事しはじめたような人に見てもらいたいなー。もちろんそれ以外の人にもお勧めできるアニメだったんじゃないかと思います。

 メディアもこういうアニメを取り上げてくれれば、アニメの一般的な評価もまた変わってくるんじゃないかなーとは思うんだけど……ま、なかなかねぇ。


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