ボールを見るとは

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まえがき

ミスショットをした時等、よく、『しっかりボールを見てから打て!!』と横やりが入ったり、自分でも『ボールが見えないな、どうしたら見えるんだろう』等と思ったことはありませんか?。
実は、長年ミニテニスをやっている私も未だに良く見えていません。
そこで、どうしたら見えるようになるのかと思い、見える仕組みから解決策を調べてみました。

そもそも飛んでくるボールを打つとはどういうこと?

ボールが見えるとは

人がボールを見る時、目に入った視覚情報は、一般的に、0.05~0.1秒遅れて脳に届いてからしかボールと視認できないので、今見たボールは0.05~0.1秒前の過去のボールであります。
ボールを見た時のボールの視覚情報は、水晶から網膜に届き、それから視神経と伝達経路を通じて脳に運ばれ、そこで、初めてボールの形状と位置を視認できる事になります。
ボールに目を向けてからボールが見えたと視認するまでには一般的に、
 ・20代で0.071秒
 ・50代で0.083秒
程の時間差があると言われている。
この時間差は、時速100kmのボールの飛翔距離に直すと、2、2.3mになりますので、その時に見たボールは実は、その地点より既に2、2.3m通り過ぎた過去のボールを見ていることになる。
動くものを追従する眼球は、一秒間に16~20回、周期にして0.05~0.0625秒の頻度であるいは、時速100kmのボールの飛翔距離にして、1.7m~2.2m毎に、ボールの動きに追従していることになります。
このことはボールは断続的にしか見えないことになりますが、人の目には前に見た画像を引きずる時間残像があって、その残像時間は約0.05~0.1秒であります。
この残像時間は眼球の動く周期0.05~0.0625秒より長いから、ボールは連続して飛んでいるように見える。
例えば、「パラパラめくり」で、めくる速度をあります速度以上に上げると、静止画像が動画に見えるのと同じであります。

動くボールの見方

『ボールの動きをよく見ろ?』と言うのは、”ボールを固視(注視)しろ”と言うことではありません。
ボールを固視すると言うことはボールを網膜中心窩に結ぶと言うことであり、眼球の動きは止まってしまい、固視点を中心に30°以内の中心視野の解像度が上がって良く見えるようになりますが、逆に、物の動きに対しては感度は下がります。
それに対し、中心視野以外の周辺視野は解像度こそ低くボケて見えますが、物の動きに対しては感度が良くなります。従って、スポーツで大事なのは中心視野より周辺視野だともいわれています。
つまり、ボールを固視せずにキョロキョロ眼球を動かしていた方が動体は良く見える言うことになります。実際、固視せずに視線(眼球)を動かしていた方がボールのコースを予測する的中率が高いとの実験結果もあります。
ボールをよく見てる選手として定評のある、グランドスラム20勝を誇るプロテニスプレーヤーのロジャー・フェデラーがいます。
彼の眼はボールを打った後でも暫く残っています。
彼は、どのように見ているかを調べると、次のことが見て取れます。
 ①素早くボールの方向に頭(目)を向ける。
 ②視線をボールに合わせる。この段階でボールの軌道を予測していると思われる。
 ③ミートする前に目を細める。目を細めると余分な視覚情報が制限されて集中しやすくなるからと思われる。
  尚、近視の人は目を細めることで光の量が絞られることで被写界深度が深まって見やすくなります。
 ④ミートした瞬間に目を瞬く。瞬いた瞬間の外部からの視覚情報に瞬時(0.04秒)に感度よく反応できるからか。

速いボールを打てる理由

前項で説明したように、ボールが見えてから視覚野の神経系が反応するまでには0.05~0.1秒の時間がかかり、それから運動野の神経系が反応するまでにはこれまでを含めて、0.3秒の時間がかかる。更にこの時間に加え、手足や体を動かすのに0.2~0.3秒かかるので、ボールを見てから体が動くまでに、0.5~0.6秒程の時間を要することになる。
この反応時間で、ピッチャーの投げる時速150kmのボールをバッターが打てるかどうかを試算してみると、ピッチャーの投げたボールがホームベースを通過するまでの時間の0.44秒は、バッターの反応時間の0.5~0.6秒より短い。
従って、時間的には、バッターは空振りすることになるのだが、実際は、打っているバッターは多いし、更に速い時速160kmのボールを打っているバッターもいる。
そんな速いボールを打てるのは、プロ野球選手が普通の人より、静止視力や動体視力で勝っているからかと思われるのだが、それを裏付けるデーターはないし、プロ野球の選手の視力は普通の人と遜色ない。
では、なぜかと言うことになるのだが、それは、次の理由からだと思われる。
 ①*3潜在的脳機能で視覚情報が脳に届いてからなされる脳の指令より速く体が自動的に反応できる
 ②ボールの軌道予測をしているから。予測が当たるとバッターは、ボールが止まって見えたと言う発言になります。
  *3:潜在的脳機能とは、0.05~0.0625秒の周期性を持つ追従眼球運動
以上、野球を例にとったが、ミニテニスでも同様だと思われる。
スローボールであれば目で追って打てる可能性はありますが、速いボールには目がついていかない。従って、早いボールには、ボールの回転方向や軌道、あるいはバウンドした位置からボールの飛んでくる位置等を予測をし、予測したところに視線を合わせて待ち構えればボールを見ることができ、且つ、見えたボールにラケットを合わせることができると思われる。

プロテニス選手選手の反応時間

世界に名だたるテニスプレーヤーであります、ボリス・ベッカー、イワン・レンドル、ジョン・マッケンロー、クリス・ルイスの1983、1986に行われたウインブルドン選手権の決勝戦のビデオ映像から、相対サーブ速度(S.S)、レシーバーの反応時間(R・T)、レシーブのスイング時間(S・T)をもとに求める。
そうすると、レシーバーの反応時間(R・T)とスイング時間(S・T)を加えた、返球に要する時間(R・T+S・T)は、ボリスベッカーの0.65秒、イワンレンドルの0.64秒になります。
この時間は奇しくも、ボリスベッカーとイワンレンドルの相対サーブ速度(S・S)と同じになります。
試合を有利に進めるうえで、これらの返球に要する時間より短くなる、速いサーブをすればエースを取りやすくなります。そこで、そのサーブのスピードを計算すると、ボリスベッカーは時速で*1148km、イワンレンドルで150kmになる。
ボリスベッカーとイワンレンドルの対戦から、相対サーブ速度とエース比率の相関を見ると次の結果になっている。
 ①ボリスベッカーのイワンレンドルに対する相対サーブ速度0.65秒(時速148km)時のサーブのエース比率は50%
 ②イワンレンドルのボリスベッカーに対する相対サーブ速度0.64秒(時速150km)時のサーブのエース比率は46%
以上から、両者のサービススピードより速いサーブをすればノータッチエースの取れる確率が上がる可能性があります。
以上の結果をミニテニスに当てはめるとどうなるかと言うと、返球に要する時間0.64秒は、時速で言うと*275km以上になります。これ以上のサーブをすればノータッチエースを取りやすくなります。
 *1:サーヒ゛スはベースライン間際から、レシーバーはベースラインより3m程下がった26.77mところでレシーブした時の平均球速
 *2:サーヒ゛スはベースライン間際から、レシーブはベースライン上でした時の球速
以下、用語説明。
 A:サーブのインパクトの瞬間 B:レシーバーが足を踏み出し膝を曲げる瞬間 C:レシーバーのインパクトの瞬間
 ・相対サーブ速度(S・S)=C-A 
 ・レシーバーの反応時間(R・T)=B-A
 ・レシーバーのスイング時間(S・T)=C-B

表1:1stサーブ時のS・S、R・T、S・T
N(回数) S・S(秒) R・T(秒) S・T(秒)
氏名 平均値 偏差(σ) 平均値 偏差(σ) 平均値 偏差(σ)
ボリス・ベッカー 50 0.65 0.05 0.31 0.05 0.34 0.08
イワン・レンドル 37 0.64 0.04 0.29 0.05 0.35 0.05
ジョン・マッケンロー 31 0.77 0.06 0.35 0.06 0.41 0.07
クリス・ルイス 42 0.72 0.04 0.31 0.06 0.41 0.06

出典:九州大学医療技術短期大学紀要.15、pp47-53、1988-03-28 九州大学医療技術短期大学部バージョン

二つの視覚回路

我々の目の角膜から水晶体を通って網膜で捉えられた視覚情報は外側膝状態から後頭葉の一時視覚野(V1)へと伝えられる。その後、二次視覚野に至ると側頭葉へと向かう視覚経路(腹側視覚経路)と、後頭葉へと向かう視覚経路(背側視覚経路)に分岐する。
腹側視覚経路は、主に外界の物体の形状を認識する(What経路)。
背側視覚経路は、物体の位置を知ること、あるいは、その物体に対して正確に手を伸ばすなどの動作に決定的な役割を果たす(Where経路、How経路)。
この経路の中でスポーツを行う上で大事なのは背側視覚経路で処理する機能でありますが、
 ・対象の動きに応じた体の動きを生成する視覚
と、
 ・「対象が動いて見えた」という意識を生成するための視覚はまた分かれている
身体の動きを生成する視覚に追従性運動(潜在的脳機能)があります。
追従性運動とは、ターゲットの背景が動くとターゲットを指している指がつられて動く(非随意運動)現象であり、この指の動きは背景が動き始めて0.1秒もかからない。
追従性運動は、背景のパターンが荒くて素早く動く方がつられやすく、細かいパターンの背景がゆっくり動く場合はつられ難い。
これに対し、点灯したらボタンを押す時間(随意運動)は0.1~0.25秒かかる。
以上のことから、次のことが言える。
 ・*4中心視は空間的な解像度は高いけれど動きに対する感度は低い
 ・*5周辺視は、ボケているけど動きに対して感度は高く敏感
 ・スポーツで大事なのは中心視より周辺視
 *4:中心視野とは、物の形や色などがはっきりと認識できる範囲で2~4°と狭小であり、その周りの必要なものを認識できる有効
   視野を含めると70°。有効視野は、速いものや注意を引く物を見ると極端に狭くなります
 *5:周辺視野とは中心視野まわりの視野で中心視野の70°を含めて200°を占め、形や色などをはっきりと認識できない。

競技種目別視覚機能重要度スコア

AOA(米国オプトメトリスト協会)の資料を紹介する。スコアは1→5になるに従い重要度を増す。
テニスは野球の打撃と同じく最高の視覚機能を必要とするスポーツであります。
以下、用語説明。
 ・静止視力:小さな目標をはっきり見る力。ランドルト環(C)の隙間を見分ける視力
 ・動体視力:真っ直ぐ自分に近づいてくるものを見るKVA動体視力と上下左右に動くものを見るDVA動体視力
 ・眼球運動:止まっている何個かの目標に素早く焦点を合わせる力
 ・深視力:距離感を認識する力
 ・瞬間視:ぱっと目に映った光景を認識する力
 ・眼と手/足の協調性:目で見た物に素早く反応する力

競技種目 静止視力 動体視力 眼球運動 深視力 瞬間視 眼と手/足
の協調性
野球(打撃) 4 5 5 5 5 5
野球(投球) 3 2 3 3 1 4
バスケットボール 3 3 4 5 5 5
ボクシング 2 2 5 3 5 5
ゴルフ 3 1 4 5 1 5
ランニング 1 1 2 1 3 1
サッカー 3 4 5 5 5 5
水泳 1 1 1 1 3 1
テニス 4 5 5 5 5 5
レスリング 2 1 1 2 5 3

DVA動体視力と年齢

DVA(Dynamic Visual Acuity)動体視力は、上下左右に動くものを見る視力のことで、加齢するに従い低下していく。
最高点(55点)の20、30歳の視力に対し、70歳以上では約27%の15点以下に、90歳では18%の10点に下がる。

年齢 10歳 20歳 30歳 40歳 50歳 60歳 70歳 80歳 90歳
DVA動体視力(点) 40点 55点 55点 50点 40点 25点 15点 12点 10点

KVA動体視力と球速

KVA(Kinetic Visual Acuity)動体視力とは、自分の方にまっすぐ飛んでくるボールを見る視力のことで、ボールの球速が早くなるに従いKVA動体視力は低下する。具体的には次の通り。
 ・時速30kmで近づく物を見る視力は静止視力の60~70%に低下する
 ・時速100kmで近づく物を見る視力は静止視力の50%に低下する
 ・普通の人が60%に低下するところが野球選手はその90%の54%の低下で済む

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