(その1) |
その1 | 推薦の言葉 | 鎌田道海 |
その1 | 実話集刊行に際して | 妹尾武俊 |
その2 | 無双直伝英信流の変遷に就いて | 政岡壱実先生 |
その3 | 大江正路先生に師事中最も注意せられし点 | 山本晴介先生 |
その3 | 大江正路先生の指導要諦 | 森 繁樹先生 |
その3 | 無双直伝英信流の谷村派と下村派に就いて | 山本宅治先生 |
その3 | 大江正路先生の特技を忍んで並びに総評 | 福井春政先生 |
無雙直伝英信流十七代宗家 大江正路先生
(明治39年<54歳>旧制中学卒業記念写真による)
四国連合居合道研究会会長
鎌 田 道 海
一芸に秀でることは、誠に容易ならぬ試錬を経てはじめて得られるものであります。私も学生時代から武道に対して大きな関心をいだき少なからずこの道にも心得をもつておりますが誠に容易ならざることを痛感いたしておる次第でございます。そうしてこの度び「四国連合居合道研究会」の会長に推挙されまして、居合道に精進されておられる同好者の皆さまと御交誼願う様になりましたことは、心からの喜ぴと感じております。
近来、世想の変遷と共に武道と呼ばれているものの多くが近代的にスポーツ化されておりますが、それも亦一つの方法であり、歩まねぱならぬ道でありましよう。しかし、居合道のみは、先賢の苦心して案出した昔ながらの姿のままで現存しております。こうして日本の伝統の中にしつかり根をおろし、古来の姿をそのまま受けついでいる姿は誠に立派であり、それだけに巌しさを伴っていることでありましょう。
居合道の真髄は一瞬に弊敵のために、気、剣、体を一丸とした体当りの初発刀にあるといわれますが、この一太刀のための日夜精魂をかたむけて努力精進され、錬磨されていられる同好者の皆さまの熱情は誠に尊敬してあまりあるものと存じております
そして今般無隻直伝英信流第十七代大江正路先生の「実話」が刊行され同好者の皆様の掌中にわたることは、この上なき有意義な事と存じます。
今後ともこの居合道のもつ高遠なる理想を深く心に銘記されまして、ますます御精進され、また後進者の指導に一層の御尽力を賜ります様念願いたしまして、本書の推薦の言葉といたします。
四国連合居合道研究会理事長
妹尾 武俊
去る昭和三十六年七月九日に四国連合居合道研究会が生れました。而して、昭和三十六年十一月三日第一回研究会を香川県高松市に於て盛大に挙行されました。共の際研究題材の内に「無雙直伝英信流第十七代大江正路先生の実話」として一課目を作りました。抑々、長谷川英信流は、今日で宗家二十代を算しますが、第十六代迄は県外不出として永らく高知県にのみ伝つていたものです、元来剣道は明治大正と其の隆盛を極めましたが、居合道は何故か取り残されたる感がありました、終戦当時迄の毎年五月京都本部で開催された、大日本武徳会の演武大会を観ても居合道演武は大会第一日の各種武道形の中で二時間位を費され範士称号は中山博道橋本統暢両先生だけであり剣道の高段者の先生方は無関心であつた様であります。若し現在の如く範士の数を数える様であれば明日の居合道は誠に隆盛を極めることでありませう。
大江先生は、居合は唯一の国技であり真の人間錬成は居合道にありと絶叫されて、これを全国に普及すべきであると歴代門外不出の格を破つてこれが普及と伝承に一身を捧げられました為に今日の隆昌となつたのであります。
誠に大江正路先生は長谷川英信流の中興の宗家であります総ての技術は卓越している指導者に依つてその隆盛を見るのであつて居合道亦然りであります。唯一の名人中山博道範士の存在せし関東地方が今尚、日本の中枢をなす隆盛は当然の事であると存じます。しかし、中山博道範士は無雙直伝英信流下村派を修得され、更に中山範士独特の秘法を加えられて、居合術を編成された次第であります。これが即ち「無雙神伝抜刀術」として公開伝布されました故に高知に伝わる「無雙直伝英信流」とは異つている次第であります。しかし、一般には「英信流」と呼んで同一のものと考えていられる様であります。
今日、全国の「英信流」を観る時、宗家より伝承された「英信流」と大半これを基礎とされた「神伝抜刀術」と「英信流」と「神伝抜刀術」との混交されたるものの三様と加うるに此の三様が変形されたるもの等、同じ「英信流」と雖もかかる様々なる容態下に在るのが一般に唱えている「英信流」の今日の実情であります。
厳密に居合道の技法を観る時、同一人の技法であつても共の人の年令(青年期、壮年、老後等)環境等によつて変化がある事は常道であります。况や多数の同好者が出来れば出来る程、又、長き歳月を経れば経るほどその変化が著しくなるは当然の理であります。即ち現在の「無雙直伝英信流」の様相もこの例外に出るものではないのであります故に、今日同流の修得者は出来得る限り宗家をさかのぼつて研究する要があると存じます。幸に、吾が四国には第十七代大江正路先生に直接教授にあづかつた直門の方々が今尚御健在、否むしろ自から範を垂れ、これが流布に専念されつつあります。即ち森繁樹(愛媛県松山市)福井春政、山本晴介、山本宅治、政岡壱実(各々高知市)の五先生方であります。
故に四国の居合道人はこぞつて、大江正治先生の技法とその真諦を修得したい為に第一回研究会を機にこれら五先生に各々課題に就いて実話の御発表を願つたのでありますが、何分にも研究課目が他にもありますので大体一人十分間の持時間でお願いしたので何か物足りない感がありましたが、かかる得難き発表なるが故に井下経広、岩田憲一両氏によりテープコーダーに収録致しました。この録音は無隻直伝英信流を修得せんとする者には誠に天下の至宝であると存じましたので記録して一冊子とし会員諸君は固より「無雙直伝英信流」を履得される一般同好者にも頒巾致したくこの冊子を作製した次第であります。茲に編纂に当り斉藤(高知)井下、岩田三理事の御尽力を謝し又、最も得難き巻頭の第十七代宗家大江正路先生の肖像を提出されました森繁樹先生、片山武彦氏の御協力を感謝致します
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